113.祓おう
「えー新たな情報を引っ提げてきた
っぽいけど……」
「ああ、分からないけどなんか便利そうな
情報は手に入れてきたよ」
俺と義堂は納骨堂に向かった。ミコは
そこで準備中だった。俺には一体何の
準備をしているかなんてわからないが、
大事なものなのだろうな。
時間もない。事情をパッパと話して
しまうか。
「俺たちが見た霊についてなんだけど、
やっぱり少しづつ、圭佑君が見たのと
違う点がある」
「kwsk(詳しく)」
「kwskじゃねーよ。まぁ、まとめると
まずはミコの隣にいた霊についてなんだけど
むせび泣いていたと俺は言っていたけど
どうやら圭佑君が見たのは、そんな
泣き方じゃなくて……そうだな……
こどもが泣いているように見えたってよ。
それとそれに関連するんだけどさ、
この霊をなんとかして滅する方針から
変えて、追っ払うことってできないか?」
「え? そりゃあ……どうなんだろう……?」
「霊が圭佑君にとって”幼くか弱く”見えた
から、手をかけるのは嫌なんだって」
「あーだから倒すんじゃなくて逃がしたいと」
「しょうゆーこと」
ミコの顔がちょっとづつ考えている
様子になっているのがわかる。勉強会の
ときもこんな顔してたよな……
「それと本田の部屋が元々、死んだ
おじいちゃんが使っていた部屋だという
こともわかった。だから色々伝えたら
本田を連れてまた本田の部屋の調査に
行こうかと思ってるよ」
「おじいちゃんがホンダ君の部屋を
昔使ってたの?」
「いや、元々がおじいちゃんの部屋で
本田が生まれてからおじいちゃんが
本田に部屋を譲ったんじゃないか?
いや、圭佑君がその時の話なんて
わかるはずもないからな。これは俺の
完全な目測だよ。それと後は……うん、
目ぼしい情報はないかな?」
「霊の大きさは?」
「いや、大きさは」
あ、そういえば言ってたか。
「ミコの隣で泣いていたヤツはどうにも
風呂場で見たやつよりも小柄だった
みたいだよ。あ、いやそりゃ大きい方の
霊から見てだからな」
「……うーーーーーん…… ってことは
もしかしてこの家には二人と言わず
ものすごーくお化けがいるかもしれない
ってことなの?」
「あぁ……ちょっと考えにくいけどな……」
姿かたちが変えることのできる霊なのか。
あるいは本当に数体霊がこの家に
潜んでいるのか……
そして俺の経験則上、姿かたちが変えられる
霊は見たことがない。姿かたちは霊にとって
母体と自分をつなぐ”鍵の型”のような
ものだ。その母体に戻るときに自分の身体が
すっぽり収まるように母体には「穴」があく
もの。無論、骨粗鬆症のような穴ではなく
霊的な「穴」だ。そこに収まるように霊は
自分の姿かたちは固定するものだ、が……
例外があるとするなら、再び元の形に
戻せるならばの話だ。
鍵がどんなにへし折られ、削られ、熱で
溶けてしまっても、元の形を完璧なまでに
覚えていて、その形を完璧なまでに作れる
ならばの話だ。先に言っておくが、そんな
「完璧君」は俺の眷属にもいない。完璧な
模造品を作れるヤツはいるだろうがどんなに
完璧な仕上がりだったとしてもそれは
ただの模造品に過ぎない。ただでさえ霊や
悪魔なんてものは人間以上に不安定な
存在なのだからそんな模造品で代用できる
わけがない。
だから霊や悪魔は自分の形を変えは
できるが、そんなリスキーなことをする
はずなどない。
ない……はずだ。
「それでミコ、てめぇなんかこれで
分かったのかよ」
「そのお化けがなんでここにいるかが
よくわからないから、追っ払うと言っても
難しいなぁ、やっぱり……」
「はぁ? どーせそのバケモンは圭佑
みてぇなガキなんだろ? んなシッシ
っつって払えねぇのかよ」
「それって”払う”と”祓う”をかけてるの?
