140.何があったかまとめよう
俺が目覚めたのは病院の中だった。
……ん? 違うなここは学校の保健室だな。
正直これは助かったとも言えるかもしれない。
この異常な体質を病院で見られてそのまま
モルモットなんてオチになるよりかは俄然
ましだ。だいぶましだ。
「おはよう」
「会長」
「やっぱり君って人間じゃないよね?」
「……何言ってるんですか、俺は純粋無垢な
人間ですよ」
「冗談だって、義堂君だってそんな簡単に傷口が
治るほど頑丈じゃないよ。前に頑丈だって僕に
言ってたけど、ここまでとは」
血を失ったままではあるが口も動くし指も
足も胴体も、そして頭も動くのがわかる。そして
俺があの場で何をしたのかもわかっている。
俺の隠れスキルのひとつ。狂暴化を使ったのだ。
自分の血を口に含むことで自分の悪魔としての
力を強大化させることができる。とは言ってもこれは
完全に諸刃の剣と言っていい。これも前に言ったが、
なぜ俺の血を飲むことで力がみなぎるかと言うと単純に
俺の血が「人間」のものだからだ。よくある設定だと
言われればそうだが、俺の場合は悪魔の力を高めるのに
他人の血をいただく必要がない。自給自足ができる。
だが、それは自分の力を限界以上に使っているに過ぎず、
失った血や魔力はすぐには戻らない。
この様子じゃ、しばらく狂暴化どころか眷属たち
への魔力供給もままならないかもな。つい最近、
”ムム”に眷属を使ってやれと言われたばかりだと
言うのにな。
そして俺が狂暴化しているときの記憶は……
実は、ある程度はある。ある程度というのは
「自分がコントロールできていない」という事実
だけであり、その場で自分が何をしでかしたまでは
わかっていない。
酒を飲んで、酔っ払って言うはずのないセリフを
口走ったことは覚えていないが、「酔っていた」
という事実だけは鮮明に覚えているといった
イメージでいい。
「ココ、大丈夫ーーー!!!」
「大丈夫だから、その声やめろ!!」
キーンってなるわ! キーンて!!
といってもミコは一番心配しているだろうな。
だって目の前でぶっすり刺されたところを見られ
いるのだもの。その刺され傷はとっくに治って
いるが……
「えーと、俺が寝ている間に何が?」
「そうだね、まずは神前君について。君は
須田君と一緒にダウンした。そこまでは
もちろん覚えているよね?」
「……ええ」
うなずきはするがそんな記憶はない。
だが、そうなのだろう。適当に相槌をうって
おけばいいや。
「そのあと御前さんから状況を聞いて、すぐに
119番に電話したよ」
「え、じゃあ」
「須田君は眠ったまま病院に連れてかれて、神前君
君も連れていかれるところだったよ」
あっぶなぁ。病院行きにはならなかったのか。
……って? あれ? それはおかしいぞ?
「なんで俺は保健室で寝ているんすか?」
「それは僕が救急隊の人たちに神前君は大丈夫
だって言って止めたからね。それで先生に
車を出してもらってここに君を運び込んだ」
「え、なんで」
「君から聞きたいことが山ほどあるからだよ。
それに見たところそこまで傷も深くない
みたいだしね」
「……」
そうだった。この話は会長を通していない
ある意味、極秘に行われていたことだったんだ。
そりゃ自分の知らないところで、同じ生徒会の
メンバーの動向を知りたくもなるさ。
「急に呼び出されたから、すっごくサンタ先生
びっくりしてたよ」
「誰だよサンタ先生って……」
「佐々木先生」
「どっからサンタ要素持って来たんだよ!」
時期外れな名前を付けられたもんだな。
うちの顧問ぐらいちゃんと名字で呼んでやれよ。
「さて、まずはこの出来事の始まりと終わりを
聞こうかな? って言っても御前さんから
あらかたは聞いているさ」
「……」
「あれれ。なんか話したそうじゃないけど」
それは当然、ミコからどこからどこまで聞いて
いるかの領分によって俺が話していいかが分かれる
からだ。特に今回の場合、俺の”危うい”部分も
見せてしまっているからな。
「それにしても須田君が霊に憑かれていたなんて
思ってもみなかったよ」
「そうですね。俺も最初h」
「ってのは嘘」
「は?」
「実は最初からそうじゃないかなって目星は
ついていたよ」
……ということは……
「まさかマヤを使ったのは……」
「ん? 英嶺君? あぁやっぱり彼女伝いに
須田君のところに行ったんだね。英霊君には
須田君の件は「異能部」を使ってみたらどう?
と、軽く言っただけだけど、まさか本当に
実践するとはねぇ」
ほんとこの生徒課長は裏の裏の裏にも
いるんだな。末恐ろしい。
「でも御前さんのおかげで何とかなったと
言っても過言じゃないよ」
「え、ミコが?」
「エッヘヘー」
口角をあげている。べた褒めに弱いのか。
「君たちがこうやって色々霊にまつわる面白話を
探しているから、僕も色々調べてみたんだよ」
「面白話って」
「で、須田君も何かその霊にまつわる問題を
抱えているんじゃないかなー?? と何気なく
調べていたら、引っかかったんだよある霊が」
該当する霊がいたってことなのか。
「”遺恨霊”」
隣でミコがそういった。遺恨霊?
