第19話 失われた記憶 ~巨人族の真実と、ケンタの過去~
虚空の巨神が目覚めてから十二日目。
天空の要塞「アルカディア」は、紫の霧に包まれつつも、まだ持ちこたえていた。
要塞の最上層にある静かな部屋で、俺は一人、窓辺に座っていた。
体中が痛い。
前回の戦いで受けた傷は、シルヴァリアの癒しの力でほとんど塞がっていたが、
心の奥底に残る疲労は、簡単には癒えなかった。
リナがそっと部屋に入ってきた。
人間サイズの彼女は、俺の巨大な膝の上に腰を下ろし、優しく俺の指に触れた。
「ケンタ……また、一人で考え込んでるの?」
俺は小さく息を吐き、人間サイズに縮小した。
リナと同じ目線になる。
「少しな。
世界が壊れていくのを見ていると……自分の力が、こんなにちっぽけに感じる。
俺は転生して巨人になった。
でも、本当の巨人族がどういう存在だったのか、
俺自身がほとんど知らないんだ」
リナが俺の手に自分の手を重ねる。
「教えてあげたいって思ってるんでしょ?
巨人族の真実」
俺は頷いた。
その夜、要塞の地下にある古い巨人族の遺跡部屋に、俺は一人で入った。
そこは、天空の円卓遺跡から運び込んだ、
最後の巨人族の記録石が置かれた特別な空間だった。
石に手を触れると、淡い金色の光が広がり、
俺の頭の中に、遠い過去の記憶が流れ込んできた。
——数万年前。
この世界には、最初から「巨人族」がいた。
彼らは大地を歩き、山を跨ぎ、海を跨ぐほどの巨体を持ちながら、
決して世界を壊さず、静かに守る存在だった。
「我らは世界の均衡を守る者。
巨大であることは、力ではなく、責任である」
巨人王の声が、俺の心に響く。
しかし、大昔、異星から「虚空の巨神」が飛来した。
巨神は、この世界の生命を「実験材料」と見なし、
巨大化の力を与えては、互いに戦わせ、進化を観察していた。
巨人族はそれに抵抗した。
全種族を巻き込み、総力戦を繰り広げ、
ついに巨神を魔界の最深部に封印することに成功した。
その代償は大きかった。
巨人族のほとんどが命を落とし、生き残った者たちは「巨大化の血」を自ら封印し、
小さく縮こまって生きる道を選んだ。
それが、魔王の時代まで続く「怯えの歴史」の始まりだった。
記録の最後に、巨人王の最後の言葉が刻まれていた。
「いつか、真の呼び覚まし手が現れるだろう。
その者は、異星の闇を打ち破る光を持つ。
我らの血を継ぐ者よ。
巨大であることを、恐れるな。
それは、世界を守るための『責任』なのだ」
光が消えた瞬間、俺の体が熱くなった。
胸の奥から、純粋な金色の光が溢れ出し、
部屋全体を照らした。
俺は理解した。
俺はただの転生者ではなかった。
前世の記憶を持つ「最後の巨人」として、
この世界が巨神に侵された時に、
封印を解く鍵として選ばれた存在だったのだ。
「……責任、か」
俺は拳を握りしめた。
部屋の外では、仲間たちが待っていた。
リナ、エルウィン、グラム、バルドガン、シルヴァリア、ガルヴァン、ルカ、ヴォルガルド。
みんなが心配そうに俺を見つめる。
リナが最初に駆け寄ってきた。
「ケンタ……どうだった?」
俺は静かに、しかしはっきりと言った。
「わかったよ。
巨人族の本当の役割。
俺たちは、ただ巨大なだけじゃなかった。
世界の均衡を守る『責任』を持って生まれてきたんだ。
虚空の巨神は、それを壊そうとしている。
だから……俺は、もう逃げない。
この体を、みんなを守るための力に変える」
バルドガンが豪快に笑った。
「ようやく本気を出したな、盟主!
鋼のドワーフは、お前の後ろについて全力で支えるぞ!」
シルヴァリアの枝が優しく俺の肩に触れる。
「森も、共に歩みます。
あなたの光が、すべての命を照らしてくれますように」
ガルヴァンが静かに頷く。
「神獣の牙と爪も、貴様に預ける」
ルカが目を輝かせて拳を突き上げる。
「俺も! ケンタ兄貴と一緒に、絶対に勝つ!」
ヴォルガルドが低く、力強く言った。
「我もだ。
古き血の盟約は、今、ここで新たに繋がった」
エルウィンが静かに微笑む。
「人間の国々にも、ようやく本気の協力要請が出せそうです。
ケンタ、あなたの決意が、すべてを変えます」
俺はみんなの顔を、もう一度ゆっくりと見回した。
前世の俺は、ただのサラリーマンだった。
毎日同じルーチンで、誰かの役に立つこともなく、
トラックに轢かれて死んだ。
でも今は違う。
ここにいる仲間たちと、
この世界を守るために、
俺は巨人として生まれた。
「ありがとう、みんな。
俺の過去も、巨人族の真実も、
全部受け止めた。
これからは……本気で戦う。
虚空の巨神を、この世界から叩き落とすまで」
その夜、要塞の最上層で、
六種族の灯火が一つに重なり、
金色の光が夜空を優しく照らした。
紫の霧はまだ広がり続けている。
しかし、俺たちの決意は、それ以上に強く、
静かに燃え始めていた。
巨人族の真実を知った今、
ケンタの戦いは、新たな段階へと進もうとしていた。
(続く)