意外と面白かっ……た……
あっ、ん?」
ミコがなにか思いついたように下を向く。
「んだよ、なんか思いついたんか?」
「……えーっとね……
もしかしたらそのお化け……
正体わかったかも」
「「はぁ!!?」」
何で急に思いついた? そんなピンとくる
だけの台詞があったとも思えないが……
「でも、私も可能性があるってだけでそうだと
決めつけれないから……」
「それを確定させる方法ってあるのか?」
「あるよ。それも今すぐ」
「だったら俺たちでそのー……準備? まぁ
言われたとおりのことをやっておくから
それをやって来てくれないか?」
「断・ら・ぬ!」
「スッと言えや」
はいはい行きますよ。
そう言い残してミコが納骨堂から出て行った。
ってあの野郎。やっておいてほしいことなんも
言わずに行きやがった!!
「あ”? こりゃ……」
「ん?」
ミコが作業していた場所にはよくわからない
草が並べてある。確かこれで頭であったりを
叩いたらご利益があるとかないとか……そんな
感じの草がある。これも除霊に使うのか?
「で、俺ぁどうすりゃいいんだよ」
「ミコも言っていたけどこういうものは素人が
いじっていいものじゃない。それに俺たちは
何にも聞いていないんだから余計まずい」
「あーあ、あん野郎は俺たちのことなんだと
おもってやがるんだろうな」
それがわかればどれだけいいことか。
なんてことは言えないし、言ってもなんとか
なるものでもない。
「ただいま!!」
「早!!」
ほんとに早かったな帰ってくるの!
そんなんで霊の正体が分かっちゃ俺の
面子があったもんじゃないわ。
「それで霊の正体は」
「うん、やっぱり私の思ったとおりだった」
「マジかよ!」
本当に俺の面目奪いやがった。
「いやー、物事はもっと現実的に見てみる
ものだよねー」
「ん? ってことはまさかあれは、俺たちが
見たアレはお化けなんかじゃないって
ことなのか?」
「ううん、あれはちゃんとお化けだよ。ただ」
「ただ?」
「このことは圭佑君たちには言わないでほしい
かな……」
「? どういうことだ?」
「あのお化けはね……」
____________
「え、祓えるの?」
「うん、やっと霊の正体が分かったからね。
それに意外と簡単に祓えるから安心して」
俺たちは再び本田一家とテーブルを
介して話している。
「ほんとにー!!??? ばーちゃん大丈夫
なの!!??」
「あ”ーうるせぇ!! わかったから黙って
聞いてろ!!」
お前らどっちもうるさいな……
「ってあれ? さっきその霊は神様だって
あんたら言ってなかったか? それなのに
祓っちゃっていいのかよ」
「うん、逆にああやって見えちゃった神様は
悪魔とかが近づきやすいっていうから。
やっぱり早めは早めに対処しないとね。
でもこの家にはしっかりその神様のご加護が
残るようにしておくから安心して」
「そ、そうなのか?」
「そう、だからいったん神様にはここから
離れてもらって、そしてその神様の力を
残したままにする」
「そんなことができるのか」
俺と義堂はミコの横で話を聞いているだけだ。
これはミコがそう望んだからであって、ここ
からは巫女としての領分だと言いたげだった。
「だからこれからその神様を快く見送る
ように準備をする。私一人でもここからは
できるけど……見たい?」
「え、あ、あぁ、そりゃああまり見れないもの
だからな」
隣で圭祐君が何も言わずについてくる。
それをほほえましそうに見守るおばあちゃん。
そして俺と義堂は目の前の巫女のおつきの
ような感じだ。
まずはじめに納骨堂に向かう。
「阿毘羅吽欠裟婆呵……」
この言葉はずいぶんと前にきいた
除霊のための言葉のはずだ。義堂と俺は
ミコにいわれたとおりに頭を下げる。
それにあわせておばあちゃんも頭を下げ、
少し遅れて、本田と圭祐君も頭を下げる。
「「……」」
あたりは静かだった。本当にそこに霊なんて
いないんじゃないかと疑いたくなるほどに、
