110.朝を迎えよう
そのあともありとあらゆる事態に
鉢合わせることになるのだが、それは
また後にして、今は事の顛末を終える
べく朝になってから色々と話すことに
しようか。
というわけでとっとと起きろミコ。
「くわっ!! 今何時!!?」
「うるせぇよ朝っぱらから」
「あ、ギドー君おはよ。それで今何時?」
「6時だ6時。だからんなでけぇ声で
叫ぶんじゃねぇよ」
「そりゃ私がやらねばってところで完璧な
寝落ちかましたらこんな声も出るよ!
……ってあれ? ココは?」
「神前か? あん野郎は別の部屋で寝てるよ。
なんだ? 聴きてぇことでも……ま、そりゃ
あるだろうな」
俺こと神前滉樹は今夜だけは
寝ていない。それもあれから入念に調べる
ことが山積みであったために、義堂が寝静まった
後に色々と眷属に聞いていたからだ。
そのあとに寝ようかと思ったがそれもまた
予想だにしていない事態に陥ったために
俺はオールナイトをやってしまったという
わけだ。あーあ、生活習慣がめちゃくちゃだ。
が、別に文字通り「夜の眷属」の俺に
とってはそんなのは問題視なんてしてない。
(霊感ゼロの霊ですかぁ…… そりゃぁ本当に
化け物ですね)
(やっぱりそういうことなのか?)
(いやぁ、そういうことではないんですが、
霊から離れている。人で言えば人間離れ
していると言ったところでしょうか)
相談相手は”ヴァンダー”だ。もっと
適任がいただろうが別に絞らずとも今は
いい。意見さえ聞ければいいのだ。
(色々と見てきたお前ならなんとなくでも
わかるかと思ったのだが……)
(あいにくですが私の全知全能の完璧な
悪魔ではないゆえ)
(いやいい、本来は俺が始末すべきことだ。
ただイメージというかそれを聞いての
判断を聞いてみたかっただけだ)
霊感がないのであれば自分たちは余計
判断なんてできる賜物ではない。と
”ヴァンダー”は付け足す。
(しかし、そりゃ面白いもんがでやしたね。
それで、その霊をまたしても手に入れたい
……ってわけじゃなさそうですなぁ)
(……わかるのか?)
(いやぁ、やはり年月が経てばわかるはずない
ものもわかってしまうってもんでさぁ)
前に”ヴァンダー”に珍しい亡霊について
話したことを覚えているだろか。それに
当てはめると俺はあの霊をこのミコンに
取り込んで我がものにしたいとみられる
かもしれない。
しかし今回に関しては話が違う。
理由は簡単に言えば相手が悪いからだ。
あの霊は本当はどうかなんてわからないが
二人いたどちらかは本田のおじいちゃんで
まだその家族である本田家はまだ健在している。
そんなところから無理矢理に俺がミコンの
力でひっぺがすなんてことはしたくない。
あぁ、先に言っておくが悪魔はそんなのは
お構いなしに剥がしにかかってくる。だが俺は
「悪魔」である以前に「人間」なのだ。それを
俺に残った人間性が邪魔していると言えば
聴こえがいいがそのとおりなのだ。
それにむやみやたらに眷属にしないと
誓った身である以上、そうやって外法から
悪魔を作りたくない。
悪魔になるのは俺一人で十分だ。
(ま、理由は聞きませんからご安心を。や
聞いてくれというんでしたらぜひとも
聞きたいのが本音じゃありますが)
(いや聞かなくてもいい。それにお前は
聞かなくてもわかってるだろ?)
(いやいや、わかりませんよ。こんな悪魔に
身を賭したものに「人」の思うことなぞ)
(よく言うよ)
俺も初めての経験なだけあって、これは
俺自身もあせりにあせるさ。眷属にしたい
というのは嘘だとしてもこれを何とかしたい
気持ちもある。これは後々に困ることが起きる
とかそういう予防策なんてものじゃない。
上級悪魔である俺のプライドがそれを
望んでいるし、逃げることを許さないのだ。
(それでその霊は片方がそのホンダという者の
祖父だとして、もう一人は一体誰なのか)
(それがわかれば苦労はしないんだけどな)
(それは本当に霊だったのでしょうかねぇ??)
