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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
世界で一番忙しい一日
163/446

162.相席しよう

「やぁ」

「……」


 今、俺がいるここは某有名ファストフードの

テーブル席。いまだにファストなのかファースト

なのかが定まっていないのはすっきりとしない。


 俺はそこで軽めの食事をしようと思い立ち、

ハンバーガーとポテト、ドリンクのセットを

頼んだ次第である。しかしポテトとドリンクは

ファストと名乗るだけすぐに出てきたが、

ハンバーガーだけはレイトだった。


 これに関してクレームを叩きつける気は

ないし、悪いのはどちらかといえば俺のほうだ。

よくわからないまま、春限定のメニューだからと

長文の枕詞が付いたハンバーガーを注文した

結果、どうやら今から作ると言われてしまった。


 やはり季節限定というのは人気なものなのか。

慣れたものを食べたほうが自分からしてみると

感想もなく美味と言えると思うのはねじれに

ねじれた俺独特の考えなんだろうな。


 そうして、番号札をテーブルに立てて

待っていた中、ハンバーガーを持った店員

ではなく、コーヒーとマフィンを持った

俺がよく知る人物が来たのだった。


「偶然だねぇ。相席しても?」

「本当に偶然ですか、会長」

「偶然だよ、グウゼン。狙って来たとしても

 神前君は何も思わないでしょ」

「そうですけど」


 コーヒーはブラック派の会長だった。


「で、何ですか?」

「神前君、顔に出てるよ」

「え、何がですか?」

「「顔も見たくない」と言ってたのになんで

 こんな場所に来たんだよ! って顔。まったく

 いつもわかりやすいよね」

「……」


 事実その通り。副会長、改め加賀音の関係で

会長とひと悶着があったことは記憶に新しい。

その中で、俺に面向かって排斥宣言をしたまで

俺との間に溝ができてしまっていた。


 ……はずだ。


 それに、俺の知る限り会長は自分の発言を撤回

するようなタチの人ではない。言葉として残した

ものは曲げることは到底しない。


「到底はしないよ確かに。けど事情が事情だからね」

「事情って……まぁ、わかりますよ。副会長の

 ことですよね」

「そう。一応、六郷君は私の大事な部下で私の

 右腕として活動している人物だ。今でもね。

 そんな彼女が別の部活に所属するとなれば、私も

 重い腰を動かすしかないでしょうって話さ。

 

