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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
My Name Is ...
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145.計ろう

 今日から晴れて、1年生を終えた後の短くも

長い休みに入るわけだが、同時に休みだからと

のんびりとできない日が続く。だがこれは

我が部活の最高責任者である部長、御前 小恋

からのお達しだ。しぶしぶでも参加せざるを

得ないよな。


 それとこれは蛇足であるが、義堂は無事に留年

せずに学年を上がることができるそうだ。あの

勉強会で集中的にテスト対策をしたあの件で

義堂の評価がグッと上がったのが効いたらしい。

こうやって追々、俺が頑張った結果が出てくれる

のはうれしくも思える。じゃないと義堂が俺の

部活の後輩ってことになる。それだけは避けたい。

あんな可愛げのない後輩は絶対不要だ。


 あ、そうだ、ミコについても無事に単位を

落とさずに済んだようだ。とはいってもどんなに

おつむが悪くてもちゃんと授業には出席している

上に義堂とは異なり、大事なイベントやテストには

しっかりと結果を残してある。が、その結果が

あまり芳しくないのも事実だ。それでもノルマは

達成していることだしオーケーとしよう。最悪、

これで成績が悪くて活動できませんと言われたら

もうたまったもんじゃない。


 今日は1時から学校に来ている。のも本当は

霊や悪魔が活動を始め出す夜に来ようとミコに

提案したのだが、どうやら春休みに俺たち以外の

部活がかなり忙しいらしい。


 そう思えばそりゃそうか。


 ミコと同じ考えの部活がたくさんあるのも

まぁうなずける。新年度を迎えるにあたって、

3年生が抜けた部活の統括であったり、新たなる

部員を確保するための下準備をこの短い休みの

間に済ませたいのはどこも同じか。その都合で

諸々の手伝いに毎度のごとく俺たちが呼ばれた

ってこと。


 はなはだ忙しい部活だことだ、うちは。


「てことはいつもどおりじゃん」

「それじゃあいつも「異能部」として活動して

 ないみたいじゃん!」

「その通りだろ」


 一応、須田のパラノイヤも霊の仕業だったり

本田の家の幽霊騒ぎの解決も、肩書上では俺たちの

仕事ではあるが…… それでは十分と言えない程の

量の別件の仕事が舞い込んでくるのが俺たち

「異能部」の現状だ。それでも全くないよりかは

ましだ。十分だともいえる。


 ……いいや、全く十分ではない。


 もう恒例と化した夜の学校の探索もかれこれ

この部活が始まってから、かなりの回数を重ねて

いる。その成果としては、俺個人で発見と解決を

してしまったネズミの霊(今は俺の眷属”ノーティ”

