129.世界を戻そう
「おねえちゃん!!」
「? どうしたのビビ」
「マスターが、マスターが!!」
あーあ、俺の配下の奴らだってのに
あんなに上司に怯えちまってるよ。
これはこれで悪いことをしたものだな。
「マスターが、あの義堂って男に憑いて
縄を外したの」
「え、じゃあ今は」
「マスター、ううん”あれ”は私たちでも
勝てるかどうか……」
「ビビ、落ち着いて。ここは私たちの世界で
あいつらは今や、部外者なのよ。それなのに
まずいってどういうこと?」
「おねえちゃん、あれは……」
人であって人ではない。それすらを
卓越した何かだ。
「だよなぁ?」
というわけで本作の主人公兼悪魔
プラス元不良の俺が登場ってわけだ。
「マスター! なんでここが!」
「いや、それはさっき自分で言ってただろ。
な? 義堂?
あぁ、「あそこから行ける場所は少ない」
ってな。だから絞るのもたやすいってもんだ。
絞るも何も、候補地をローラー式に
あぶり出していっただけだがな。それで
3件目にしてヒットしたってわけ」
「くっ、その姿」
「あぁ、やっぱりその様子だと予想はしていた
ようだね。さすがは我が眷属ってとこか。
はぁ”? どういうこったよ。
どういうこともなにも、俺たちが今
やってるコレをができることを創造主様は
とっくのとっくに知っていたってことだ。
というか元々そういう仕組みだけれども
わざとそれをしないようにしていた。
この世界は”ムム”と”ビビ”によって作られた
幻想の世界であって、創造主である二人は
言ってしまえば何でもありのチート野郎
ってことなのはさっき言ったよな。でも
そういう仕組みにするにあたって、俺に
見合った世界にする必要があった。そりゃ
俺の眷属だから当然、趣味思考性格諸々も
俺に似るわけだしな。だからこの世界では
誰かに取り憑くなんて無謀なことも実際可能
なんだよ。
それがどうしてだよ。
あいつらは俺たちに”そういう仕組み”だ
ということを悟らせたくなかったんだろ?
特に、今の状況の俺たちみたいなことに
なれば手が出せなくなりかねないしね。だから
俺たちに、よく「絵の世界だ」だとか
「自分たちの世界」だと言ってただけ。
結局、何をどう頑張っても俺のてのひらの
上でしか動けないというのにな」
「おねえちゃん……」
”ビビ”が”ムム”の背中に隠れる。この
様子だけ見ていれば可愛げがないこともない。
が、今回は話が別だ。
それにしてもここは一体どこなんだ?
ずいぶんと閑散とした風景の場所で
遠くに山や湖、さらには道路もある。
「ここってどこなんだ?」
「……」
「モナリザ」
「え?」
ってそういわれればそうか。ということは……
あぁやっぱり、ちょっと先にほとりのような
場所がある。ここからずいぶんと離れた場所で
はあるが今の義堂の視力ならこれくらい視認
するのは用意ってものか。
「それに、どーせここにきたっツーことは
なんとなくやりてぇことはわかる。俺たちと
ぶち当たろうって魂胆だろ?
真っ向からではないにしろ俺たちと
敵対している以上、そうだろうな」
「……わかってますわ、でも」
「いいや、もう話は終わりだ。それに、今の
お前らの作戦ってのも見え見えだ。もっと
隠すなら、徹底的に隠蔽しろよ。
あ”? なんかあったのか?
いや、さすがに気がつけよ…… それに
義堂おまえ自身の話だろ。
……?
