初配信の朝は早いのだが、話しすぎやら魔女の寝坊やらで遅くなる。つけっぱなしのテレビには不穏な何か
柚希、イル両名がダンジョン配信事務所『ゆるだん』に所属することが決まってから十日。
その間、柚希とイルは事務所に赴いて、コンプライアンス研修を受けたり、配信の仕方について聞いたり、今後の方針について決めたりと、それなりに忙しくしていた。
早速SNSサイト、トワッターで公式アカウントを開設させ、動画配信サイトでもチャンネルを開設すると、いきなりフォロワーは1万、チャンネル登録者数は3万人弱に。
二人はいまいちよくわからず首をかしげていたが、姫からかなりすごいことと言われると、へぇ~、とわかったような、わかってないような、そんな反応を見せた。
そうして今日は、初配信をする日だ。
「んむんむ……うぅむ、やはりおぬしの作る食事は美味いのう」
いつもより早めに朝食を摂っていると、イルが柚希の作った朝食を食べながら、そんな感想を口にする。
「あんがとなー。ちなみに、お前の好みはどんなもん?」
「そうじゃな……個人的に好きなものは多いが……やはり味噌汁かのう? おぬしの作る味噌汁ならば、毎日飲みたい」
「んぐふっ」
「む、どうしたのじゃ? 儂、何か変な事言ったかのう?」
「けほっ、こほっ……だ、大丈夫だ、気にしないでくれ……」
(ナチュラルにプロポーズ見たいなセリフを言いやがって……)
かなり昔にそういうプロポーズ的セリフがあったらしいことを知っている柚希は、イルの発言に思わず噴き出す。
イル本人は唐突に噴き出したことに疑問符を浮かべているが、ダンジョンでずっと暮らしていたイルからすればよく分からないので。
「しっかし、まさか配信者になることになるとはなー」
「なるつもりはなかったのか?」
「ないなー。ってか、存在は知ってたけど、自ら進んでやろうとは思ってなかったんだよなー」
「ふぅん?」
「興味なさそうだな」
「興味のあるなし以前に、儂はおぬしのことを、出会った日以降しか、基本的に興味がない。あの時点よりも過去のおぬしになどには、基本的に興味はないのう」
「ひっでぇ……」
なかなかに冷たい物言いに、柚希は苦笑いを浮かべる。
「今のおぬしは、嬉々として配信者をやろうとしておるからのう」
「まあな。いやー、思いの外楽しかったしなー。じゃなきゃやらん。目立ったんなら、それを活用したくなるってもんだ」
「そうか」
「あとはまあ、面倒ごとを避けるためってのもあった」
「ほほう? 面倒ごととな? 何かあったか?」
「あるぞー。俺が元々、ソロで活動してた理由もそこにある」
「ふむ?」
「ほれ、俺の魔法ってちょっと特殊だろ?」
「まあ、そうじゃな。この十日でおぬしの魔法を把握したが、あれは特殊じゃな」
「だろ? あれが人目に触れてみろ、絶対ウチのギルドに! って勧誘されまくるからな」
「ふむ。そういうことか。つまりおぬしは、勧誘避けのために入った、と?」
「おう。半分はその理由だな」
柚希がゆるだんに入ることを決めた理由は、たしかに面白そうだったからというのもあったが、それ以上に勧誘が面倒になるだろうということも予想していたから。
柚希が下した自己評価の通り、柚希のあの魔法二種はかなり特殊な物。
それでいて、かなり強力な物であるため、それが露呈して有名にならないようにソロで活動していたのである。
だが、ここに来て、姫の事故二連戦である。
一度目は気付いてなかったが、二度目はそうではなく、普通に気付いた。
一度目で自分の魔法がバレたことを知ったので、まあもういっか! となったし、同時になんか面白いし! になったのがあの時の柚希である。
なので、柚希的には全然姫を責めるつもりは全くないし、面白い世界を教えてくれたことに感謝しているほどだ。
あと、個人的に柚希が姫をなんとなく気に入ったのもある。
