第24話 巨人の灯火 ~世界の守護者となった日~(最終話)
虚空の巨神が崩れ落ち、紫の霧が完全に晴れた朝。
大陸は、静かに息を吹き返していた。
枯れていた森が新緑を芽吹き、毒に染まっていた川が再び透明になり、
遠くの村々から、歓声と泣き声が混じった声が風に乗って届いてきた。
天空の要塞「アルカディア」の屋上で、俺は人間サイズに戻り、静かに立っていた。
隣にはリナがいて、俺の手に自分の手を重ねていた。
周囲には、覚醒同盟の仲間たちが揃っていた。
ヴォルガルドが翼を休め、低く満足げに言う。
「終わった……な。
異星の巨神は、二度とこの世界を侵さない」
シルヴァリアの体から、優しい花の香りが漂う。
「森が……喜んでいます。
皆の光が、世界を救いました」
バルドガンが鋼の胸を叩き、豪快に笑う。
「ははは! 鋼のドワーフの誇りも、存分に発揮できたわい!
要塞も無事じゃ。最高の結果じゃろう!」
ガルヴァンが静かに牙を緩め、ルカの頭を撫でる。
「神獣族も……怯えから解放された。
お前のおかげだ、ケンタ」
ルカが目を輝かせて俺に飛びついてくる。
「ケンタ兄貴! 俺、ずっと覚えてるよ!
兄貴が最初に教えてくれた『巨大化は守るための力』だってこと!」
エルウィンが銀髪を風になびかせ、優しく微笑む。
「人間の国々からも、感謝の使者が来ています。
もう、我々を恐れる者はほとんどいません」
俺はみんなの顔を、一人ひとりゆっくりと見つめた。
胸がいっぱいだった。
前世の記憶が、遠い夢のように感じる。
「みんな……本当にありがとう。
俺はただのサラリーマンだった。
死んで、この世界に来て、突然巨人になって……
最初はただ、生き延びるので精一杯だった。
踏み潰さないように歩くだけで、毎日が大変だったよ」
俺は少し笑いながら続けた。
「でも、お前たちと出会って、変わった。
リナが最初に俺を信じてくれた。
みんなが、巨大であることを恐れず、共に戦ってくれた。
巨人族の真実を知って、俺はようやく理解した。
巨大であることは、力じゃなくて……世界を守る『責任』なんだって」
リナが俺の手を強く握り、涙を浮かべて微笑む。
「ケンタ……私も、ずっと一緒にいたかった。
巨大なケンタを見て、最初は怖かったけど……
今は、このケンタが大好きだよ。
これからも、ずっとそばにいてね」
俺はリナを抱き寄せ、彼女の頭を優しく撫でた。
「ああ。約束だ。
戦いが終わったら、普通のデートをしようって言ったよな。
人間サイズの俺で、ちゃんと連れて行くから」
周囲から温かい笑い声が上がった。
ヴォルガルドが低く笑う。
「我も、たまには人間サイズで酒を飲んでみたいものだ」
バルドガンが豪快に笑いながら杯を掲げる。
「それなら、わしが最高の酒を用意するぞ!
鋼のドワーフの秘蔵酒じゃ!」
シルヴァリアの枝が優しくみんなを包み込むように広がる。
「森の花で、祝いの宴を。
皆で、生き延びたことを祝いましょう」
ガルヴァンが静かに、しかし力強く言う。
「神獣族も参加する。
これからは、巨大化を恐れず、誇りを持って生きる」
ルカが元気よく飛び跳ねる。
「やったー! 宴だ宴だ!
ケンタ兄貴、絶対に飲むぞ!」
俺はみんなと一緒に笑いながら、空を見上げた。
紫の霧は完全に消え、青い空が広がっている。
遠くの村々では、人々が再建を始め、
要塞の下では、人間と巨大種族が協力して資材を運んでいる姿が見えた。
世界は、ゆっくりと、しかし確実に回復し始めていた。
数ヶ月後——
天空の要塞は「平和の象徴」として残され、
人間と巨大種族が共存する新しい時代が始まっていた。
俺はリナと手を繋ぎ、要塞のバルコニーから大陸を眺めていた。
人間サイズのまま、普通の服を着て。
「ケンタ、見て! あの森、すっかり緑に戻ってるよ!」
リナが嬉しそうに指差す。
俺は微笑みながら頷いた。
「ああ。シルヴァリアの力と、みんなの頑張りのおかげだな」
そこへ、仲間たちが集まってきた。
ヴォルガルドは人間サイズに縮小し、珍しくワイングラスを持っている。
バルドガンは鋼の髭を綺麗に整え、グラムと一緒に大笑いしている。
シルヴァリアは花の冠をかぶり、優雅に微笑む。
ガルヴァンとルカは、神獣の耳をピクピクさせながら、宴の準備を手伝っている。
エルウィンが静かに俺に近づき、言う。
「ケンタ。
あなたは、もう『最後の巨人』ではない。
『世界の守護巨人』です。
これからも、どうかよろしくお願いします」
俺はみんなに向かって、深く頭を下げた。
「ありがとう。
これからも、みんなと一緒に、この世界を守っていくよ。
巨大であることを、誇りに思って」
リナが俺の腕に寄りかかり、幸せそうに微笑む。
「ケンタ、私もずっとそばにいるよ。
これからも、よろしくね」
その夜、要塞では盛大な宴が開かれた。
巨大種族も人間サイズに縮小して参加し、
人間の国々からも多くの人々が訪れていた。
笑い声と歌声が響き、
天空の要塞は、まるで星のように輝いていた。
俺はバルコニーで、リナと二人きりになった瞬間、
静かに空を見上げた。
前世の俺は、誰も覚えていない普通の男だった。
でも今は違う。
ここにいるみんなが、俺のことを知っている。
俺が守った世界が、ここにある。
「ありがとう……この世界に、転生させてくれて」
俺は心の中で、前世の自分に感謝した。
巨大すぎて困っていた日々も、
怖くて縮こまっていた日々も、
すべてが、今のこの幸せに繋がっていた。
リナが俺の肩に頭を乗せ、囁く。
「ケンタ……これからも、ずっと一緒にいようね」
「ああ。ずっとだ」
夜空に、六種族の灯火が優しく輝いていた。
それは、世界の守護者となった巨人の、
新しい物語の始まりを照らす光だった。
完