あーだめだな、頭の中を通じてわけわからん
みたいなイメージが流れ込んでくる。っていうか
なんで俺の脳内は共有されないんだよ」
っていってもそうだよな。俺は今はただの憑依霊
程度に過ぎないし、憑依霊にまで思考、感情が移る
なんてこともないか。
「おねえちゃん……」
「”ビビ”そのおねえちゃんがやろうとしている
ことは……そりゃわかってるよな。この世界は
お前らのものなんだから。俺は悪魔であくまでも
上位種に該当する。そんな化け物が急に体に取り
憑き、急激に体を強化したらどうなるかなんて
想像がつくよな。義堂本人は鈍感で気がつかない
ようだが、義堂にとてつもない負荷がかかって
最悪今にも壊れるかもしれないってこと。
あ”? あー……いわれりゃそうだな。
お前、頭も体も神経鈍いのかよ。まぁ、
ようはここでおしゃべりでもして時間を
つぶしていれば勝手に俺たちは自滅してくれる。
そういうさくせんだったんだろ?
けっ、なら短期決戦ってか?
そう。逆に言えば”それ”ができてしまう
からあいつらはこんな遠まわしの手を使った。
だから義堂、少し……いやめっちゃつらい
だろうが耐えてくれよ。
は”ぁ!? 誰に向かって指図してんだ!?
俺がんな、目の前にうぜぇやろうがいる中で
くたばるなんてあってたまるかってんだよ」
よし、任せろ。
空気が変わる。絵自体が震えているかのように
世界が震える。義堂の体はもう、普通の人とは
いいがたいほどに変異して、なんとも表現の
しがたい有象無象の物体と化している。
「いつもギラギラ! てめぇの隣に!
這い寄る混沌!! ニャルラトホt
義堂! それどこで知った!! それと
なんでジャストな今のタイミングでそれを!?
あ”? あーー確か夕霧の野郎が
「同じバール(とおぼしきもの)で戦う作品」
ってことで俺に無理やり見せてきやがった」
あの本家のクトゥルフみたいな見た目は
一応しているけどさぁ! そんなニャルラト
なんちゃらです☆ なんていってもガチで
可愛げのかけらもないよ!
「んなことはどうだっていい。いつでもいいぜ
それじゃあ、やるか。
「「狩を」」
ズン。
重みなんてない空気にゆがみのごとく、大きく
圧力がかかる。今にも世界が壊れそうだが、そこは
さすがわが眷属だ。頑丈に作っていやがる。
「ビビ!」
「おせぇよ!」
今の義堂は早い。それも”ムム”のさっき
魅せた動きとは比べ物にならないぐらいに。
どんなものでも速さをもった物体というものは、
それなりにエネルギーを持つ。光速で発射された
ペットボトルのふたが鉄の板をぶち抜いたなんて
有名な実験がそれを物語っている。
そのペットボトルのふた程までいかないが、
義堂が”ビビ”に向かって飛んでいったときの
速さはとんでもなかった。俺こと悪魔、神前が
憑いたことで義堂のもとからある馬鹿力に
さらに馬鹿みたいな力が加わっている。義堂
単体でも地面からうちの学校の生徒会室の窓に
飛び乗ることだってできたんだ。俺の力が
加わればこのスピードも当然の代物だ。
「グッ!!」
「おねえちゃん!!」
「……っつ、お”らぁ!!!」
”ビビ”が”ムム”をかばって……違った、
”ムム”が”ビビ”をかばって義堂に殴られ
その勢いのまま飛ばされる。等速直線運動を
するように、”ムム”はモナリザの絵に
描かれている山にぶつかる。あの空気遠近法
とかいうよくわからんが、特別な書き方を
しているあの山だ。
「ちっ、はずしt」
ドォン!