この納骨堂は怖く感じるほど静かだった。
ただただミコの少々不気味な”お祈り”が
こだまする。
「……ほっ、じゃあ次の場所に…」
それからも同じように俺と義堂はミコについて
いき、それにくっつくように本田と圭祐君、
さらにその後ろにはずっとニコニコしている
おばあちゃんが。おおきな株を連想させる
風景だな。
「阿毘羅吽欠裟婆呵……」
「「……」」
その後は寝室、風呂場、居間、台所、トイレ
廊下、庭、和室、そして最後にかつては
本田のおじいちゃんが過ごしていた部屋
本田の部屋で同じ工程を地道に、地道に
少しづつ時間を力をかけてお祓いをしていく。
こんな行為には俺はまったく価値が見出せない
が、それが神仏の概念を理解した巫女の
所作ということか。
「……ふぅ、これですべての部屋のおはらいは
済みました」
「え、もう終わり?」
「ええ、そんなに強いお化けではないから。
これくらいやっておけば大丈夫」
「そうか、それh」
「マジでーーー!!! ねーちゃんスゲーーー
!!!!!!!!!!!!」
「圭佑うるさい! ほら、ちゃんとお礼
でもしたのか?」
「まだだけど今する!」
そのあとは「異能部」最後の仕事を終え、
本田のおばあちゃんが飲んでいけと
お茶を出してくれた。のでそのまま
帰ろうとしたのをやめ、一服している。
うーむ、俺のほうがお茶を淹れるのは
うまいかもな。失礼だけど。
「それでなんでああも見えるように
なったんだ? そんな急にうちに何か
変なことなんてなかったぞ?」
「おっと、そいつぁちぃと秘密にして
おいてくれねぇか? あまり触れるに
おもてぇもんだっつーからよ」
「あぁ、そうなのか。でもやっぱり
あんたらは除霊ができるんだな」
俺の隣でミコが万事解決して満足そうに
笑っていた。
「巫女のねーちゃんサンキュー!」
「いやいや、そんなことは……」
「これで、ばーちゃんは大丈夫だよな!?」
「……うーーんと、実はまだそのお化けは
まだここから出て行ってないんだよね」
「え?」
「あ! ううん! そうじゃなくてちょっと
追い出すには時間がかかるってだけで、
そうだね……2~3日もしない間に
いなくなるんじゃないかな?」
「あ、なんだよかったー」
「……だからね、圭佑君、ここ数日は
おばあちゃんと一緒にいてお化けから
守ってあげて。それと、ホンダ君も
それに手伝ってあげてほしいな」
「え、いやそれは別にいいけど俺は
もうそろそろ元のアパートに戻ろう
かと思っていたからなぁ」
圭祐君がここに残ってほしそうに
本田を見ている。勝気なわりに、かなりの
お兄ちゃんっ子なんだよな。
「わかったわかった。ここから通えない
わけでもないし、数日くらいならな」
「やったー、イエーイ!!」
ミコと圭祐君、互いに身長いっぱいに
伸びてハイタッチ。
「……」
「……」
俺は切り上げる。
「それでは私たちはこれで失礼します。
これ以上ここにとどまるわけにも
いかないので。本日に限らず、前日から
私たちの調査に協力していただき
ありがとうございました」
「あ、まだお茶が」
「いや、もういいかな俺たちは。
義堂もいいか?」
「あ”? あー……そうだな。わりぃな
俺たちもあんまり暇じゃねぇんでな」
俺と義堂は後ろにまとめてあった荷物を
持ち上げる。
「ミコ、そろそろ行くぞ」
「……あっ、えっ、うん……
あの、ありがとうございました!」
最後にミコはおばあちゃんにそう言って
だだだっと駆け出すように廊下を去った。
俺も少し会釈してそれについていく。
「おいガキ、また会いに来るぜ。そんときは
俺に傷ひとつ付けれるぐれぇには
なってろよ」
「う、うるせー!!」
「けっ、んじゃあな。見送りと礼はまた
今度いただくよ」
俺たち「異能部」はそういい残して
本田家を出た。これですべてが円満に
終わった。終わったのだ……
でも外は季節はずれの小雨だった。
俺たちの心情を映すかのような。




