エピローグ
起きたら自室だった。
今まで夢を見ていたのかと思う。
胸の上に黒い塊。重みはない。
エライ生き物?
スゥっと空気に溶けるように消えていく。
「ありがとう」
「由貴! 階段から落ちたんですって!? 生きてる!?」
勢いよくドアが開いて姉さんが入ってくる。
「ごめんなさいね。帰ってくるの遅くなっちゃって」
姉さんはひっつめた髪を無造作に解きながらベット脇に座り、僕を撫でてくれた。
「ランナー庇ったんだって? エライわ。でも、怪我しないで頂戴」
心配だわと頬を引っ張られる。
姉は優しい。
家族は受け入れようと、僕を僕のままでいいと受け入れてくれている。
『やってみたいことはないのか』
『やってみなさい』
『人と同じにできることがすべてではないから』
それを僕は否定と受け取った。
理解できないと諦めたのは僕。
理解できないなりに受け入れてようとしてくれていた家族を拒否したのは僕。
後悔するのはわかってる。
きっとそれでも僕が選びたいのはここなんだ。
「ランナーの人は?」
きっと、希ちゃん。
「かすり傷や打ち身はあったらしいけど、無事らしいわ」
ほっとする。起きたのだから何か食べないとねと姉が部屋を出て行こうとする背中。
「姉さん」
姉が振り返る。
「ありがとぅ」
笑って嬉しそうな姉。
僕は恵まれてるんだと思う。
世界が開けたわけじゃない。
何も変わっていない。
世界も僕も変わらない。
僕は公園のゴミを拾う。
部屋にこもるより、少しでも外に。
外は怖い。
視線が怖い。
それでもただ続ける。
僕が僕であるままに。
僕の場合。
きっと迷って後悔を続ける。
そう、覚えてられる限り。
「由貴さん!」
「ぁあ。こんにちは。希ちゃん」
誰かが受け入れてくれてるなら続けられる気がするんだ。




