164.捕獲してみよう
「で、熊ってどんな見た目なの?」
「えーと、大きくて、耳が付いてて、はちみつと
サーモンが好きで、肉球がついてて、いつも
本を持ってて、改造されてて、元七武海で
口癖が」
「ミ子、それ熊ちゃう。バーソロミューや」
そんなん近所の山にいてたまるか。それこそ
会長の罠どころの話じゃない。罠に覇気まとわす
しか捕獲する手段がないだろ。
「にしてもいつ狩猟免許なんか持ってたんですか」
「あぁ、ちょうど18歳になったときにね。あまり
使わないかなぁと思いつつも、物は試しにと
勉強してたんだよ」
「え、確かに会長は3年生ですがまだ春だし
17じゃn」
「しー、ナイショ」
まぁ、フィクションだから許してと付け足した。
まさか、狩猟免許を所得するために必要な条件
(18歳以上)を作者が完全に忘れていたなんて
いうまい。会長曰く猟銃は20歳が条件なのだとか。
多分、一生使うことのない知識だな。
「それってどこで手に入れるんですか。そこらの
ホームセンターで売ってるなんてわけじゃなさ
そうですけど」
「まぁねぇ、普通に売ってたらびっくりするよね
けど、ネット使ったら結構簡単に手に入るよ。
当然だけど、値は張るけどね」
罠の見た目はよくある、ネズミ捕りのような
ものなのだが、ネズミを捕るにしてはでかい。
どうやら踏んだらワイヤーのようなひもが足に絡まり、
そのまま動けなくなるといった代物のよう。
「くくり罠だね」
「しかし、そんな簡素なもの使うのにも免許が
必要なんですね」
「やってることはどうしても"動物虐待"でしか
ないからね」
生き物に罪はない。
そこに住んだ人が悪い。
よく言われるセリフだ。
「麻酔とか散弾銃とか持ってみたいよねー」
「……」
「あれ? 思わない?」
「いや、怖いっす」
なぜ会長を呼んだのかの話に戻るのだが、ミコが
熊の話をしたときに偶然にも会長がいて、偶然にも
狩猟免許を持っていたからだそう。ミコも本当に
運を持っているな。俺自身、まさか身近な人物が
狩猟の免許を持っているなんて思ってなどなかった。
それを思うと、芸能人が持っている意外な免許や
資格なんてものは、ほんとうに一握りでしか知られて
いなくて、もっと探せばもっとすごい人がいるかもな。
最近、ク〇ちゃんがアロマの資格持ってるって
知ったぐらいだし。
散弾銃や麻酔について会長は少し付け足す。確かに
持ってみたいが、あくまで持ってみたいだけで、
動物相手に使うことはしたくないらしい。やはり
そこまでくると"虐待"のラインを超えるからであり、
当方、狩猟免許=銃を持てる程度の知識しかない。
価値観の違いや知識の違いを知らされるこれはこれで
よい話を聞いたかもな。
俺は会長と山中を歩いている。
義堂は単独行動。熊がいる山を一人のこのこ歩く
なんて、なんともなめたことをしているが義堂なら
大丈夫だろ。罠よりも優秀な「野生の勘」がある。
勝手に目の前からいなくなっただけだけど。
といっても、俺らもなんも用意らしい用意をした
わけではないため、「なめたこと」と揶揄するには
わが身を振り返ってから言うべきだったな。
問題の依頼主であるミコは所用で別の場所を待機
するとのこと。まぁ、仮に捕まえましたとなったら
どこに逃がすとかが大事になってくるからな。
「それで、その罠を置く場所ってどこがいいん
ですかね?」
「ぶっちゃけ適当。けどだいたいは痕跡がある場所に
置きたいなとは思ってる」
あればもう置いている。ということはまだ
熊がいるという雰囲気はないのか。
というかほんとうにいるんか熊なんて?
