瑠璃夏と澪と陸
訓練を終え、シャワーで汗をながした後、
制服に着替えた蕾華は校門を出て帰路についていた。
蕾華はふと、自分がいるこの場所、軍艦島の事が頭について考えた。
(改めて見ると、本当に普通の街だよな……船とは思えねぇ)
そう、この軍艦島はその名の通り、巨大な船の中に建設された島なのだ。
船体の下には巨大な推進装置が搭載されておりそれにより船全体が海上を航行している。
デッキの下には住宅街、繁華街、学園区、地下には工業区、農業プラントや軍事施設などが各層ごとに整備されている。
そして、人口はおよそ3千万人。
そう、ここは一隻の巨大な軍艦でありながら一つの都市国家でもある人類最後の砦、
喰獣に支配、蹂躙され、大陸を離れた人々が行き着いた唯一の希望なのだ。
上の鉄板を覆い尽くす巨大ホログラムスクリーンに映し出された空の下では、学校の帰り道の子供達、外回りのサラリーマン、買い物帰りの主婦たちなどが街を歩く。
その中で、蕾華のようにARES連合軍の軍服を着ている人物は一際目立っていた。
しかも、蕾華のようにこの世のものとは思えない絶世の美女に見える容姿の人物は特にだ。
軍服姿の蕾華が歩くたびに、道行く人々が視線を向ける。
特に、十字路の右の歩道から純白の清楚で華やかな制服を着た少女たちが歩いてくる。
私立聖ルミナス女学院、軍艦島でも名門とされるお嬢様学校の生徒たちだ。
「……綺麗…」
一人が思わず足を止め、そう呟くと周りにいた少女達も蕾華から目を離せなくなる。
神風凛動も凛々しく中世的な美男だったが、蕾華は彼以上に中性的な容姿をしている。
そう、まるで精巧な人形が歩いてるかのように。
「ほんと綺麗、モデルさんかな?」
「いえ、軍服を着てるわ」
「え!?軍人さん!?すごい!芸能人かと思った!」
少女たちはざわめく。が、一人の少女が首をかしげて、
「というか……男の人…だよね?」
「「「えっ?」」」
全員がもう一度蕾華を見る、腕には士官学校訓練兵の腕章、制服も男子用、というより軍学校は男子しか入学できないため男子用しかない。
「信じられない、本当に男の人?」
「本当に美人…お姫様みたい」
「いや、男の子だからむしろ王子様?」
少女たちが自分たちだけで興奮していると、その一人が蕾華と視線がふと合った。
「ひゃ……!」
少女はあわてて顔を赤くしながら友人の後ろに隠れてしまう。
蕾華は少しの笑顔で会釈だけするとそのまま立ち去ってしまう。
後ろから「キャー!!!」という黄色い歓声が聞こえるが、蕾華本人には特に気にせず自身の家にそのまま向かうのだった。
◇
蕾華の自宅は第四層の学園区画から二層上に上がった繁華街にあり、二層までは各層に至る箇所に位置するエレベーターで移動する。
蕾華がいつも乗るエレベーターは軍学校から少し離れたコンビニ近くに壁にあるエレベーター。
そこに乗って高速で上へと上がること10分、扉を開けた先には軍艦島の二層目。
夕焼けに染まる街が目の前に広がっていた。
アーケードには暖かな照明が灯り始め、飲食店やデパート、スーパーなどの量販店など、様々な店が軒を連ねる。
蕾華の自宅は繁華街の右端にあるさびれた飲み屋街アーケード。
その奥の見えにくい隙間に位置する繁華街の隠れた名店(自称)、大衆食堂「風屋」。
店の扉を開けると、
「「お帰り兄者!!」」
天井上からシュタ!!っと素早く小さな影が降りてきた。
視線を下にやると黒装束をきた小さな小さな忍者二人。
「……忍者ごっこ楽しいか?、澪、陸」
呆れた視線を向けると二人は隠していた顔を露わにする。
「ごっこじゃないよ!」
「本物に忍者だよ!」
青いメッシュの入ったグレー寄りの銀髪の5歳くらいの幼児だ、一人がツインテールでもう一人がポニーテール。
澪と陸、兄、凛動の双子の子供である姉弟で、蕾華にとって姪と甥にあたる。
年が10歳しか変わらない叔父の蕾華は、二人からは「兄者」と呼ばれ兄のように慕われている。
二人は忍者にはまっており、一年前、蕾華が家を面白半分で忍者屋敷に改装してからは家を秘密基地のようにして遊んでいる。
喜んでもらえて何よりだが、同年代の子と遊ばず、ずっと家にいるのはいささか心配である。
「お前ら、外で友達とは遊ばないのか」
そう聞くと即座に、手で忍法の構えをしながら言った。
「我ら、忍びの修行中の身!!」
「決して他人とは会いまみれぬ宿命なり!!」
抄訳すると、家で二人で遊ぶのが楽しいからお外出たくない、とのこと。
っま、二人がいいならいいんだが。
そんな時だ、
「……お帰りなさい……」
店の奥から、グレーの長い銀髪をした儚げな笑顔で蕾華を出迎える物静かな美女がいた。
「ただいま、ルリ姉」
この店の女将である氷室瑠璃夏、澪と陸の母親で蕾華の現保護者であり、兄の元婚約者で義姉になるはずだった初恋の相手。
「…遅かったね……授業長かったの?…」
「まぁな、6時限目があったからさ。ほら、軍学校は普通科目のほかにいろいろあるから」
「……?…でも…蕾華の専行って…情報分析科でしょ?……そこって6時限目も授業があるの?……」
ギク!!
蕾華の肩が強く震える。
そう、蕾華は家族には情報分析科を専行してることで通しており、本当は魔装師科であることは厳重レベルで秘密にしている。
絶対にばれるわけにはいかない、特に瑠璃夏には!!。
「………」
「……蕾華?…」
「そっ、それよりルリ姉!まだ見せ開けてる時間だろ?店手伝うよ!」
「え?……でも蕾華……疲れてるんじゃ…」
「全然!!ないすればいい!?」
「……?……じゃあお野菜の皮を剥いて…」
「ガッテン承知!!」
そういうと蕾華は店の奥に行き、素早く軍服の上着を居間にむぎ棄て、エプロンを身に着け、厨房にはいったのだった。
(あっぶねぇ!!!!ばれたらヤバかった!!)