「遺恨っていうのは当然、よく聞く日本語……
でもないか、まぁ、なんとなくわかるよね?
それがたっぷり詰まりに詰まった霊のこと」
遺恨の意味は確かは忘れがたい恨みだった
はず。しかし、須田が誰かに恨みを持っていた
なんて話や様子、それと俺に襲ってきたときも
一切言っていなかった。
言っていたのは「守るべきため」だけで。
「なんで霊が関わっているってわかったんですか」
「それはもちろん、”ある一件”があったからね」
「”ある一件”?」
「やだなぁ、須田君の家で見せたでしょ?」
うーん、だめだ俺自身あの時の記憶がなく
あったと言われてもわからない。
「須田 洋子さんの事故だよ。今年の最初に
こことは別の町で起こったトラックを交えた
少し大きめな交通事故。
あれで、須田君のお母さんが亡くなって
いたんだ」
「は?」
あれ? 確かお母さんは仕事で出ていて、
もうすぐ帰ってくるんだとか言っていたよな?
それに、今年の最初だと? 今から一か月
以上前じゃないか。
「須田はお母さんは仕事で出ていたって言って
いたはずだぞ? いや、お父さんは離婚とか
……違う違う、離婚とは言っていないが何かしら
理由あっていないとも聞いている」
「それが”遺恨霊”なんだって」
「はい?」
「詳しくは御前さん、頼んだ!」
「任された!」
二人で敬礼しあってる。とっとと回答がほしい
から説明してくれや。誰でもいいから。
「遺恨霊っていうのはもちろん霊の一種である
のは間違いないんだけど、ちょっとばかし
今回の奴は仕様が違うってかんじ?」
「仕様?」
「前に血のつながりが霊が憑く憑かないで意外と
重要な要因になり得るって言ったの覚えてる?」
「あれ? そんなこと言っていたか?」
とボケてみるが、悪魔の俺からしてみればそれは
基本中の基本ともいえる常識だ。血のつながりが
強ければ強いほど、何かにしても霊なり悪魔なりの
干渉が強まったり弱まったりするものだ。遺伝と
言い換えてもいいかもしれないな。
「てことは須田に憑いたのはその事故で死んだ
お母さんに憑いていた霊が須田に移ったって
ことか?」
「ううん、須田君に憑いたのは遺恨霊だって」
「は?」
「須田君に憑いたのは”お母さん”本人だって
こと」
「えぇ……」
親が子に死んで早々に取り憑くとかあり得る
のか。いやいや、当然ありえることだ。理屈では
何一つもおかしな点はない。それに聞いている
分にはそのお母さんが何かしらの恨みを子である
須田に向けていたってことになるが……
あの生活環境から察するに、そこまで険悪な
状況ではなかったはずだ。と、思いたい。
実際の生活の様子なんて俺らにわからないからな。
「お母さんは恨みを持っていたのか? それも
どんな?」
「多分それも違うよ」
「はいぃ?」
「遺恨っていうのはさっきも言ったけど、
忘れがたい恨みのこと……っていうのが普通で
もう一つの捉え方があるの。
それが「遺根」
死んでも残る思いや念のこと。それが須田君に
取り憑いた理由なんじゃないかな? 死ねない
理由があって須田君に取り憑いた。けど……」
そう言ってミコはこちらを見る。まるで俺にも
わかるだろうと言わんばかりに。
あぁ、分かる。あの言葉を聞いていればわかる。
須田のお母さんは須田を何かから守ろうとしていた。
だからあのとき「守るため」と答えたのか。
「でもそれは……」
「そ、恨みとか関係なしにそうなっちゃうことが
意外とあるの。ただ今回が違うのは、人にそのまま
憑いちゃったことってことかな?」
「人以外に憑くことが普通なのか?」
「普通はお墓とか、あとは前の本田君の家で言った
とおり遺品とかに憑くものなの。それならまだしも
別に色々被害が出るわけじゃないからよかった
んだけど」
「今回は問題のある”人間”に憑いた、と」
「そゆこと」
そこまで言ってくれれば納得ができる。どれだけ
守りたいという思いがあろうが、どれだけ強い
気持ちで現世に残ったといえど、それは霊であり
この世ならざる霊でしかない。それが人という
器を持てば、どうなるかなんてわかり切った話だ。
「皮肉な話だよな。助けるはずが逆に作用する
なんて」
「それと問題になるのがもう一つ」
「時を」
「固執させる」
「あ”っ! 生徒会長! そこ私の見せ場だったのに!」
「いやー僕も、知ってたから言いたいじゃん?」
時を固執させる?
