第2章最終話 よっし!旅行だ!行き先は・・・ハワイから地獄に変更ですか?
6月15日午前5時
「駿、行きますわよ」
「ああ、待ってくれ」
何でこんなに早く出かけるんだって?
オレたちは今からハワイに旅行に。
椎名財閥の財力は凄まじく、自家用ジェットなんて腐るほどある。
二人で自家用ジェットに乗り込んだ。
乗っている人はわずか4人。
オレ、千秋、何故か轟騎とパイロット。
まあ、つくまで何時間もあるから雑談してるか。
「この飛行機って、普通の飛行機で行くよりどのくらい速いんだ?」
とりあえず、乗ってみた時に思ったことを口にした。
「通常の2倍ですね・・・それでも数時間かかりますけど」
かなり早いな・・・。
乗り心地もいいし・・・流石は椎名財閥だな。
そのあと轟騎がいろんなカードを取り出したので、みんなでトランプをやったり、花札やったりした。
いずれも賭け事である。
ちなみに、吹っ掛けた轟騎のビリである。
ある程度時間が過ぎたころ、飛行機は方向を変えた。
「どうした・・・」
オレは最も早く異変に気がついた。
「俺は何もしてないぞ・・・ビリにはなったけど」
「おかしいですね・・・操縦室を見てきます」
千秋が操縦室を見に行った。
「なんか・・・いやな予感がする・・・」
やがて、千秋が帰ってきた。
非常に焦っているようである。
「駿、轟騎、大変なことになりました。操縦士が・・・逃げましたわ」
「はぁ!?」
「それも飛行機の操縦ができないよう、一部を破壊してから。このままだと、墜落します」
・・・スパイだったのか?
恐らく、千秋を殺せと命令でも来たのだろう。
千秋は椎名財閥唯一の継承者であり、更に人材的価値も計り知れない。
千秋を殺すことによって生まれる相手側の利益は、最終的に椎名財閥の崩壊につながる。
轟騎の錬金術は今は役に立たない。
千秋の頭脳を持ってしても、今は使うことはできない。
この状況を打破できる、唯一の存在は・・・オレか・・・。
リアを召喚すれば、一人は助かる。
だが、一人じゃダメだ。
最低でも・・・二人は・・・。
「千秋、墜落までの予想時間は?」
「計算したところ、残り10分足らずです」
まずいな・・・。
約10分で脱出できるか・・・。
いや、無理がある。
パラシュートなどの脱出装置はまるで最初からなかったかのように撤去されていたからな。
オレたちは完全に奴らの術中にはまっちまった・・・。
リアに助けを求めるしかねぇ。
この際、千秋だけでも助けないと・・・!
オレや轟騎にはいくらでも代わりはいる。
・・・そう、いくらでもな。
仮に轟騎の代わりはいないとしても千秋の方が有能だ。
千秋を優先すべきだと思う。
オレにはこの状況を打破する力はない。
頼ってばかりだけど・・・リア、今回だけは本当に助けが必要なんだ・・・。
「出でよ、大いなる戦乙女、ダーク・ヴァルキュリア!!」
オレはリアを召喚した。
リアの瞬間移動魔法は、一人が限界。それから距離的に、総本山に帰すのもハワイに送るのも不可能だ。
だが、リアの知恵を借りれば何とかなるかもしれない。
「リア、どうすればいい?」
「主よ、この二人ならわらわが頑張れば助けることができる」
「本当か!」
よかった・・・助かる。
オレを犠牲にすればな・・・。
それでいい。
轟騎はバスケの才能を開花させてNBA選手になればいい。
千秋は天才的頭脳をフル活用して、現在の問題を解決すればいい。
そう、オレ一人の犠牲で二人の有能者に未来がやってくるんだ。
「だが、お前の力を少し借りる」
「そのくらいお安い御用だ!」
オレはリアに力を分け与え始めた。
・・・残り5分か・・・。
「リア、頼む!」
「いくぞ!」
リアは瞬間移動魔法を唱えた。
そう、これでよかったんだ・・・。
<轟騎視点>
「うぅ・・・」
俺は激しい痛みと共に目を覚ました。
「轟騎、大丈夫ですか?」
「ああ・・・」
千秋が手を差し伸べてくれた。
俺が顔をあげたとき、一粒の雫が頬を掠めた。
「千秋・・・どうした?」
千秋は泣いていた。
俺は・・・悪いことしてないよな?
そんなことを考えてる時に、駿がいないことに気がついた。
「千秋、駿ならリアが助けたはずだ・・・大丈夫」
と、言った瞬間俺はとんでもないものを目撃した。
「リ、リア・・・何でここに・・・」
「わらわには貴様ら二人を飛ばすので限界だったのだ・・・主を助ける暇はなかった・・・」
・・・駿・・・。
嘘だろ・・・おい・・・。
「おい、駿!千秋も心配してんだぞ!早く帰ってこいよ!」
・・・あのバカが・・・。
「轟騎、帰って駿の捜索命令を出しますわ」
「くそっ!」
俺はただ、ただ千秋の悲しむ顔を見ていることしかできなかった。




