クリスマスSS
「せーのーでっ!」
がばり、とふたり一斉にベッドから起き上がり、枕元を見た。
永田の枕元には、私が置いた白と緑の靴下。私の枕元には、永田が置いた白と赤の靴下がある。寝る前に自分たちで置いたのだ。
今日はクリスマスイヴ。
今年は24日が休日なので、こちらの都合で一日早くクリスマスが来たってことにして、起き抜けにプレゼント交換をすることにした。
その靴下の中には、それぞれのプレゼントの隠し場所を示したメモが入っている。
狭いマンションで隠し場所といってもたかが知れているけれど、こういうイベントちっくなのは楽しい。
私たちは起き上がってメモの場所を探した。
「なにかな、なにかなー?」
「あんまり期待しすぎないでくださいね」
浮かれる私を見て、永田が苦笑いする。
結婚へ向けて節約しているので、今回のプレゼント予算は抑えめに、とふたりで決めた。だからたいしたものじゃないのはわかってる。
だけど、こういうのって物の値段じゃないんだよ。それに中身はなんとなくバレバレだ。
お互い趣味に合わないものをあげたくない臆病者なせいか、やんわりと遠回しに探り合いをした。
結果、どちらも中身に気付いているという残念なことに。それでもいいのだ。
わくわくしながら指示の場所であるクローゼットを開けると、可愛らしいラッピングの包みが目に入った。
うん、予想通りの大きさ。
取り出して開けてみれば、ふかふかで手触りの良いブランケットだった。
うん、実用的。予想通り。
だって、持ってるか聞かれたし。本読んでる時「寒くない?」て何度か確認されたし。好きな色聞かれたし。
赤のチェックとかいいよねー、とトボけて伝えると、「じゃあ、そうします」って答えて……
あれ、これってもう隠す気ないね? まあいいか。
さて、永田のほうは……っと。
「……遊ぶのもいい加減にしてくれませんかね」
振り返ると、たくさんのメモを持った永田がジト目でこちらを睨んでいた。
えへへ。やりすぎちゃった?
私のあげたメモには、「台所の棚の中!」とか「上を見ろ!」などと書かれている。宝探し、盛り上がると思ったんだけどな。
「ごめんね。見つかった?」
「なんとか」
あちこち探しまわって、結局ベッドの下にあるというオチに苦笑いしながら、彼は私のプレゼントであるシックなグレーのマフラーを首に巻いてみせた。似合う。
少し大人っぽいデザインのそれは、スーツによく合いそうで選んだものだ。
「これなら会社に巻いていけるよね?」
「うん。あったかいよ、ありがとう」
「こっちこそ、ありがとね!」
見つめ合って微笑むと、心がぽかぽかする。
嬉しくてえへへと笑うと、頭を優しく撫でてくれた。
「じゃあ、計画を実行する?」
「そうですね。準備しましょう」
私たちの計画────
その名も『オペレーション・クリスマス』!
まず、夜までの食事を確保します。
「ピザ、頼んでおきました」
「お酒よーし! おつまみよーし! 冷凍食品よーし!」
「ケーキ取りに行ってきますね」
「頼んだぜ相棒!」
「はいはい」
永田がケーキをお店に引き取りに行ってくれる間、私はテーブルにクロスをかけ、くつろぎやすいようにソファにクッションや毛布を持ってくる。
そうして飲食の用意をこなしたら、次はアレのリストを取り出す。
そう、『アレ』とは。
「映画、何から観ます?」
映画だ! クリスマスといえば、映画!
クリスマス映画って世の中にいっぱいある。定番から、ちょっと外したもの。え、これってクリスマス映画なの?っていうやつも。
そういうのを、ひたすら観る。贅沢な過ごし方だ。
昼間の日光を遮るため、永田がリビングのカーテンを引いた。真っ暗とまではいかないが、即席映画館のできあがり。
私たちは並んでソファに腰かけ、サイダーで乾杯した。
長丁場だからね。お酒はまだ、もうちょっと後だ。
用意していた食料をつまみながら、黙々と画面に魅入る。
時折、「これってどう思う?」なんて会話しながら、それぞれ好きな体勢でだらだら。
そうして3本目の映画にさしかかった頃だろうか。
スンスンと、鼻を啜る音がした。
映画を観ていると、たまにこうなる。私はもう慣れっこで、横の永田をチラリと眺めた。
綺麗な横顔に、はらはらと雫が流れ落ちていく。
テレビの光を反射して零れる大粒の涙は、やっぱり何度見ても美しい。
「ティッシュ、とって……」
ぐすぐすしながら手を伸ばす彼に、多めに用意してあった柔らかめのティッシュを差し出す。それを受け取って涙を拭うと、永田はティッシュを持ったまま両手を口元にあて、膝を抱えて映画を観た。
なんてかわいいんだろう。
初めて家に来た時、このご褒美に、私はアッサリ陥落してしまったんだっけ。不機嫌で意地悪で、なのに繊細な一面にやられてしまった。
私、永田の泣いてる顔、好きだなあ。
思い出しニヤニヤしながら永田を見つめていると、ふいに彼が嫌そうに眉をしかめて振り向いた。
「……なんです?」
「えー、なんでもなーい」
「今、ニヤついてたでしょう?」
「気のせい、気のせい」
「今現在、この瞬間もニヤついてますけど」
鋭い指摘に両手で頬を抑える。えへ。ほんとだゆっるゆる。
「泣いてると、慰めてあげたいなあって思うの」
「別に悲しくて泣いてる訳じゃ」
「まあ、そうなんだけどね」
なんだか引き寄せられちゃうんだよね。
そう囁いて、濡れた目元に唇を寄せる。
ビクッと一瞬驚いた永田は、それでも私の唇を素直に受け入れた。
柔らかく口付けて、涙を吸う。頭を優しく撫でて、頬にもキスをした。
「……恥ずかしいです」
ちょっと赤面するのが、また可愛くて私を煽る。耳やあごにも唇を当てると、永田は喉の奥で小さく唸った。
「煽ってます?」
「煽ってないよ。ほら、映画みよ?」
「集中できないよ」
「どうして?」
「わかってるでしょ……いじわる」
泣きながら掠れた声でそんなこと言われたらたまんない。私、今、ふにゃふにゃにとろけた顔になってる自信ある。
キスをやめ、熱くなった頬を押さえて永田の横に座り直す。
すると今度は永田の方がこちらへすり寄り、「終わり?」と囁いた。
「映画みたいんでしょ?」
「一時停止します」
ためらいなくリモコンを弄って画面を止めると、永田は私の唇を奪った。
泣いて上がった体温が熱い。唇だけの食むようなキスを優しく繰り返すと、永田はそっと離れる。
うっとりしながら瞼を開けると、眼前でとろけた瞳の彼が、口を開いた。
「もっとしたい」
「『一時』停止、でしょ?」
「『一旦』停止にしませんか」
「一旦ってどれくらい?」
「さあ……?」
くすくすと笑い合って、唇を合わせた。
首に腕を回すと、ぎゅっと抱きしめられてキスが深くなる。大きくあたたかな手が背中からゆっくりと腰に移動し、セーターの中へそっと忍び込んできた。
「甘えんぼさん……」
私の囁きに答えるように、永田はわざと甘えたような啄ばむキスを何度も落とす。くすぐったがっているうちに、いつの間にかソファへと押し倒され、丁寧な手つきで服を乱された。
「カーテン、閉めといて丁度良かったですね」
なんて、くすりと笑ってと思わしげに微笑むので、思わず照れてしまう。
『一旦』がとても長くなりそうな予感がした。