  そこに、私が顔を合わせたくない人物が

 いようがいまいが関係はないさ。ここでの主題は

 六郷君なのだから、僕自身の感情論なんてものは

 ここで披露するには、おかどが違うってもの」

「つまり、よろしくということですか」

「そう、それだけ」


 偶然、相席したわけではないな、これは。

と言っても、だいたいわかってはいたが。


「だから、どうにも六郷君と仲良くしてそうな人

 つまり、神前君に挨拶をといったわけだ」

「部長が優先じゃないですか?」

「御前君には先にしてあるからねぇ、入部報告

 という名目ではあるものの」


 俺はそっと、ポテトを差し出す。


「あ、どーも。いい後輩を持ったものだ」

「一応、うちのお得意様ですから」

「これからもっと関りが大きくなりそうだから

 今のうちにもっと媚びへつらってもいいん

 だよ、神前後輩。お、限定のハンバーガーを

 頼んでいるんだよねぇ確か?」

「それはライン超えてます」

「わかってますよ、さすがにこれ以上は会長の

 名前に傷をつけかねないから」


 と言ってる最中、例のハンバーガーが席に

届けられた。いつの間にか店員が番号札と

ハンバーガーを入れ替えてくれていたらしい。


 マジックなら喝采ものだ。


「何味なのそれ」

「わかんないっす。えぇ、ナニコレ……」


 一応見た目はハンバーガーだ。包みを開けた

時に見えるバンズとハンバーグのサンドイッチは

相変わらず。


 ただよくわからないものが挟まっている。


「ピンク色だけど、紅ショウガ?」

「いや、桜モチーフなので桜味かもしれません」

「桜味って何味?」


 サクラモチの味、と言おうとしたが、それはもう

シソとアンの味になってしまう。どう表現しようか。


「とりあえず食べてみますか」


 がっつく。ハンバーガーほどオシャレに食べれない

食べ物はないと思っている。ルマ〇ドと対張れる。


「どう?」

「……うん、うまいっすね」

「えーそうなのか。で、何なのそれ」

「…………わからん」


 うまいから、まぁヨシとしよう。


 閑話休題。


「それでどうしたんですか、どうせ何か言いたくて

 ここに来たんでしょう。まさかご挨拶のために

 相席をするタマではないし」

「そうだね、じゃあ挨拶は置いといて少しばかり

 本音を話すことにするよ」


 会長は無駄にイギリス基調な椅子に正す。


「負けだよ」

「……」

「……」

「……え」

「そう、負けだよ僕の。君の勝ちだ」


 はいぃ? 俺と会長は何か賭け事でもしてた

のだったか? 少なくとも俺にその記憶はない。


「負けって、何に負けたんですか」

「それは当然、神前君、君にだよ」

「いやそれがよくわからないんですよ」

「……まぁそうなるよね。ぶっちゃけ僕が勝手に

 敵対視していただけと言われちゃえばその通り

 だから」


 敵対視されるようなことはあったが、それが

戦いにまで話題が膨らんでいる。しかも、俺が

知らなくて、会長が知っているところで。


「……今回の副会長の話に関しては、それこそ

 会長はお門違いですよ。勝負にもなっていない。

 だから勝ち負けで判断できるほどの物事は

 一切何もありませんって」

「いいや、あっただろう? それもあの日に

 君に伝えてある」

「え」


「僕が負けたのは「救う」ことだよ、それを君は

 平然とやってのけた。だから私の負け。


  覚えているだろ。君に僕は人の感情がない

 バケモノと同等な感情しか持ち合わせていない

 と言ったこと。そして、それを持ち合わせてでも

 六郷君に近づこうとして、私に歯向かった。


  それにもうひとつ言っていたね。


  うらやましい、と。


  あの時に感じていたのは君に対する圧倒的な

 劣等感、つまり「負けている」という一方的な

 焦燥感だった。


  だからこそ、今の六郷君を救うことができるのは

 僕しかいない。そうやってずっと思っていたし、

 そうであることで僕と君の"差"をあらわにさせたい

 というのも事実だった。


  君に六郷君は救えない。あの時の君の言動じゃ

 そう思えて正しいからね。そんな馬の骨とも

 わからん奴に大事な人を任せるなんて他人事で

 済んだもんじゃないさ」

「……ということは」

「いいや、勘違いしているかもしれないけど、僕は

 六郷君に対して「好き」という感情を持っている

 わけではないからね。あくまで「生徒会の仕事の

 うちで放すに惜しいほどに」「好き」であるだけさ。


  でも、どちらも好きは好きだ。青春的な好きが

 正当とも思わないし、ビジネスパートナーとして

 しか後輩を見ることができないことを外道とも

 言わない。だったとしても、六郷君には副会長の

 役職名が付いている時点で、生徒会長である僕が

 どうにかしなければならない案件であるはず。


  これでも頑張っていたからねぇ。心の傷には

 どうやってバンテージを張ろうかねぇ。いやぁ

 難しいったらありゃしない。


  ……ふぅ


  君には感謝をしているんだ。僕にできなかった

 ことをやってくれたんだ。悔しくもあり、ずっと

 すっきりとした気分でもあるよ。どうやって

 あの鉄の意志を持つ彼女を落としたのかは、

 わからないが、ありがとう」

「……」


 こちらこそ、どうも、当然、ご謙遜を。


 どの言葉も会長に投げかけるにはふさわしくない。


「あれからいろいろと生徒会で仕事をしたんだけど

 六郷君もわかりやすいよね。ずいぶんと人間味に

 帯びた自分らしい顔つきになっていたよ。目つきが

 ちょっと悪いのが玉に瑕だけどね。


  今までの六郷君は「苦しい」を外に見せることは

 なかった。その分、ぐっと見えない何かに

 押しつぶされそうになりながらその何かと

 戦っていたのだろうけれどね。僕はその何かを

 どうにか外してあげられないかと躍起になっていた

 のだけど、どうにもうまくいかなくてね。でも、

 今の六郷君には"その何か"すらも包括している。


 「自分」と「責任のようなもの」から

 「自分」と「責任としての自分」になっていた。


  ……ちょっと難しいかな?


  ようは、自分らしくなったと言えばいいかな?