として活動中)と、学校七不思議のひとつである

「秘密の部屋」の解決の二つしかない。二つもある

と言い換えれば気分がいいが、それでも足りない

というのが正直なところだ。


「この春休みの目標としてはやっぱり結果を残す

 ことでいいのか?」

「何とーぜんのこと言ってんのさココ」

「その当然すらできていないのですが……」

「でもやるっきゃないよ。霊によっても出てくる条件が

 違ってくるし、もしかしたら出るかもじゃん」

「ま、出てくれないなら平和だなぁって思う

 だけなんだけど……」


 今は全ての依頼を遂行し、はぁーと一言息を

ついて部室でお茶を飲んでいる。義堂は今日は

おやすみしている。そのせいで力仕事がかなり

過酷だったから後々、義堂に話しておこう。

が、なんでこういう休みの日に限って休んで

くれちゃうかなぁ。


 ってそうだ。卒業式の次の日に活動するとは

言っていたが何時から始めるとまでは言っては

いなかったか。だったら夜には学校に来てくれる

といいのだが……


 ちなみにそんな願いも空しく義堂は部活に

来なかった。後で聞いたところ、単純にすっかり

忘れていただけだったそう。まぁ、春は長い。

そんな一日休んだぐらいでグチグチ言っても

いられない。


「そろそろ動き出すか」

「あれ? 今って何時?」

「7時」

「エーエム?」

「朝かよ。19時だ19時。午後7時、

 ピーエム7時だよ」

「えーちょっと早くない?」

「そうか、だってここにいてもやること

 ないしとっとと探索し始めても別に

 いいんじゃないか? それに休みで他の

 先生や生徒も帰っているから今からでも

 十分遅くないだろ」


 それにしてもこの探索が始まったときはミコも

嫌がっていたな。暗くてヤだとグダグダとこの

部室でとどまっていたこのビビリちゃんが日を

重ねるごとに平気になってくるのはずっと見ていた

だけあって面白い成長だなと感じる。


「そういえば解決していない学校七不思議って

 何があったんだっけか」

「え、えーっと…… 解決したのが……銅像のヤツと

 音楽室の絵だよね」

「って俺の秘密の部屋はノーカンかよ!」

「だってその現場みてないもん!!」


 じゃあ音楽室の絵もノーカンだろ。もっと

言えば霊自体見えていないんだから、全部

ノーカンだろ。


「だから「謎の五階」と、「見つめる女」、それと

 トイレの花子でしょ? あとは……」

「謎の地下施設か」

「そーそーそれそれ」


 この言葉を聞いて一つ思い出した。ミコの家、

つまりは御前神社に初詣に行ったときに生徒会長が

告げた情報があったことを。そのことについて

ミコにも言った方がいいのか? いいや情報が

定かじゃないんだ。言ってもいいことはない。


 それにそのカギを握っている”ノーティ”にも

聞いてみたが、残念ながら生前の記憶を持っても

いないし無駄に終わっている。もしかしたら

俺の眷属になる前の状態だったら多少なら

覚えていたかもしれないが、それはもう後の

祭りと言うものだ。掘り下げても無意味に

等しい。


 それが悪いこととは言わない。霊になるという

のはある一つの思いをもとに、本来は成仏する

はずの自分をこの世界につなぎとめることで

それはただ一つの強い思いだと相場が決まって

いるものだ。二つの思いでつないだとしても

片方がたるんでしまう。そういうものだ。


「……」

「どうしたのココ。なんか最近変だけど」

「いやなんでn……最近?」

「うん、須田君の家に行った時からなんか

 ずっと何かを考えている雰囲気で……」


 そんなつもりはない。っていうのは強がりだ。


 何がと言うと一つしかない。生徒会長が俺に

告げた注意勧告のことだ。そしてそれは春休みに

何かがあるとも言っている。それについてなんだ

なんだと考えっぱなしなのは認める。それでも

考えていても仕方がないと折り合いを自分でも

付けているはずだと思っていたが、ミコにこうも

見透かされているようだと、折り合いなんて

つけれてないってことか。


 こういうのは自分では分からない。自分で

自分のことがわからないなんてなんとも情けない

ことだとは思わないか?


「いやいや俺が悩むかよ。それはいいから時間も

 時間だからそろそろ探索するか」

「うん、りょーかい!」


 俺はこたつの電源をけす。一度つけっぱなしで

探索をしたことがあったが、かなりの電気代を

喰ってしまったようで、生徒会からお叱りを

受けた。それ以来、こたつは消すようにはしているが

大抵はこの部室に義堂が残ったり、部室自体から

出て活動することも少ないから、これで電気代が

節約できたとは言えないな。


「うぅぅ、さむっ」

「え? そう?」

「ミコってそんな薄っい巫女服着てるけど寒く

 ないのかよ」

「慣れたから大丈夫! ココも着てみれば」

「丁重に断る!!」


 のぞきと男色趣味、その次は女装趣味があるなんて

噂が流れたもんなら俺の立ち位置なんて華麗に

崩れ去るわ。


 いやのぞきと男色趣味ってだけでも十分

まずいわ。


「それにしてもさっきまで雨なんて降ってた?」

「いやさっき降り出したんだろ。だから運動部も

 早めに退散したんじゃないのか?」

「あー」


 今は季節的には冬ではあるが、春ともいえるだけの

気温ではある。それにしてもこういう時期の雨ほど

迷惑なものはない。雪がのこった道路に雨が降れば

靴がびっしゃりと濡れてしまう。それどころか

歩きづらい。


「それじゃあ先に出てるからな」


 そう言ってミコよりも先に部室を後にする。

「うん」と言って俺を見送るが、もちろんのこと

後でミコも部室から出てきてくれる。いつものことで

慣れてしまったが、巫女としての儀式をやると

言って大抵部室から出てくるのが遅い。


 何の儀式なのかと最初のころは疑問に思って

いたが、その儀式の意味を理解してしまった今と

なってはどうでもいい。


「ふぅー、コワクナーイコワクナーイ」

「……」


 部室から声がする。これが儀式だ。


 あぁ、ただの自己暗示だ。それで正常に学校を

歩けるなら別に責めるつもりはないが、はたから

見たらこの光景はあまりに情けないよな。


 巫女なんだからそれこそしっかりとしてほしい

と言いたいがこうやって一人でやっているのだから

「部長」としての建前を守ろうとしてのこと

だろう。ただ恥ずかしいから見てほしくないなんて

理由だとしても、都合よく取り扱っておくことに

した。


 それにそのおかげで俺としても都合がいい。


 俺はいつものように胸からミコンを取りだす。

パッパッとほこりを払うように手でそれをたたく。

ほこりなんてかかっていないが気分だけでもこう

やるだけで綺麗になっている気がする。


 気がするだけだ。気がするだけだよ。


「****************」


「”具現召喚・ヴァンダー”」


 ミコンからスッと眷属が出てくる。この様子は

ミコには見せれない。だからこそ部室でミコが

うだうだしている時にやってしまうのが恒例と

なっている。


(おや? またですかい?)

