157.どんどん俺を語ろう
「????????????」
のっけから詰んだ。と言いたい。
片っ端から読み漁ったとはいえ俺の頭は
小学生並でしかない。一度読んだといえすべてが
すべて完璧に理解できたわけでもないし、今までも
単なる好奇心で読み進めていただけで、理解しようと
する気も微塵もなかった。
事情が変わった。ここからは真面目に不真面目な
馬鹿馬鹿しい怪文書を読み解かなくてはならない。
実際、読み仮名がふってあるとはいえ解読ができて
いないのかふってない部分がある。というかそっち
ほうが全体的に見て大部分を占めている。これは
ルールを知らないまま将棋をさせられている気分だ。
しかもそのルールブックが全文ポルトガル語と来た。
「……よし」
今の俺にはなーんにもできないな。ダッシュで
帰ってきて部屋にこもって本とにらめっこして
全戦全敗している。こういうときはもう寝た方が
いい。
よくある言葉だ。明日は明日の風が吹く。明日は
明日の俺がなんとかしてくれるさ。どうせ明日は
土曜日だし、時間も余裕もたくさんある。
「悪魔?」
悪魔。とはあの本には書いてあったが今更になって
少々怖くなってきた。恐怖で身がすくむ……
程ではないが、クッと潜った布団がしわを寄せる。
もし仮に悪魔を呼んで出てきてしまったら、
そいつは本当に俺に従ってくれるのだろうか。
たいていこういうのはよくある話で”代償”が
必須みたいな流れがあるわけだし、それが俺の
”命”だった場合、どうなっちゃうんだろうか。
もし仮に悪魔を呼ぶ段階でこのまま立ち往生
してしまっていたら、タケちゃんを救うことが
できないままなんだろうか。
もし仮に……あの本が全く関係のない稚拙な
落書き帳の一種だったら……
ダメダメ。こんなん考えちゃキリがない。
今日の俺がダメだったんだ。今日の俺が云々
考えたところで、その云々を丸ごと解決するのは
明日、あるいは明後日の俺なんだから。今日の
俺にできることは「寝る」ことだけだ。
早く「明日」にしよう。羊は数えない。
秒針を数える。走った疲れでスゥと俺は眠る。
明日のことは考えない。天井が閉じてくる。
________
「????????????」
のっけから戸惑った。と言いたい。
朝はやくに起きた俺が、ふと昨日乱雑に
捨てた本を手に取ってペラペラと読んでみる。
起きたての頭でこんな長ったらしい怪文書の
理解なんて追いつくはずがない。
と、思っていた。
俺がとった本は昨日手を付けていない本で
ずいぶんと表紙が綺麗なヤツだ。骨董品のほうが
スゴイこと書かれてるだろ、なんてことを思って
魔女が片手に鍋を煮てそうな本ばかりを選んで
読んでいた。が、朝に手に取った逆に見た目が
綺麗な本はその常識を覆す代物だった。
これは「悪魔の出し方」とか「説明書」
ではない。こいつは「辞書」だ。
今まで読めてすらいなかった言葉の数々が
これ一冊で読めるようになる! すごい!
進研〇ミでやったところだっ!!
読めることがこんなに素晴らしいのか!
