ようこそ楽園へ
いきなりですが!ただいま、部隊は絶賛混乱中である!
事は少し遡り、後方にいた隊員が出口の扉に足を踏み入れた時に起こったのだ!!
突如として空間全てが闇夜に覆われ、そこかしこから不気味な声が聞こえ始めた。
『こっちは楽しいよ~~』
『ここは天国。欲望を満たしてくれる国~~』
『俗世なんて捨てて私達と暮らそ~~』
その声が頭に直接響いて彼等を誘惑する。
隊員の幾人かは仲間の制止の声も無視してその声に釣られるように部隊から離れて闇夜の中に消えて行く。
そんな異常事態に統率を取るのも難しく、犠牲者がどんどんと増えて行くばかり。
隊長を含め冷静な者達はこの空間から脱出しようと剣や魔法など使える手段を全て試すが、それらは闇夜に消えて行くだけ。
まったく効果はなさそうだ。
絶望的な状況に冷静な者達も声に釣られるように闇夜に消え、残り僅かとなった部隊を見て隊長も心が折れそうになる。
『辛いんだろ?こっちに来ればその辛さも解放されて仲間と楽しく暮らせるよ~~』
そんな心の隙間を狙うように声は隊長を誘惑する。
『ああ……もしそれが本当なら私もそちらに行きたい』
弱った隊長は誘惑の声に心を揺さぶられる。
『本当だとも。こちらに来れば君が望む光景があるよ』
罠にかかった獲物を逃さぬように、声は蠱惑的な声で囁きかけた。
『私の手を取れば見られる光景を見せて上げよう』
声がそう言うと何処かでパチン!と指を鳴らす音が聞こえた。
『あっ……』
隊長は呆けた声を漏らした。
目の前に映る光景を見て。
『どうだい?今、君が見ている光景がこちら側に来ればあるんだ。それはとても素晴らしく、幸せな光景だとは思わないかい?』
『ああ……』
果たして隊長にその声は聞こえているのだろうか?
闇夜に消えて行く背からだけではそれは分からない。
彼が見た光景も分からない。
だけど、それはとても幸せな光景だったのではないだろうか?
全てを見捨ててでも見たかった光景だ。
それが幸せな光景ではないと見捨てられた彼等が可哀想だ。
ああ……それは本当に幸せな光景だ。
存在しない光景を求めて足掻く姿……
この空間を生み出した一人として歓迎する。
ようこそ私の楽園へ