(あぁ、”また”たのめるか?)

(へいへい、仰せのままに)


 ヴァンダーの能力であらかた学校を見て回る。

この手法はもうこの夜の学校探索を始めてから

よく使っているものだ。おかげで”ヴァンダー”を

呼ぶたびに「またか」と言われてしまうが、

そっちのほうが楽だ。色々と探すよりかは楽だ。


(それにしてもその目的の女というのは

 みつかりやせんねぇ)

(そんな簡単に見れるものじゃないって今と

 なっては理解している)

(そいつはおかしな話ですなぁ。その今、そこの

 部屋にいるお嬢さんと初めて会った時に

 実に簡単に見ることができて、なんで今に

 なって見れないですかねぇ?)

(条件があるんだろ。それがわかればそんな頻繁に

 ”ヴァンダー”お前を呼ぶことはないよ)


 あの時と同じ状況を作れれば早いのだが……

確か、体育館に大きめの魔方陣とミコンと俺

そしてスパイスとしてミコを少々といった

状況だったか…… 実際にやってみないとそれ

ばかしは分からないが、それでは条件が満たされる

とは思っていない。


 なぜかと言われても勘としか表現しがたい。


(では、”いつもどおり”に)

(あぁ、”いつもどおり”な)


 そうジョークをかませた会話を済ませたら

「いつものように」目の前から”ヴァンダー”は

消えた。こうも毎度のこと見ればこれも慣れて

しまうってものさ。


「さて……」


 ”ヴァンダー”が戻ってくるのは多分、俺と

ミコがてくてくと廊下を歩いている時だろう。

ミコンに戻るときは別にミコにみられてもおかしい

モーションはないし大丈夫だ。まだまだミコの

儀式は終わらないし、この寒い廊下でしばらく

待ってるとしようか。いつもの流れなら今から

8分ぐらいで部室から……


「……」


 ……気配がする……? それも廊下の奥から。

だがこれは悪魔ではない何かだ。悪魔なら俺に

対して何かしらのアプローチがあるはずだ。


「誰だ」


「……」


「神前さん」

「え」


 廊下の暗闇からスッと現れたそいつは俺の目測

どおり、悪魔ではなかった。どころかそいつは

よく見る顔だ。


「なんで副会長が……?」

「私用でここにいます」


 夜の学校で俺たち「異能部」以外の人間を見る

のは初めてだ。それにしてもクリスマスのとき

みたいに休みの学校に残ってでもやりたい仕事が

あったというのか? にしては今の学校には俺ら

以外の人物は入ることができないはずだし、それ

以前に仕事をするには時間としても遅すぎる。


 が、邪魔なものは邪魔だ。とっととその

私用とやらを済まさせて帰らせるのが適当か。


「その私用ってなんだよ。一応俺たちしかここに

 滞在できないはずだし、その私用を教えてくれれば

 手助けできるかもしれないだろ?」

「それについては問題ありません。私も許可を

 得てここにいます」

「そう、それじゃあs」


「それよりも教えていただきたいのです」

「?」


 そして副会長はスッと俺の方に指をさす。

が、その指は俺がふと隠したミコンをさしている。


「その本から現れた”何者かについて”です」

「……」


 そのとき、俺の思考回路が止まったから無言に

なったのではない。むしろその逆だ。


 これはどういう言い訳をしようか?


 副会長の口止めをしようか?


 なんてことでもない。ただ一つ、俺が今まで

心の中にあった謎のわだかまりの正体がすとんと

理解したことのほうが重要だった。


 そうだ。そうだった。


 この「忘れていた」この感覚は何かを。


 そうだ、


 俺はこの副会長の霊感は知らない。


 知らない。


 そしてグッと副会長の顔をにらみつける。

多分、俺はしかめっ面なんて言葉で表現しがたい

顔をしていただろう。


 それ以上に副会長の顔はひどかった。


「…………98……」


 副会長の霊感が驚きのあまり言葉に出た。


 あの御前神社の連中よりも人間離れした数字だ。


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