驚きのあまり眠気がどこかに吹っ飛んだ気分が
した。そのままこの辞書片手に読み進めたい。
が、とりあえずは腹ごしらえ。
朝飯は白飯と味噌汁。正直甘いイチゴのジャムを
塗りたくった食パンのほうが好き。
部屋に戻って作業に戻る。しかしこうやって読んで
いくとこの本が必要とか不必要とかがよーくわかる。
意味なりを辞書片手に調べながら読むのは面倒だが
慣れたらすぐだった。元々慣れていたというのも
あるし、それ以前にこの辞書が小学生の俺でもわかり
やすいぐらいえげつないぐらいにかみ砕かれている。
俺が好んで読んでいたのは大体悪魔についての説明
書き程度のものだったことがわかった。この悪魔は
こんな力を持っていて、こんな悪さをしたりするとか
今でいう「SCP」の説明書きみたいなものだ。
が、悪魔の出し方については触れてもいないし
何よりそのほとんどが俺の思う「願いをかなえる」
タイプのヤツではなかった。から、この手の本は
丸ごと邪魔になるからさっさとベットの下に隠して
おく。
だが、その中でも一応出し方まできっちり書いて
くれているものもある。こいつらを片っ端から
試してみてもいいが交霊術初心者兼小学生である俺に
そんなパワープレイはできるはずがない。
わかっていると思うが、悪魔であったり霊を呼ぶと
なれば魔法陣だったり血、髪の毛、それと諸々……
それとよくわからない「魔力」というよく聞くが、
よくわからないモノ(?)を要求してくる。その
時点で俺にできるのかが危うい。そんなものを数回
やるなんてことまっぴらだ。
それに力を見てもこの状況を何とかしてくれ
そうな悪魔自体が少なかったってのもある。
「呼ぶ価値がない」とでもいえる。たかが人間様が
言えたセリフではないかもしれないが。
「お?」
一番手ごろで一番なんとか呼び出せそうなヤツが
いた。えーと名前は……
”ヴォチュヴェル”
うっわ呼びにくっ。こいつはどうにも変わり種と
いった感じのヤツだ。名前がではない。というか
全体的に見て一番名前はコイツが呼びやすい。
悪魔の言葉でどうやら「媒介者」という意味……
……らしい。
つまり自分とは異なる別の悪魔を自分を「媒介」
として呼び出すことができるヤツってことだ。
だから、こいつさえいればわざわざこの本の山から
タケちゃんを助けられる悪魔を探すよりかは楽に
広い範囲で悪魔を呼べるようになるのではと
考えた。それに必要な魔法陣がちょうど俺の部屋の
端から端ぐらいの大きさでできる。
他のはなんか「魔力」の関係で無駄にドでかく
書かなければならないらしい。できれば隠密に
やりたいから部屋で済むものなら部屋で済ませたい
ものだから及第点としてコイツを選んだ。
なんでこんな小さいんだろうか? ただの
媒介としての役目程度だからそこまで魔力がいらない
とかなのか? まぁいいや、ちょっと危険な
詐欺まがいな雰囲気もあるけどガキの俺には
おいしい話にはおいしいまま食いつくしかあるまい。
よし、ということでこの”ヴォチュヴェル”を
呼ぶことにしよう。時間はいくらであるとはいえ
物事は早い方がいい。決断もそうだろう?
やるとなればとっとと用意をしよう。必要なものは
魔法陣を描くための部屋サイズの用紙。そして
俺を「契約者」として扱うっぽいから俺と悪魔を
つなぐための材料がいる。
「名前、肉親、髪の毛」そして「血」だ。これくらい
なら自分がスーパーに買い出しに行かずとも文字通り
体を張って用意できるな。けっこう簡単に素材は
用意できそうだから安心した。
まずは用紙だ。が、そんなカーペットが収まるだけの
業務用の用紙なんて小学生のポケットの小銭で買える
ものなわけがないし、何よりそんなものどこで売ってるか
すらもわからない。ご時世、アマゾンなんて便利な場所も
ない。
そこでやむを得ず自作をすることにした。A4サイズの
紙なら学校やら新聞やらで余るほどもらっている。その
うちの裏が真っ白、と同時に色が似ているものを部屋や
チラシ置き場からがっさがさと漁り出す。学校からもらう
プリントはなんか「再生紙」を使っているようで若干
黒く濁って見える。濁った紙の上に魔法陣を描くのは
さすがにまずいのでは? と考え、その手の紙ではなく
チラシの裏のようなつるつるとした真っ白な紙を床に
並べて、継ぎ目が外れないようにテープでくっつけていく。
やはりカーペット一枚分の用紙となればテープの減りが
尋常じゃなかった。偶然買いだめしてあってよかったよ。
用紙が完成したときには夕焼けがきれいに見える
時間だった。ずっと腰を変な曲げ方をさせて工作を
していたからのびるとコキッと腰から音がして痛い。
できた用紙を一度丸めて棚と棚の間にしまっておく。
そのまま床におおっぴろげにしておいてもいいが、
一応ということで隠しておく。丸めることを考えて
テープをがっちり張っておいた。おかげでずいぶんな
テープの消費量となってしまったが。
そして何事もなかったかのような部屋に戻して
リビングへ向かい晩御飯を食べる。今日はから揚げ。
塩としょうゆの二つの味が並んでいる。
________
さて時刻は日付をまたぎ午前の2時。そろそろ
大丈夫だなと思い、潜っていた布団から静かに
出てくる。棚から用紙を引っ張り出し昼のように
床にひろg
ビリッ!
