急募! 大勢の人々からの逃走方法! え? そんなの、ふっ飛ばせば勝ちじゃない?
配信を終え、《美食の迷宮》から出ようと、出入口に着いた時のこと。
「「うわぁ……」」
ダンジョンの外に広がる人の海に、柚希と姫が揃ってドン引きした声を漏らした。
「ふぅむ、今日もまた、随分と人が集まって来たのう。これが、こちらの世界のダンジョンの普通なのか?」
「んなわけあるか……ってか、なんでこんなに人がいるんだよ、今日も……」
的外れなイルの発言に、柚希はどこか疲れた様子でツッコミを入れつつ、疑問を口にする。
「えーっと……あ」
「櫻野さん、何かわかったのか?」
「あ、え、えーっと……その、さっきの配信、あったよね?」
「あぁ、あったな」
「あれ、大バズりしてました……」
「…………あ、あー、なるほどなるほど……? つまり、何か? あれは全部、櫻野さん目当てってこと?」
さっきの配信が原因で大勢の人が集まったのを理解した柚希は、その目当てが配信者である姫だと当たりをつけたが、姫は苦笑いしつつ首を横に振る。
「わたしじゃなくて、間違いなくパーカーちゃんと魔女さんだと思います。その、パーカーちゃんが世界一レベルで可愛い美少女さんだと言うことがわかっちゃったので……」
「世界一て」
たしかに可愛いけど、持ち上げすぎじゃない? それ、と柚希は内心で苦笑い。
尚、姫本人は割と本気で言っている。
「それで、どうしましょうか? 今出ていくと、かなり厄介ですよ……? わたしが原因な手前、こういうことを言えた義理じゃないですけど……あの、やっぱりわたし、死んだ方が……」
「さすがにそれはやりすぎ! ってか、気にしないってさっきも言ったじゃん? まあ、始まりは大事故だったが、俺としては面白い経験が出来たからよし! って感じだしなー。なんで、櫻野さんは今後気を付けてもらえばいいよ」
「ありがとうございます……うぅ、パーカーちゃん、世界一優しい……こんなコンプラ意識ガバガバで大事故を二度も起こしまくったわたしなんかにも優しくしてくれるなんて……わたし、一生尽くします……」
「そこまでしなくていいぞ!?」
なんか色々と重い姫に、柚希はツッコミを入れる。
「と、ともあれ……あれ、本当にどうしましょうか……その、普通に出ていくのも難しいと思いますし……」
「だーよなぁ……さすがに昨日のような手は使えないし……イル、何か方法あるか?」
「昨日のように、魔装で逃げるわけにはいかんのか?」
「さすがに出来ねぇよ……昨日は、女体化して、精密検査を受けるのが嫌だから逃げたんだぞ? ただ人を避けたいから、なんて死ぬほどしょうもない理由で逃げるのはダメだろ……」
「そうか。であれば、儂の幻覚魔法で――」
「ちょっと待ってください?」
アレな名前の魔法を提案しようとしたところで、姫が待ったをかけた。
その表情はとても真剣な表情だ。
「ん? どうかしたか?」
「あの、今女体化って言いませんでした……?」
「あ、そういや言ってなかったか……」
「うむ、おぬしの場合、口調が男のままだと言うに、普通に受け入れられておったし、誰も訊かんかったからな」
「そういやそうだなー。ん~……まあいいや。今言ったことは本当で、実は俺、昨日まで男だったんだよ」
「……へ!?」
さらっととんでもない爆弾をカミングアウトされ、姫はそれはもう素っ頓狂というか、間の抜けた声を上げた。
その表情自体も、間抜け面と言われてもおかしくはないが、本人が美少女なので普通に可愛いと言われるであろう。
美形は得である。
「こいつが俺に加護を無理矢理付与しやがって、それが理由で俺は幼女化。まあ、強くなったからいいけどさ……」
「ならば良いではないか」
「よかねぇよ!?」
「あ、柚希少女よ、お腹空いた」