(見た目は完全に霊のそれだからな、それに
ここで祖父が死んでいるという事実もあるし
その見解で正しいと思う)
(うーむ、いえ私も実際に見たわけではないので
いろいろと口を出す気は毛頭ないのですがね)
ガラッ
「グッドモーニン!!」
「うるせぇよ朝っぱらから!!」
「そのセリフ、さっきもギドー君からも聞いた」
「あぁ、お前らどっちも声でかいから
ここまで聞こえてるんだよ!!」
俺は寝室ではなく、誰も近寄ってこないで
あろう場所だと判断したあの納骨堂で一夜を
すごした。逆にここなら朝になるにつれて霊が
やってくるのではないかと思っていたが、
ミコが起きてきた現段階ではその兆しは
見て取れなかった。
(とりあえず”ヴァンダー”。お前は戻れ)
(わかりました)
ミコに見られないように背中に隠した
ミコンに”ヴァンダー”を戻す。”ヴァンダー”は
元よりミコはおろか義堂からも見ることができない
悪魔ではあるが、ここは念には念を入れて
こそっと”ヴァンダー”を戻す。
「ココ、ずいぶん起きるの早くない?」
「いや、お前らがうるさくて起きたよ」
まぁ、その前から俺はずーーーーっと
起きたままだし、寝てすらいないのが本当の
ところなんだがな。
「とりあえずこの様子じゃ俺から聞きたい
ことがあるんだろ?」
「うん
一緒にコンビニで朝ごはん買いに行こう」
「今回、マジで食ってるだけだよなお前」
見せ場らしい見せ場が欠片としてないぞ。
あとで作るしかないのか俺が……?
それは後にして俺とミコは昨日と同じ
コンビニに行きパンとおにぎりを三人分
買って行った。義堂はミコを起こして
華麗に二度寝に入ったためそのまま放置
したとのこと。別に買出しぐらいは俺と
ミコほ二人で造作もないし、義堂は夜に
率先して動いていただけあって、ゆっくり
休んでもらっていてもおつりがでる。
……あぁ、ミコが今こうやって買出しを
やっているのはそのお化け探しに協力
できなかった自分への罪滅ぼしという
意味合いも含まれているのか。なるほど。
そして何事もなく帰宅&ブレックファスト。
「それで私が寝てたときに何があったの?」
「ま、それはそうとしてあの時きれいな
ブローを決めたのは仕方がないと思ってる」
「あ、謝ってくれる……わけじゃないんだね。
すごい自己保全力だよね!」
「そんなに褒めなくても」
「褒めてない!」
だって……ねぇ……。
「それはまぁ後で始末するとして何があったか
4000字以内にまとめて」
「それ全然まとまってない!!」
この小説の一話分くらいの量だろそれ!!
「そんなに話すのは面倒だから簡潔に言うわ!
えーっとだな、まずはミコが寝てから
その寝かしていた寝室の廊下にさっそく
出てきたんだ」
「あれ? お風呂場と寝室にしか出ないんじゃ」
「俺もそう思っていたし、そうだとミコ自身
からも聞いていただけ驚いたよ。そして
それを追って義堂が向かった。が、霊は消える
ように見失ったてさ」
「消える?」
どうやらミコは霊の消える現象がおかしい
ことに気がついているようだ。さすが知識だけ
あるってことか。
「消えたってどこで?」
「確か圭佑君の部屋だったな。で、その後に俺が
台所……じゃないか、厳密には台所に
つながる廊下で見たんだ。そしてそれも
廊下を歩いていった後に消えた。そこは
居間の手前で、そこで霊が二人合流したのを
見たのを最後にまた消え去った」
そしてその後はあまり本編では触れていない
部分になる。
「その後にな、ミコがいた寝室で出たんだ」
「それマ?」
「急に現代っ子になるんじゃねぇ。ってん?