あっ…… ま、いいや。今からは直せない。
俺は布団の中から懐中電灯と例の”翻訳”と
”悪魔の呼び出し方”の本を抜き出す。そして
ペラペラとページをめくって折り目を付けておいた
ページへと飛ぶ。
項目・魔法陣
とは書いてあるものの一冊の本に書かれたかなり
小さい絵を、一寸の狂いもなく拡大させるとなると
かなり難しい。
……拡大すると一寸以上の狂いが出るじゃん。……いや
そんなこと気にしている場合じゃない、いかんいかん。
とりあえず太めのペンがあればいいのか? それとも
細いいつも使っている鉛筆でこまかーくやっていった
ほうがいいのか? 悩んでいる時間があるなら筆を
動かしたほうがいいな。それにこんな手元がほとんど
真っ暗な状態じゃ細かく丁寧にしたところで丁寧の
ての字も出てくるかも危うい。ならちゃっちゃと書ける
であろう太いペンを使おうか。
にしてもチラシの裏は実に書きやすいな。テープの
つぎはぎ部分がガタンとなって暗いせいもあって
イライラを加速させるけど。
「……これでいいのかな」
見たことのない言葉なりを円状に書かれた絵の中に
書いていく。本来なら辞書を使えば意味が分かった
状態で悪魔を呼び出せるのだから都合が良い。が
そんな時間はない。これはそういうものだ。
これはこういう文字の形を模した「絵」だ。
にじんで少しカーペットが汚れた。こんなのは
後でふき取ればいい。いまから俺は悪魔を呼ぶんだ
カーペットのシミくらい代償としても安いものだ。
とりあえず、書けたとは思うが……
「えーーーーーーーーーーーーーーーっと」
後はこれを唱えればいいのか。読み方がえぐい難しいな。
辞書がなかったらこれこそ詰んでいたな。この辞書は
ずいぶんと親切だな。そこらの漢字辞典なんかとは
比べ物にならないほどやさしく難しいことをやれと
言ってきやがる。
「***、*****、えっと*****」
あ、「えっと」って言っちまった。もう一度。
「**********、**************」
「*********、******、**********」
「**********************、*****」
これで大丈夫なのかな。後は陣の真ん中に俺の血を
染み込ませた髪の毛を……
「……」
……うん、なんにも起きない。ここまで用意して
何もないのは騙されたと言わざるを得ないけど。
詠唱を忘れるな。
あぁ、そうか確かこの後に短い詠唱がいるのか。
「*************************、****」
さてこれで出るものなのか。
いいや出てはこないさ。私は現れるものなのだから。
そうなのか。って、んん? なんだこれは?
さっきから俺は何も辞書もなにも読んでいないのに
スッと覚えのない言葉がよぎるのは?
それが私だからだよ。
「!?」
はじめてお目にかかるぞ、少年。ずいぶんと時間が
かかったではないか。少々、不思議な話し方ではあるが
我慢してくれ。
俺の目の前に誰かがいる! 驚きの余りにしりもちを
ついた。描いた絵から召喚されたとは言い難い。
そこにすでにいる。あたかも現象のように。
ふふっ、私は悪魔なのだ、その通り。私は現象そのもの、
形容しがたい存在なのだから当然であろう。
「……あっ、えっと」
俺は急いで本を取り出す。人の言葉を話してはいるが
目の前にいる異形の人型は”本”という首輪が外れた
状態なのだ。下手をすれば俺の命にかかわりかねない。
ましてや、そのまま外の世界に放り出せばどうなって
しまうかもわかりやしない。
急いで、「契約」のページを探す。えーーーーっと
確かこのページから10枚めくったとこr
そんな幼稚な契約など必要はないぞ。
「え」
それに私は悪魔ではあるが、契約はしないのだ。
「で、でも」
悪魔とは契約と信仰によりなりたつものであると
書いてある。信仰というのがよくわからないが、
契約という言葉が大切であり、それを不必要とする
など、どういうことだ……?
そんなの、一切書かれていない。
書かれていては困る。私は文献にはいまだに残った
ことがない架空のさらに架空の存在なのだから。
「……?」
そんな顔をするな、少年。名を何という?
「……、***」
よろしく***、いずれ忘れるであろう名前だろう。
私は***の思う悪魔、”ヴォチュヴェル”ではない。
さらにその上位の存在、悪魔を統べる大悪魔である。




