第12話 神獣の咆哮 ~牙を剥く者と、信じる者~
古代樹海を後にした俺たちは、南の広大な草原地帯「ガルム平原」へと向かっていた。
ヴォルガルドの背中は相変わらず広く、リナは俺の膝の上で風に髪をなびかせながら興奮している。
「次は獣人族だよね! 神獣の血統って、どんな感じかな? 狼? 熊? それとも虎?」
エルウィンが静かに答える。
「神獣獣人族は、昔から『大地の守護者』と呼ばれていました。
しかし、魔王の時代に巨大化した神獣たちが、魔王軍の先鋒として利用され、多くの里が壊滅したそうです。
だから今も、巨大化の血を強く恐れていると聞きます」
グラムが髭を撫でながら唸る。
「ふむ……対立しそうじゃのう」
バルドガンが腕を組んで低く笑う。
「わしら鋼のドワーフも最初は疑っていた。
だが、ケンタの光を見れば、信じるしかあるまい」
ヴォルガルドが翼を広げ、ゆっくりと草原に降り立った。
大地が揺れ、草が波打つ。
遠くに、石と木でできた大きな里が見えた。
神獣の里「ウル・ガルム」だ。
俺たちは人間サイズに戻り、里の入り口へ歩いて向かった。
門の前に、獣人族の戦士たちがずらりと並んでいる。
狼耳や虎耳、熊のような体格の者たち。
皆、槍や斧を構え、警戒心丸出しだ。
中央に立つ大柄な狼獣人が、低い声で言った。
「止まれ。人間とエルフと……ドラゴン? 何の用だ」
エルウィンが一歩前に出て、丁寧に頭を下げる。
「私は西の樹霊エルフ、エルウィンと申します。
魔王はすでに倒されました。私たちは『覚醒同盟』を結成し、皆さんの力を借りたいと思っています」
狼獣人の目が細くなる。
「覚醒同盟……? ふん。
また巨大化の血を呼び覚まそうというのか。
我々は二度と、あの忌まわしい力を解放しない。
巨大になれば、魔王のように狂う。
里を、家族を、すべて失うだけだ」
その言葉に、周囲の獣人たちがざわつく。
中には若い者もいて、興味深そうな目をしている者もいた。
俺は一歩前に出た。
「俺はケンタ。最後の巨人だ。
魔王を倒したのは俺たちだ。
お前たちの巨大化の血も、もう恐れる必要はない。
一緒に、世界を守ろう」
狼獣人(族長のガルヴァンというらしい)が牙を剥く。
「巨人……お前がその光の主か。
確かに、三日ほど前から体が熱い。血が騒いでいる。
だがな! 我々はもう二度と巨大化などしない!
お前たちが来たせいで、里の若者たちが騒がしくなっている。
帰れ!」
対立の空気が一気に高まる。
リナが俺の袖を引っ張る。
「ケンタ……なんか、怖い雰囲気だよ」
その時、里の中から若い狼獣人の少年が飛び出してきた。
耳がピンと立った、活発そうな少年だ。
「族長! 待ってください!
俺は……俺は巨大化してみたい!
魔王を倒した巨人さんが言うなら、本当に大丈夫かもしれない!」
ガルヴァンが少年を睨みつける。
「ルカ! 黙れ!
お前は知らん。あの時、巨大化した神獣たちがどうなったかを……
魔王に操られ、仲間を食らい、里を踏み荒らしたんだ!