ミコ驚かないんだな」
「お化けとかは別に……って前に言ったこと
なかったっけ? 私はお化けが苦手って
わけじゃなくて、急に驚かされるのと暗い
ところが苦手なだけだよ」
「はぁ、そりゃ失礼いたしますた。その出た
霊も変わってたんだ。最初はミコに向かって
泣いていたんだよ。それもどこか悲しそうに
嘆くようにな。それまではまだいいんだけど
その後なんだ。そこからは義堂が寝落ちして
俺しか確認していないけどな。言って
しまえばその後もミコの横に霊が
出たんだよ」
「それはさっき」
「いいや、その霊はうって変わって泣いて
なんかいない。むしろ笑っていたよ」
「笑うお化けと泣くお化け……これだけ
聞くとどこかの絵本のタイトルみたい
だけどね」
「そんな悠長なものじゃないだろ。ミコも
知っていると思うが、お化けには感情は
ひとつしかないのがセオリーだろ」
「え、そーなの?」
「あれ? 知らなかったのか?」
「うん、だって私自身お化けも見たことも
ないし、そんな気持ちがどうこうなんて
分からないよ」
ミコでも知らないこともあるのか。そこは
さすがに人間なんだしヒューマンエラーは
付き物か。それはそうと何気に俺の悪魔的
知識が露見したことに対しては、あまり
気に留めていないようで安心した。
「こんなにお化け出るんだったら私の目の前に
でも出てきてくれたらいいのに……
そしたらココとかギドー君に頼らない純粋な
御前 小恋としての巫女スキルが発揮
されるというのにー!」
「そんな勝気な性格のやつにこそ霊はよって
なんてこないものだろ。ようはだな、
この家には情報とは違うけど霊はやはり
二人いて、そいつらは家を徘徊する。
何が目的かはわからないけど、それが
まだこの家に住み着いているのは事実で
ミコが何とかして解決策を練るしかない。
本当にここからは俺とか義堂のできる
ことは少ないからな」
「っていって私抜きでまーた色々やってた
くせに」
「……」
「でもココのいうとおり、これは巫女である
私の仕事だよね。よーし!! これ食べて
がんばらなくちゃね!!」
ほんと、朝から元気なことだ。今は
まだ8時にもなっていない7時半だ。
「ていうか義堂、お前もうそろ起きろ!」
「んぁ”あ?」
「朝っぱらからメンチきられると俺も
さすがに泣くぞ」
こえぇよ。女の寝起きは怖いと聞くが
不良の寝起きもベクトルが違う気がするが
怖いよなぁ。
「んだよ。まだ朝だろうが」
「朝だからだよ!」
いつも何時に起きてんねん、あんた。
「ほらーギドー君ー、鮭おにぎりがあるよー」
「起きるからよこせ」
ちょろっ。
「って、てめぇ神前じゃねぇか。んなとこで
どうしたんだよ」
「今まで気がつかなったんかーい。さっき
コンビニで買ってきたんだ。それと事の
顛末は話終わったよ」
「あ”? あ”-……確かーんなこと俺も
言ってたか……?」
……義堂、寝ぼけてますか?
だがこうやってのんきに朝ごはんを食べて
いる時間はなくなった。それも義堂の携帯が
鳴ったことから始まる。
「あ”? 誰だコイt、ってんだよ本田か」
「え、義堂っていつの間に本田と連絡先
交換してたんだ?」
「あー、多分学校始まったときだ。そんときに
無理やり連絡先を交換されたんだったか。
あーだめだ、よく覚えてねぇわ」
義堂は本田と同じクラスだったのか。
それなら連絡先を”ノリ”で交換した
なんてこともありえるだろう。
「それで本田はなんて?」
「今から家に戻るってよ。だから俺たちも
色々と始末しておけって」
「始末?」
義堂は朝ごはんを食べた食卓の上を
あごで指す。
昨日食べ散らかしたおやつの袋が
山になった。
……俺たちの本日の初仕事は
”掃除”のようだな。