と、疑いかかったがそういえばクリスマスに
マヤからその手の話を聞いていたな、確か。
マヤがうわさに振り回されてべらぼうに言ってる
だけかもしれないが、何分特にそれらしい様子が
この山からは感じない。
俺自身、その手のプロと名乗るとは程遠いが
少なからずちょこまかと遠方でキツネなりタヌキ
なりの小動物がうろついているのが見えるぐらい。
その中に熊が混ざっていたとは思えないし。
「そういえば毎年、どうしてたんですかね」
「ん? どうしていたとは?」
「いえ、俺たち「異能部」に退治依頼をしたのが
今回なんでしょうが、去年であったりと毎年
どうやってたんですかね?」
「さぁね。けど、予想だけど御前のおじいさんが
僕と同じ資格を持ってる可能性が高いかな」
……十分にあり得る。あの剛隆氏なら持ち
かねない。一瞬でも、あー持ってそうとなったから
確実に持ってるに一票かける。
「もういいところ歩いたけれど、ほんとに
いないね」
「熊ってそんなにたくさんいるわけじゃないでしょう」
「時と場合によるけど、さすがにこれ以上山に
滞在すると危ない気がするからいったんここで
罠を張ってみようか」
会長はさっと罠をセッティングする。手際がいい。
さすがは資格持ち、罠のセットをスマートにする試験が
あるとは思えないが。
「これでいったん戻って」
「あれ、そういえば義堂はどうしました? アイツ
多分、集合時間伝えたとはいえ時計見てないっすよ」
「あーそれはあり得る」
見てない、どころか持っているかも危うい。
あ、携帯持ってるからその心配はいらないか。
「大声で呼ぶのは、動物を刺激しかねないから
やめておいて……」
「刺激したらダメなんですか?」
「それで熊来たらどうするのさ」
確かに。
けど、そんな必要はなさそうだ。
「あ、いたいた」
「え、見えるんですか?」
「ほら、あそこ」
あ、ほんとだ。人型の影が木々の向こうの
奥の奥の奥に見える。
「おーーーい、ぎどーーーーー」
「あ、ちょっと刺激しないって話だったでしょ!」
「見えてる人間呼んでるだけですから」
「あ”? どうしたうっせぇな」
「お、来た来た」
「はぁ? 来たって?」
とりあえず3人合流。ミコには熊らしい熊は
見ていない、それと罠をセットだけはしたから
しばらくしてから確認してみる旨を伝えた。
……と、その前に。
「義堂、さすがに早くないか?」
「何がだよ」
「さっきあそこにいただろ? あの木と木の
間の奥のおくーーーの奥」
「いや、ずっと後ろにいたぜ」
「「……」」
「え、別れて行動してたんじゃないのか?」
「馬鹿か、ここは山だぜ? ミコのいる山とは
いえ、一人でうろつくなんてヤベェこと
できるかよ」
そうか、野生の勘は働くがその勘がダメだと
言えばそりゃ単独行動なんざやってられんよな。
「じゃあミコかな?」
「あん怖がりが一人で、んな場所にいれるわけが
ねぇだろうが」
「確かに」
なら害獣駆除の業者か、もっと別のそれこそ
山の奥で何かをする例えば……
「自〇」
「野〇」
「ホームレスか」
「会長それ書けないっす」
「神前君のも書けてないじゃん」
「"書けない"のジャンルが違うんですよ」
健全な思考で行きたいんだわ。俺も人のことは
言えないが、会長よりかはまだ考えうる
ましな発想だろ。想像はしたくはないが。
実際、呼んでからはもうその場にはいない。
だからこそ義堂がこちらに来たものかと思って
いたが、当の本人は背中にいたのだという。
「会長、じゃああれ誰なんすかね」
「うーん、罠の関係でうろつくのは危ないから
できれば注意して」
「「……へっ」」
「注意して」からのセリフが途絶えたことに
気が付くのに、俺はあまりの出来事に遅れた。
目の前から会長がいない??!
「会長、どこn」
「アブネェ、神前!!!!」
ガッ!! 義堂が俺を思い切り地面に叩き
つけた。イタイと言ってられない。その行動が
「伏せろ」という意味を持っていることは
鈍くてもわかる。
「何何何何!???」
「馬鹿! 熊なら死んだふりしろ!!」
「なら、しゃべるなよ!」
死人に口なしだろ。
「なんで会長がいなくなったんだ……?」
「わからねぇ。今はどうにかして熊かどうか
知らねぇが、そいつを刺激しねぇように」
「あ」
義堂もいなくなった!? 何何何何!!??
何が起きてるんだよ!! さっきの人間が何か
しているとしたらめちゃくちゃ怖いんだが!
「…………」
「?」
誰かがしゃべっている。義堂でも会長でもない。
ましてや、ミコでもない。聞いたことのない声だ。
だが、俺は「誰だ」とは聞かない。何者かを聞く
べきではないと俺の勘が言っている。野生の勘が
そう言っているのだ。
だが、仮に熊だとしたら死んだふりのままの
体制は逆効果だというのはどこかで聞いたことある。
俺は状態を起こして、その声の主に目をやる。
「……スゥーーーーー」
その姿を見た俺は、さっきからしゃべっていた
セリフの意味と、それが何を意味しているかを
すべて理解した。
「……的を射ている」
その姿は、無表情で、熊の耳を持っていて、
人型にしては巨漢で、
片手に聖書を持っていて、
世界で一番売れてる海賊マンガで見て、
元王家七武海の一人として麦わら帽子の
主人公たちとシャボン〇ィ諸島でバトルした
あの……
『で、熊ってどんな見た目なの?』
『えーと、大きくて、耳が付いてて、はちみつと
サーモンが好きで、肉球がついてて、いつも
本を持ってて、改造されてて、元七武海で
口癖が』
「的を射ている」
って、ほんとにバーソロミューのほうの
くまじゃねーーかーーー!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
バヒュン