 ほんとに、何を吹き込んだんだい。まさか

 部活に勧誘しただけで、ああなるなんてねぇ」

「本当に部活に誘っただけですよ。結局決めたのは

 副会長本人なんですから」

「選ばせたのは誰?という意味だ。追い込められた

 ネズミに選択の余地なんてあるわけがないさ」


 きっとこういうのが青春なのだろうね。と

ぬるくなったコーヒーを飲み干してつぶやく。


「……会長」

「ん?」

「俺のやったことは正しいことなんですかね」

「さぁね。少なくとも君は"勝者"なんだ。もっと

 誇らしく魅せてもいいのに」

「でしたら、勝者は俺じゃないですね」

「へぇ」


 あえて俺は引き合いに出すべきではない

人物を出す。それは俺の業績ではない。


「結局はうちの部長がすごいんですよ

 俺も救われた一人なんですから」

「ははっ、確かに君もそうだったね」


 会長は食べ終えたマフィンとコーヒーを

トレーの上で片付け始める。そしてそそくさと

立ち上がるのだった。


「まぁ、それだけだよ今日は。顔を合わせを

 拒むと言い放ったけど、撤回するよ。うちの

 部下をどうぞよろしく」

「えぇ……はい」

「……にしても、六郷君の話ばかりになって

 しまったが、案外神前君にも言えるんだよねぇ

 同じことが」

「はい?」

「重しが下りた。六郷君が救われるように君も

 救われているんじゃあないのかい?」


「……いえ、まだわからないですね」

「まだ、ね。いいさ、すぐにでもわかるから。

 自分のことだ。最たる理解者だと錯覚している

 厄介な価値観じゃ計り知れないさ」


 それじゃあ楽しんで。と席を立ちトレーの

ごみをダストボックスに流し込む。コーヒーの

ほんの少しだけ残った残りも、飲み残しの

コーナーに捨てているのは、まじめ感が伝わる

行動だな。


「あ、そうだ。生徒会なんだけど……


  やっぱなんでもない」


 会長は店を出て行った。最後の言葉、俺は

それを聞き返すことはしなかった。理由は明白、

何を言おうとしていたかがわかるからだ。


「生徒会に入らないか?」


 だろう。


 けど、なんでもないと話を止めたのはもう

答えが出切っているから。


 俺はどうしたとしても「いいえ」と言うよ。

俺には荷が重すぎるし、加賀音には加賀音の

いるべき場所があって俺にも俺の場所がある。


 それが「異能部」である。そう言えるのだ。


 さてもさても、そういえば言っていなかったが

俺がなぜ、悪魔であり人間的な食事をする必要が

ないというのにこんな場所に来ているかの

説明がまだだった。


 それは……まぁ、すぐにわかる。


「あ"、さっき夕霧がいたんじゃねぇのかよ」

「いや、人違いじゃないのか」

「あー、そうか……で、ミコてめぇはいつまで

 悩んでんだよ」

「いや、ギドー君この季節限定のヤツがやっぱ

 どうしても気になるの! 女子は悩むものなの!

 でしょ? ロッカちゃん!」

「えっ…………そ、そうですよ」

「ほら!」

「お前ら並んでるから早く頼め」


 話を合わせたな。そういう彼女、無難に

てきぱきとフツーのハンバーガーとフツーの

ポテトを頼んでいますが。


「あ! ココ先に食べてる」

「あんたらがいろいろ街でやることあるから

 遅くなるって言ってたんだろうが、


  というかそれを当日に言うんじゃねぇ!!

 こっちにもこっちの用事があるんだよ!!」


 呼べや! とは言わない。だってキャラ

っぽくないもん。


「けっ、先に食ってよーぜ神前」

「はいはい」

「あ、それ季節限定n」

「お前ははよ頼んでからこっち向け!」


 並んでんだよ。俺より後ろ見ろ。

一連のやりとりを馬鹿にするガキとそれを

恥ずかしがるロッカが見えるぞ。


「あ"、てめぇんなもん頼むんだな」

「まぁね、気分よ気分」

「で、味は」


「うまいよふつうに、ただ」

「ただぁ?」

「なにがおいしいかはよくわからん」

「そーゆーもんだろ」


 そういうもんか、そっか。


 ということで、俺たち「異能部」計4人で

おいしくハンバーガーをほおばることになった。

発案者は当然ミコ。そういうところがかなわん。


 やっぱ負けだな俺の。


 そして期せずして、俺のちょっとした目標。

「部活の友達とわいわいご飯を食べる」を達成

することになった。


 今年はいい春だ。青く淡い春だ。


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