固執というのは頓着とか執着なんて類義語がある
言葉で、「執拗にある物事に対して譲らない」なんて
意味だったはず。時に固執させるということは
ある時間に対して執拗なアプローチがあるってことか
……あっ。そういうことか。
「その霊が憑いた瞬間に、その霊がいた時間に時を
止める。つまり今回だと、須田君のお母さんが
死んだときだから……一月のはじめから須田君の
周りの環境は止まったままだったってこと」
「だから、バレンタインか……」
「へ? バレンタイン?」
「いや、なんでもない」
須田とお菓子作りをしたときにアイツは
「バレンタインがちかいから」と言っていた。
今は2月の中頃、どころか一週間もしないうちに
3月になろうとしている。ようはバレンタイン
なんてとっくに過ぎていたのだ。だから俺は
あのときにあの言葉に疑問を持った。が、
日付的にはバレンタインが近いのは確かだったし
スルーしていたのだ。
そしてそう考えていると、色々と説明がつく
事象が多い。
なぜ、生徒会メンバーがあの家に入れず俺ら
二人だけがあの家に入れたのかだが、それは
生徒会だからとか「異能部」だからとかって
理由ではない。
霊感100と霊感0の二人だからだ。
守ると言っていたのだから他の人間をあの
家に入れないようにしていたのだろう。だが
俺の場合は「同族」だと勘違いして対応が
遅れ、ミコに対しては完全に霊的な反応が
なかったから対応すらできなかったのだろう。
そして人見知りだと思っていた須田があれほど
しゃべれるのかと言えば、単に憑いている
お母さんのコミュニケーション能力を持った
だけなのだろう。いや、それも違うのかもしれない。
死しても我が子を守らんとし、学校すらも
拒ませるような環境を作り上げるほどの子供への
愛情なのだ。言ってしまえば「過保護」。
そんな環境で人と話す機会があったとも思えない。
それでも、須田はお母さんがあの日から
帰るのを待っていたんだ。あの一月のはじめ
から待っていた。なんとまぁお涙頂戴な展開
だってもんさ。それが霊を介した残酷なもので
実現したとなれば余計可哀そうでもある。
「それはそうと、僕が聞きたいのはまだある」
「会長?」
「神前君、なんで僕を呼んだんだい?」
「え?」
「君から連絡があったから急いで学校から
須田君のうちに向かったんだ。僕が偶然
”遺恨霊”のことを知っていたからなんとか
なったけど、なんで僕がいれば須田君を
何とかできるって思えたの? 正直、それが
一番よくわかっていない。だって普通は僕に
連絡を入れる前に警察とか、そっちに連絡を
入れるものでしょ?」
俺と須田がつかみ合っているタイミングで
俺は確かにミコに「会長に連絡しろ」と言った。
が、ミコはそれに応じすに須田に向けて凶器を
向けたんだがな。
俺はその瞬間を狙ったのだ。須田が俺ではなく
ミコに注意を向けているそのタイミングを狙い、
ポケットにあった携帯で会長に連絡を入れたのだ。
「それは……」
これは言うべきなのか…… いや言うべきだろう。
「会長が直々に、須田に言いたいことがあるとも
聞いていたので。もしかしたらあの状況を打破
できるだけの何かを隠し持っているんじゃないか
って……ようはまぐれですよ、まぐれ」
「マグレかぁ」
これは事実である。まさか生徒会長がそんな霊に
ついて調べてあっただなんて知らなかったし、
ましては生徒会長が事の解決に必要不可欠な要因
だったなんて思いもしていなかった。だから
俺が生徒会長に連絡した理由を総括するとなれば
「頼みの綱」だ。
「さて、それはそうと聞きたいことは全部とまで
いかないけれど、十分聞けたしそろそろ帰った
ほうがいいよ。今日は異能部は活動しないと
上の人たちに言ってしまったし、ここに長居も
できないからね。動けるでしょ、もう?」
「えぇ、まぁ俺、頑丈なんで」
あの時に腹と頬に包丁をぶっすり刺されている。
が、その傷は何事もなかったかのように跡にも
残らずに癒えてしまっている。やはり俺の身体は
異常と表現するしかないな。
「ミコ、大丈夫だったか?」
「大丈夫だったけど、めっさ怖かった」
「その様子だと元気そうで何よりだ」
ミコに怖い思いをさせたことは評価できないな。
今後ともこういう危険な場面には極力、出くわさない
ように注意しないと……
あ、ダメだ。ミコがその危険な場面に直接
向かってしまう体質だから無理じゃねぇか。
「それじゃ、俺たちは帰りますので」
と言ってベットから立ち上がる。血が足りず、
おっとっととよろけるがすぐに立ち直り保健室を
出ようとした。
その時に生徒会長が俺に向かってぼそりと
こういったのを聞き逃さなかった。
「そろそろ気を付けるんだ。もうじき動き出す」
「え」
「何でもないよ。それじゃあ気を付けてね」
「はーい」
「……」
ミコが元気にそう返事をした。俺はその返事を
返さずに、頭の中にそのセリフが回った。
気を付ける? 何をだ。
動き出す? いったい何が。
俺はそのときはいつもの生徒会長の戯言だと
軽く見積もっていた。
それがアダだった。
そして、物語はあらぬ方向へ向かい始める。