やらかしこそすれ、根は善良だったので。
何せ、レベルⅥダンジョンの魔石やらボスのドロップ品やら、宝箱やらを返そうとしていたので。
あれが柚希的にポイントが高かったのである。
何はともあれ、柚希としては、あの魔法が露呈したことで発生するであろう勧誘ラッシュを避けるべく、ゆるだんに入ることを決めたのである。
半分。
「ほう? で、残りの半分は?」
「めっちゃ面白そうだった」
「じゃろうな」
「それ以外あるか? お前はどうなんだよ?」
「同感じゃな」
柚希の返しに、イルもにやりと笑った。
「ま、案の定デビューが発表されるまでの間、勧誘ありまくりだったけどな」
「あー、そういやおぬし、街中でも声をかけられとったな」
「おう。面倒だった」
「じゃろうな。しかしまあ、よくもそこまでのことになっておきながら、姫少女にキレなかったのう」
「別に。どうせ、どこかのタイミングでバレてはいたし、そもそも普段の探索でも使ってたしな。あくまでも、バレなきゃいいやくらいの気持ちだったんだよ。バレたら、そん時はそん時だってな。元々、隠し通せるものでもなかったし」
「まあ、二種共にかなり目立つ魔法じゃからのう。特に魔装」
「……お前さ、初めて会った日に、あの魔法の欠点として目立たないように、鎧のような形は出さずに体内に流す方がいいとか言ってたよな? なんで、改悪してんの? ドレスだよね、あれ」
イルに目立つと言われた柚希は、ジト目をイルに向けながら、初めて会った日に言われたことを護らなかったイルにそんな質問をぶん投げる。
イルは楽しそうな笑みを浮かべながらそれに対する回答を口にした。
「おぬしの職業が魔法少女じゃからな。そして、それを知った日に、魔法少女について調べた結果……どうも、ふりっふりな衣装を着て戦う少女であることが発覚したわけじゃな。であれば、それにふさわしいものに変えたくなると言う物」
「どんな理論!?」
「というか、おぬしの職業が邪魔したのか、あの形状以外ではもう一つの形にしか変化させられんかった」
「そっちでよくね!?」
「いやおぬし、さすがにビキニアーマーはちょっと……」
「どの辺が魔法少女なんだそれ!?」
どうやら、改変先はドレスかビキニアーマーだったらしい。
心が男の柚希からすれば、究極の選択である。
「知らぬ。故に、ドレス型にしたわけじゃ。ま、形状は儂の好みと、インターネットで拾ってきた数多の魔法少女の衣装を見て、儂なりに形にしたものじゃ」
「お前の趣味じゃん」
「否定はせん。儂は、おぬしくらいの年頃の者が好みじゃ」
「変態じゃねぇか!」
「儂は変態などではない。淑女じゃ」
「なんて奴だ……!」
こいつには勝てる気がしない、そう思う柚希であった。
「ま、あの形状にしてから調子が上がったのであれば問題はあるまい」
「単純に目立つんだよなぁ……」
柚希の頭の中に浮かぶのは、やたら可愛らしいドレス状の魔法である。
特に、火属性とか雷属性は、暗い場所ではかなり目立つことだろう。
「儂は好きじゃぞ、魔法少女モード」
「そんな名前じゃないよ???」
「魔装とかいうごつい名前より、魔法少女モードの方がよくないかの?」
「よくねぇよ!?」
「ふむ、わがままじゃのう」
「いやあれ、俺が作った術式!」
「儂は使いやすいように改良したが?」
「改良はな! でも作ったのは俺だ! ありがとうございます!」
「変なタイミングで礼を言うのう。あと、素直じゃな」
「礼はちゃんと言わなきゃだろ」
「それはそうじゃな」
「あー、なんかお前と話してると、時間があっという間に……って、やべっ。そろそろ初配信の時間じゃねぇか!」
時計を見れば、既に初配信開始予定時間の一時間前に。
それに気づいた柚希は慌てて残っている食事を口に放り込んでいく。
放り込みすぎて頬が膨らみ、その姿はハムスターのようだ。