また義堂が殴った、のではない。今度は
義堂が地面に飛ばされた。飛ばした相手はさっき
殴り損なった”ビビ”だ。どんなに性格上、
キツイことができないにしろ、やはりその
部分は悪魔そのものか。それに、どうやら
”おねえちゃん”を吹っ飛ばしたことに対して
お怒りのようだしね。
が、本来なら上司相手に格下の”ビビ”が
こんなにダメージが入るようなことはできない
と思うが…… とはいってもここは創造主である
あいつらの世界だから比較的にあいつらの
思うように動くようにはなっているってことか。
それもあるが、もう一つ要因はある。
「義堂、ちょっと飛ばしすぎだ。
あ”? 真っ先にあっちのおどおどした
奴をぶちのめすっつったのはてめぇだろ。
いってぇ…… んだよ、強くなったんじゃ
ねぇんかよ。
あの高さから身体を打ち付けても
それだけ元気に話せるだけ頑丈だろ。
それとさっきも言ったが、これは短期
決戦だ。だからって力を全部使いきって
いいってわけじゃない」
今の義堂がやった圧倒的な跳躍力と渾身の
パンチで俺の持っている力の大半を失った。
これで一応、”ムム”はかなりの痛手を負った
とは思うがあいつらは二人で、その半身を
使えなくしただけだ。まだ同じだけの力を持つ
もう半分がいる。
そちらも何とかしなければ、なんとも
ならない。
「それでも片翼失っただけ十分か。って
いっても、俺の部下だからそんなこの程度
食らったからと言ってくたばらんよな。
んじゃ、そのもう片方をつぶせばいい
だろうが。
その体でどうやってだよ……」
俺は義堂に「狙うなら先に”ビビ”だ」と
先に伝えてある。移動手段を先に失わせる
ほうがこちらとしても戦いやすいし、逃げる
選択肢を減らしたかった。が、見事に
”ムム”にはじかれ、仕留めそこなったがな。
”ビビ”が姿をくらませた。俺たちを襲う
真似はしてこないことから、ご自慢の
移動で”ムム”のもとに向かったのだろう。
できればそれも止めかったが、親の
身体である義堂がこんなんでは追い打ち
なんてできっこない。ここはそれを一旦
スルーして真っ向からぶち当たるか。
「義堂、立てるか?
俺の身体で何言ってやがる。てめぇも
立てるかどうかわかってるだろうが。
あぁ、じゃあ立てるな。まだ行くぞ
義堂。
おう」
俺と義堂は再び飛び立つ。そしてその
勢いのまま、山のふもとにクレーターを
作りながら着陸。
「……!! お”い、神前!!
どうした!?
見ろよあれ……」
義堂が指をさす。そこは山のふもとでは
なく中腹あたりか。
「あそこにLDVって書いてやがる!
あれって確か”ダヴィンチ・コード”って
奴じゃねぇのか!?
どこにテンション上がってんだよ!」
ってあーよく見たら確かに書いてある。
こんな音楽室にある贋作にこんなものが
あるなんて思いたくないが、丸ごとコピーか
何かしたのであれば、分からなくもない。
つーかLDVってレオナルド・ダ・ヴィンチの
頭文字とっただけじゃねーか! 別にすごい
秘密があるアルファベットとかじゃねーよ!
「お、いた」
「ま、マスターあなたって人は」
「わりぃがその”ますたー”とやらは
俺の体の中でカンカンなんでなぁ”?
正直、俺もさっきのてめぇの口の利き方
にはイラっと来たぜ、アネゴさんよぉ?」
「マスターマスター、私」
「ビビ! あなたは大丈夫! 私に任せて」
「でも」
「時にはお姉ちゃんを信じて。私がここで
時間をかせぐ。その間にビビは別の絵に
飛ぶためのゲートを作って!」
「おぅおぅおぅおぅ。それは許せないな
……あ”? 神前てめぇそんな口調だったか?
……うん、あんまり似合わないからやめる。
とりあえず、逃げるようだったら俺たちも
それを止めるしかない」
「ここは私たちの世界で、あなたが私のマスター
であったとしてもここを離れるのは勘弁願い
たいのですが? あぁ、もうあなたは形式的に
もうマスターではなかったわね」
「お、おねえちゃん」
「ビビ、私から離れないで」
さっき俺がやったように”ムム”一つ息を吸う。
カァァぁと蒸気があふれるようにその息を
はき出す。
「***************」
「あ”? ありゃなんだ?