巨大化は呪いだ!」
ルカが拳を握る。
「でも……このまま縮こまってるだけじゃ、何も守れないよ!」
空気がピリピリする。
俺は深呼吸して、声を抑えた。
「ガルヴァンさん。
俺も最初は同じだった。
この体が怖くて、村を踏み潰しそうで、ずっと縮こまっていた。
でも、仲間が信じてくれた。
お前たちも、信じてみないか?」
ガルヴァンが牙を鳴らす。
「言葉だけでは信じられん。
力を見せろ、巨人。
我々を納得させるだけの力だ」
突然、里の外れから黒い霧が噴き出した。
魔王の残滓か、それとも異星巨神の最初の使徒か。
黒い影の怪物が十数体、里に向かって殺到してくる。
ガルヴァンが叫ぶ。
「里を守れ! 戦え!」
獣人戦士たちが一斉に飛び出す。
しかし、怪物は強かった。
一匹が巨大な爪で戦士を吹き飛ばす。
俺は即座に巨大化。
30メートル級の姿になる。
「みんな、下がって!」
光の剣を抜き、一閃。
光の波が怪物たちを切り裂く。
ヴォルガルドが上空から炎を吐き、シルヴァリアの枝が鞭のように怪物たちを叩き落とす。
グラムとバルドガンが斧とハンマーで前衛を務める。
ルカが目を輝かせる。
「すげえ……あれが巨人の力……」
ガルヴァンがまだ牙を剥いたまま、迷っている。
一匹の怪物がルカに向かって飛びかかった。
俺は慌てて剣を振るうが、間に合わない。
その瞬間——
ルカの体が金色の光に包まれた。
彼の体が急激に巨大化し始める。
10メートル、20メートル……最終的に35メートル級の巨大狼神獣となった。
銀の毛並みが輝き、目が金色に燃えている。
ルカ(巨大化)が咆哮を上げる。
「グルルルゥゥゥ!!」
その一撃で、怪物が吹き飛ぶ。
爪の一振りで、数体を粉砕。
ガルヴァンが愕然とする。
「ルカ……お前……!」
ルカが巨大な体で里を守りながら叫ぶ。
「族長! これが俺たちの本当の力だよ!
怖がってばかりじゃ、何も守れない!
巨人さんが教えてくれたんだ!」
俺はルカの横に並び、光の剣で援護する。
「そうだ! 巨大化は呪いじゃない。
守るための力だ!」
ガルヴァンが歯を食いしばり、ついに決断した。
「……くそっ! 我も行く!」
族長ガルヴァンの体も輝き始め、45メートル級の巨大狼神獣へと変貌。
二匹の神獣が並んで戦う姿は圧巻だった。
戦闘は数分で終わった。
最後の怪物が光の剣と神獣の爪で消滅する。
里が静かになる。
ガルヴァンが巨大な体をゆっくりと縮め、人間サイズに戻った。
ルカも興奮冷めやらぬ様子で俺の前に来る。
ガルヴァンが俺をまっすぐ見つめ、深く頭を下げた。
「……巨人ケンタ。
我の目を覚まさせてくれた。
神獣獣人族、覚醒同盟に加わろう。
これより、牙と爪を、お前たちのために振るう」
ルカが笑顔で飛びついてくる(人間サイズで)。
「俺も! これからよろしくな、ケンタ兄貴!」
リナが俺の腕を抱きしめる。
「ケンタ……また仲間が増えたね!」
俺はみんなを見回した。
古竜ヴォルガルド、鋼の巨人バルドガン、樹霊巨人シルヴァリア、そして新たに加わった神獣獣人族ガルヴァンとルカ。
覚醒同盟は六種族となった。
しかし、ガルヴァンが真剣な顔で言う。
「だが……まだ完全ではない。
我らが感じるこの熱は、ただの目覚めではない気がする。
何か……もっと大きなものが、地下の奥深くで目覚めようとしている」
俺も頷いた。
異星の巨神の予兆。
まだ完全には目覚めていないが、確実に近づいている。
ヴォルガルドが低く唸る。
「次は、正式な同盟会議だ。
すべての種族が集まり、未来を決める時が来た」
草原の風が強く吹く中、俺たちは新たな仲間と共に歩き始めた。
巨大種族の時代は、本格的に動き出した。
そして、その先に待つ影は、想像以上に巨大だった。
(続く)