「なんじゃ、もうそんな時間か?」
「お前がのんびり寝すぎてたせいだよ!」
「仕方あるまい。睡眠は記憶を定着、整理するために必要な行動故。儂の場合、魔法知識が膨大じゃからな。あと、おぬしも儂と共に話しておったではないか」
「お前が遅れなきゃよかったんだよ! いや俺も悪いけど! まあいいや! ほれ、行くぞ! 早く食え!」
「仕方ないのう……」
柚希に急かされ、イルはさっさと食事を済ませ、バタバタと二人は家を出るのであった。
『続いてのニュースです。現在、浜波市近郊のダンジョン《鬼火の氷園》で、イレギュラー注意報が発令されております。当該ダンジョンへの挑戦を考えている探索者の皆様は普段より一層の注意をするよう心がけてください――』
慌てて出て行ったことでつけっぱなしになっていたテレビには、何やら不穏なニュースが流れていたことに、柚希たちは気づくことはなかった。
◇
そんなこんなで、二人がやってきたのは、浜波市にある《鬼火の氷園》である。
今日はここで初配信を行う予定で、柚希とイルは昨日からかなり楽しみにしていた。
「ん? いつもより人が少ないな?」
そんな楽しみにしながらやって来た二人だったが、ふと、柚希がいつもより人が少ないことに気付いた。
「そうか? そこそこいるように思えるが……」
周囲にはぽつぽつと探索者らしき者たちもおり、イルからすれば普通にいる様にしか見えない。
なんとなくそれが気になった柚希だったが、問題ないだろうということで軽く流すことにした。
「ん~……まいいか。イル、準備はできてるな?」
「問題はないぞ。儂としては、おぬしの方の準備について聞きたいがな」
「……正直、めっちゃ好調」
「ならばよし」
「俺のパーカー、ちょっと改造しやがって……」
「別にいいじゃろ? おぬしは今後、パーカーちゃんという名義で活動するんじゃ。であれば、トレードマークたるパーカーもちっと見栄えの良いものにした方がいいじゃろ。しかもそれ、おぬしの《魔装》にかみ合うように作ったんじゃからな」
「そりゃ嬉しいけどさ……なんか、ずるみたいだな……」
苦笑い交じりに言いながら、柚希は自分の体を見下ろす。
そこには、先週まで身に着けていた愛用の灰色のパーカーではなく、裾部分が少し長くなり、何かの幾何学模様がうっすらと描かれた物に変わっていた。
これは、イルが柚希のために作った魔道具のようなもので、片手間で作ったものである。
土台は柚希が着ていたパーカー。
もっといい素材があると柚希は言ったのだが、普段から身に着けていた上に、何度も《魔装》を使用したことで、知らず知らずのうちに柚希の魔力がかなり馴染んでいたようで、一番よかったのだそうだ。
「何を言うか。おぬしは儂の生徒であり、儂の寄生先じゃ。ならば、万が一を想定しなければならぬ。それに、あくまでも魔装の形状と魔力消費のさらなる軽減を施しただけで、効力等は上がっとらん」
「ただでさえ、お前に魔法術式の改変をしてもらって、軽減がされてるんだがなぁ」
柚希的には、こうも楽して強くなってもいいのだろうか、と苦笑い気味である。
「気にするでない。不測の事態に備えることは大事じゃ。それに、おぬしはまだ儂よりも弱い。いつか儂を超えることはあるじゃろうが、なればこそ、用心が必要なのじゃ」
「ん~……ま、それもそうか。俺も死ぬ気はさらさらないしな。にしても、着心地が良いな……」
「じゃろ? 儂の特注じゃかなら。かなり物のはず。一応、効力を上げる物ではない故、いつも通りに使用しても問題はない」
「ありがとな。制御についても、この一週間で把握できたし、問題ないな」
「うむ。ならば、さっさと行くぞ。儂も早く配信と言う物をしてみたいんじゃからな」
「おう! んじゃ、早速始めようぜ!」
というわけで、柚希とイルは嬉々として配信の準備を始めるのであった。




