敵だった相手との会話なんてちょっとほのぼのしてるくらいでちょうどいい。
「さて……あの者じゃが…………ぬ?」
「あぁ、負けちゃったぁ……美味しい血ぃが飲めると思ったのになぁ……残念だなぁ、悲しいなぁ」
パーカーちゃんに両手両足の腱を切られた吸血姫と言えば、切られたところから血を流しながら、残念そうだと呟いていた。
別段痛がっているようには見えず、ただただ感情を零しているだけだ。
「う~む……?」
「どうした? 魔女」
「あ、いや、あの者、どこかで見たことがあったような気がしとるんじゃが……どうにも思い出せん」
「あー、お前、ババアだもんな」
「……こればかりは、否定できんっ……!」
「そこは認めるのか……」
パーカーちゃんにババアと言われると食べると脅す魔女だったが、さすがに記憶関係は否定できないようで、苦虫を嚙み潰したような苦々しい顔をして肯定していた。
「まあ、実際魔法以外のこととなると、記憶力が途端に悪くなるからのう……しかし、儂に憶えがあるというだけで、称賛物なんじゃがな」
「知らねぇよ。っていうか、憶えといてやれよ……」
「知らん。相手がつまらんのが悪い」
理不尽である。
【外道で草】
【覚えてやらないんだ……】
【っていうか、見た目金髪ゴスロリ美少女の両手両足の腱を切ったまま放置して、そのまま普通に会話してるのは控えめに言って怖い】
【ただのヤバい奴だしなぁ……】
「さて、と。俺が勝ったことだし……約束は守ってもらうぜ?」
「……負けちゃったし、仕方ないかぁ……さぁ、煮るなり焼くなり好きにするといいよぉ。それとも、ここで殺しとくぅ?」
素直に負けを認めた吸血姫は諦めた様な声音でそう言う。
「いやしないけど?」
「え?」
「え?」
殺されると思っていたら、殺さないと言われて吸血姫は面食らった。
襲い掛かってきた相手を殺さないと言われたら、そうなるのも仕方ないと言える。
「殺さないの?」
「しねぇよ?」
「煮ないの?」
「なんで煮るんだよ」
「焼かないの?」
「焼く意味は?」
「ん~……いやないかな? え、じゃあ、ウチに何を求めるのぉ?」
「いや別に……なんか強い奴だったから戦いたかっただけで、その後はマジでノープラン。その場の勢い」
「……あらぁ~、なんというか、その……あなたは、すごく面白い人なんだねぇ」
【吸血姫ちゃん反応に困ってるwww】
【いやこれは困るだろ】
【要約すると、襲ってきたけど、戦ったら面白そうだったから戦っただけ、だもんなぁ……いややっぱ頭おかしいのでは?】
【サイコパスか……】
【っていうかあ、パーカーちゃん戦闘狂じゃね……?】
【戦闘狂な魔法少女か……ありだな】
「そうか? あんまり言われたことはないなー。……っと、そんなことより、一つ訊きたいんだけど、いいか?」
「なにかなぁ?」
「お前、人の血って吸った?」
「ん~? ま~、吸ったことはあるかなぁ。でも、殺してはいないよぉ?」
「ほんとか? お前、俺を殺そうとしてなかった?」
「してたねぇ」
「信用できねぇ……」
途中で殺そうとした時点で、殺していない、ということが全く信用できず、パーカーちゃんは顔をしかめた。
「いやいやぁ、だってあなた本当に美味しそうだったからぁ。捕まえて、一生ウチの血液袋になってほしいなぁ、とか思ってはいたけど、殺す気はなかったよぉ?」
「殺すよりヤバい言動してるって気付いてる?」
「???」
「これが吸血姫の思考回路かぁ……」
【うん、吸血姫ちゃんもヤバいわ】
【これは酷い】
【殺す以上にヤバいこと考えてて草生える。……いや生えないなこれ】
【怖すぎる】
「うぅん……」
「どうしたんじゃ? パーカーちゃんよ」
「いやぁ、考えてることは外道だったが、別に悪い感じがしないなこいつ、と思って」
「まあ、そりゃそうじゃろうな。今し方思い出したが、こやつ、儂の知り合いじゃし」
「だから……って、お前今なんて言った?」
「む? 知り合いと言ったんじゃが?」
「……はい?」
さらっと爆弾発言を投下したことで、一瞬時が止まった。