あれは俺たちがやっていることの
弱体化バージョンってところだ」
”ムム”は俺たちと同じように何とも
言えない風貌に姿を変えた。そして自分の
姿を再確認するかのように、再び元の姿に
戻る。が、あれはさっきと同じ”ムム”では
ない。
魔力を高めた状態というところだ。
俺たちみたいに誰かに憑いているなんて
ことはなく、二人分の力が出るなんてことは
ないが、それでもあれは強い。自分の体力を
削った大勝負だということだろう。あるいは
そうでもしないと勝てないと悟ったのか。
「ビビ、任せたわよ。マスター……いいえ、
悪魔:神前、私を越えてみせなさい。
今の私は強い。それもこの世界がここから
私たちを剥がさないと言わんばかりに、手を
差し伸べているかのように、力があふれる」
「……わかった、私、やる」
「******************」
”ムム”のすぐ後ろで”ビビ”が唱えだす。
あれは確か、ここからより離れた場所に
つながるゲートを作るものだったはず。
あれができたら俺たちは手が出せなくなる。
「義堂
わ”かってんだよぉぉ!」
再び義堂が力を込めて飛び出す。が、それは
受け流されるように軌道を変え、目標とは別の
場所に着地する。それもどうやら打ちどころが
悪く、あまりの勢いに自分の力のコントロールが
効かずにその勢いのまま大木にぶち当たる。
「ってぇ…… こりゃあ……」
「一度見てしまえば、どんなものなのかわかる
ってものよ。それくらいの頭は持ってるのよ?
”創造主様が一人”をなめないでくんなまし?
もう一度言うけれど、ここは私の世界。
私の空間、私の想像によって完成された。
私の世界。私が一つ”あれ”を”こう”しろと
言えば、空間を曲げることだってできるわ。
といっても、これをしすぎるとこの世界が
壊れちゃうわ。ここはまだ私の住んでいる
世界だからね」
「ちっ、チート持ちがぁ」
「あんたにだけは言われたくはないわね。
そんな上級の悪魔を背中に携えて、たかが
「私」ごときに引けを取るなんて、はなはだ
笑える!」
「*****************」
後ろでは着実に”ビビ”が唱え続けている。
あまり時間をとっている暇はないな。
が、それを見越して”ムム”は俺たちに
魔力を高めたのだろう。俺たち同様、あの
状態は長くは持たないし、はなから俺たちと
短期決戦をするために挑んでいる。それも
”ビビ”が唱え終えれば安全でかつ、誰も
傷つかない世界に再び逃げ込めるのだから
言ってしまえばすぐに時間切れで俺たちの
負けは確定する。
「どうしたのかしら? いかに私のかつての
上司だからといっても、そんなに貧相な
力しかないのかしら? それに見たところ
どんどん力が弱まっているように取れるし、
もうあきらめては?」
「いいや、それには及ばないかな。俺たちは
お前らをまた俺のもとに戻すために来たんだ。
ここで引いちまったら本末転倒ってもんだ。
ホンマツ、テントウ?
義堂、お前が知らんのかい。ほら目的が
変わって、結局何もできなくなることだ。
……って今は国語の授業をしているわけじゃ
ないんだからさぁ、もっとシリアスな事
聞いてこいや」
確かに見た目はどんどんと異形の者から
元の義堂に戻りつつある。俺もこうも冷静を
たもって状況分析をしているが、本当はもう
魔力が底をつきかけている。が、これは
まだ予定調和のうちだ。
「どうすんだよ神前。
大丈夫だ。このまま殴り続けろ。それに
俺にはまだ作戦があるから。
作戦だぁ?
作戦名は”・・・・”ってことにするか。
まぁようは義堂は”ムム”をぶちのめすことを
考えろ。もちろん俺もそれを手伝う。
あ”ぁ? ”トラの……”何だぁ?
いや今は気にしなくていい。とりあえず
フルブーストで行くぞ。
おうよ」