パーカーちゃんなんて、処遇をどうしようか迷っていたところに、この魔女の発言だったので、それはもうアホ面を晒していた。
美幼女なので、表情は可愛いが。
【知り合い……知り合い!?】
【え、どゆことぉ!?】
【まさかの知り合い展開だと!?】
【いやまあ、魔女さんもヤバい人だし、ある意味納得……?】
【いやそれ以前に、あんな危険人物が知り合いってヤバいだろ】
「ん~~~~? ……あ、もしかして……い――」
「おっと、そこから先は言うでない。儂は今、魔女、と言う名前で活動しておるのじゃ。本名は、ここでは言うでない」
吸血姫が魔女の本名を言いそうになるが、瞬時に魔女が静止をかけたことで名前が出ることはなかった。
「あ、やっぱりそうなんだぁ! わぁ、奇遇だねぇ。こんなところで会うなんてぇ? でも、なんでここに?」
「いや儂、ここのパーカーちゃんと一緒に配信者なる活動をしておってな。……あー、いや。パーカーちゃんよ。戦闘も終わったんじゃ。ここいらで一度配信は切るべきじゃ」
「ん? そうか?」
「うむ。ここから先の事情説明は、個人的情報も開示せねばならん。そうなれば、儂らも身バレ? とやらが発生するじゃろ?」
「たしかに」
【魔女さんしっかりしてたww】
【残念だけど、こればっかりはしゃーない】
【えー! まだ見たいんだけどぉ!】
【こんな気になるところで切るの!?】
「んじゃまあ、切るか。というわけで、今回の俺の初配信は以上だ! 次の配信は……特に決めてないんで、トワッターを見てくれよな! それじゃ、時間があったらまた見てくれよな! じゃあなー!」
「では、またのう」
【乙!】
【乙】
【マジで終わるのかwww】
【ここで終わるのは残念過ぎるけど、仕方ない……!】
【また見るよぉぉぉ!】
【登録したから、頑張ってね!】
そうして、配信をしっかり切ったかどうかを確認し、配信が終了していることを確認してからパーカーちゃんではなく、柚希は目の前で倒れたままの吸血姫に向き直った。
「とりあえず、そのままだと不便だろうし、回復させるかー」
「じゃな。儂がやろうか?」
「頼む」
「任されよ」
回復させることになり、魔女が回復魔法で吸血姫の切れた腱を回復させると、吸血姫はゆっくり起き上がる。
「ウチを回復させていいのぉ?」
「既に俺が圧勝した後だぜ? 問題はないなー。暴れるんなら、また切ればいいし」
「そっかぁ。ま、一度負けた身だから、暴れるようなことはしないよぉ」
「ならよし。……で? イル、こいつはなんなんだ?」
潔く、そして素直に暴れないと言った吸血姫を信用して、柚希はイルに目の前の吸血姫がなんなのか尋ねる。
「なんなんだって……見ての通り吸血姫じゃが?」
「そりゃ知ってる。知り合いってどういうことだ? お前、《魔女の焔》に住んでたんだよな? なんで外に知り合いがいる?」
「ん~、そうじゃなぁ……とりあえず、あれじゃ。儂は確かに《魔女の焔》に住んではおったが、生まれてずっとあそこにいたわけではない」
「は?」
「確証はなかったが……そこの阿呆がいることで発覚したのじゃが、まず、儂やそこの阿呆は柚希少女たちが住むこの世界から見たら、異世界にいた存在となる」
「……ちょ、ちょっと待ってくれ? 異世界? 本気で言ってるのか?」
とんでもない爆弾がぶん投げられたことで、柚希が狼狽える。
それはそうだろう。
ダンジョンに住んでいた謎の存在が、実は異世界の人間でした、などと言われたのだから。
「本気じゃが?」
「確証はなかった、と言うが、今はあるのか?」
「あるな」
「マジ……?」
「マジ。その確証と言うのは……魔法じゃな」
「魔法? なんで魔法……?」
「いや何。この世界の魔法と、儂が使用する魔法は似て非なる物でな。まず違う」
「え、違うの!? でもお前、俺の魔法改変してたじゃん!? ついでに、理論もばっちりだったよね!?」
柚希の脳裏に浮かぶのは、自分の魔法を改変した時のイル。
簡単にやってのけた上に、さらっと理論も理解していた。
なのに、これである。
「儂、天才じゃからな。見ただけであらゆる魔法を理解できる。故に、こちらの魔法理論も一瞬で習得した」
「バケモン過ぎる……」
「そして、そこの阿呆が現れたことで、確実にそうと思った」
「ウチ?」
「うむ。おぬしじゃ、阿呆」
「あ、あのー、イルミリアーナさん? 阿呆阿呆言うのはちょっと、心に来るんだけどぉ……」
ずっとイルから阿呆呼びされていた吸血姫は、眉根を寄せながらそう恐る恐ると言った様子でそうイルに言う。
「突然切りかかって来たではないか、おぬし」
「あれ、俺もなんか、お前に突然勝負を申し込まれかけたような気がするんだが……」
「阿呆よ、おぬしはやはり問題ない。突然切りかかって来ても、柚希少女相手であれば問題はない」
自分が不利になることを言われた途端、手のひらを返して許すイル。
柚希の額に青筋が浮かんだ。
「お前、本当にぶん殴るぞ?」
「やれるものなら」
「くっ、なんて腹立つんだ……!」
煽るような笑みと共に言われ、柚希はぷるぷると震えながら拳を握って悔しそうにそう吐き捨てた。
「え、えーっと、お二人は仲がいい感じなのかなぁ?」
そんな二人のやり取りを見ていた吸血姫は、不思議そうに二人に尋ねる。
「ん、うむ。儂はこやつに加護を与えてな。で、今は仲良く、それはもう仲睦まじく、同じ屋根の下で暮らしておる」
「なんと……!?」
「言い方ァ!?」
「ちなみに、こやつは見た目はこんなに可愛らしいい幼女じゃが、中身は男じゃな」
「そうなのぉ!?」
「不本意だがな……」
「へぇ~~! ほぉ~~~~~! ふぅ~~~~~~~ん!?」
中身が男と言われ、吸血姫は目を爛々と輝かせて、じっくりと舐めまわすように柚希を見つめた。
「え、なに、どうしたの?」
「あ、いや何。こやつ、ギャップ萌えが性癖じゃから」
「は!?」
「正直、見た目がすっごく可愛くて、中身は男とか、ギャップ萌えがいいよねぇ! ウチ、大好物! 契り、結ぼ?」
そう言いながら、ぎゅっと柚希に絡み付いてくる吸血姫。
「契りがよくわからなんが、絶対碌なもんじゃないってことはわかる!」
「ちなみに、契りとはこちらで言う結婚じゃな」
「するかぁ!?」
「あぁんっ! いけずぅ!」
契り=結婚だとわかるや否や、柚希は吸血姫を振りほどき、結婚しないとバッサリ断った。
「図太! こいつ図太!? ってか、話の続きはぁ!?」
「めんどくなってきた。とりあえず、家で話さんか? そもそもここ、ダンジョンじゃし」
「……あ、それもそうだな。家帰るか……あー、えーっと吸血姫。名前は?」
「ウチは、ルールメル=グレアルドだよぉ。とりあえず、ルルって呼んでねぇ」
「おっけー。ルルな。んじゃ、お前も一緒にウチ来るか? どうせ、行く当てないだろ」
「え、いいのぉ?」
さらっと家に来ないかと提案されて、ルルは目を丸くした。
「おう。そこそこ戦えて満足したし、悪い奴じゃなさそうだしなー。悪人じゃなきゃいいよ」
「……イルミリアーナさん? えーっとぉ、柚希ちゃんってお人好し?」
「ものすごいお人好しじゃな」
「な、なんとぉ……まあでも、行く当てがないのは事実だからぁ……じゃあ、お言葉に甘えてぇ」
「おう。んじゃ、帰るかー。面倒だし、転移玉を使うかな……」
「じゃな。……あと柚希少女よ、おぬし、そこのルル少女がガッツリ配信で映ったこと、忘れとらんか?」
「いや忘れてないけど?」
「であれば……おそらく、探索者協会とやらに見られとるのでは?」
「……あ」
「えっとぉ……?」
イルの言葉に、柚希はそう言えばと思い返し、軽く頭を抱えた。
そんな様子を見ていたルルの方は、それが何なのかわからず、首を傾げる。
「あー、なるほどなー……OK。ルル、先にちょっと行くところができた。家に帰るのはその後でいいか?」
「ウチはお邪魔する身だから、気にしないよぉ」
「ありがとな。そんじゃ、一度帰るかぁ……」
ルルというイレギュラーに遭遇した上に、それに圧勝してしまった柚希。
配信時の同接数が100万人を遥かに超えていると言うことに気付くことはなく、三人はダンジョンを出て、探索者協会へ向かうのであった。