「話の流れどこ行った!? ってか、唐突過ぎるわ!」
「いやしかし、検査やらカード作成やらで時間がかかり過ぎたからのう……というか、美味いものが食いたい! じゃあ、《美食の迷宮》に行こうぜ! と言い出したのはおぬしじゃろ。儂、空腹で魔力消費しそう」
「脂肪じゃないのか」
というか、魔力ってカロリーに代用することができるんだ……と二人は思った。
「とはいえ、この面倒ごとをどうしたものか」
「す、すみません……わたしが配信しちゃったばかりに……あの、死んでお詫びを……」
「だからなぜそうなる!? 何度も言ってるが、俺は別に気にしてないからな!? それに、ああいうのとか、配信者系の作品の主人公みたいで面白いしな!」
「おぬし、結構楽観的じゃよな。最初からそうであれば、儂が色々言われずに済んだのに……」
「自分の性別を変えてきた奴を家に住ませてるだけでなく、許してるんだが、どう思うよ?」
「タダ飯おいしー」
「殴っていい?」
「儂の結界を破れるのならば許そう」
「お、マジ? じゃあ……《魔装・纏雷》。ついでに、こっちも」
殴っていいと言う許可をもらったので、柚希は魔装を展開し、雷のドレスを纏う。
それと同時に、例の魔法で武器を作る魔法でガントレット型の武器を生成。
こちらの属性も雷だ。
柚希は慎重に少し離れた位置に移動し……
「よし! 魔女、お前そこから動くなよ! 結界忘れるなよ!」
ビシッ! と可愛らしく指さしながらそう言うと、イルは不敵な笑みを浮かべる。
「ふっ、いつでも来るがよい。この儂が、おぬしの魔法の強さを見てやろうではないか」
「え!? え!? あ、あの、二人とも何を!?」
あまりにも突飛すぎる状況に、姫はおろおろと慌てふためく。
なんで殴ろうとしてるの!?
みたいな。
「止めないでくれ、櫻野さん! 俺は今、こいつを全力で殴らなければならないっ!」
「そうじゃ! 儂はこやつの全力を受け止めなければならぬ!」
「えぇぇぇ!?」
「あ、危ないから離れててくれ。俺も本気でやるとどうなるかわからんし」
「はえぇぇぇ!? あ、あの! さすがにここ入り口ですよぉ! あと、職員さんたちだって迷惑そう……にしてないです!? むしろ、ポップコーン片手にコーラ持っちゃってます!?」
職員だって困ると思ってそちらを見れば、かなり離れた位置で優雅にポップコーンを持ち、片方の手にコーラを持ちながら、観戦する気満々の職員がそこにいた。
「じゃ、じゃあ、えと…………パーカーちゃん! 頑張ってーーーー!」
なぜか姫は柚希の応援をし始めた。
本当になんで。
「よーし! 行くぞ! 魔女!」
「バッチコイ!」
柚希は深呼吸を一つ行い、前傾姿勢を取る。
イルの方は、既に結界を張っており、その枚数は五枚。
五重での防御だ。
まさかの状況に、ダンジョンの入り口にいる野次馬たちは、なんだなんだと事の成り行きを見守っており、職員はポップコーンを食ってる。
姫の方はと言えば、こちらも離れた位置から固唾をのんで見守っているが、その視線の先には柚希しかおらず、魔女は一切入っていない。
というか、柚希しか見えてない。
あと、凛々しい姿のパーカーちゃん可愛い……!
と、口端から涎垂らしてる。
大丈夫か、美少女。
と、既に周囲がちょっとカオスになっているが、時は緩やかに流れ……そして、柚希が動いた。
ズンッ! と勢いよく踏み込んだ瞬間、
ドゴォォォォォォォォォォォォンンン!!!
と、地面や空気を激しく揺らすほどの、とてつもない衝撃が辺り一帯に広がる。
地面は割れ、衝撃波が野次馬たちを軽く転倒させ、職員たちはそれはもういい笑顔でコーラを飲み、姫は恍惚とした表情を浮かべていた。
そんな中、衝突した柚希とイルの方はと言えば……。
「チィッ……!」
「ふふん♪ この儂に勝とうなど、291年早いわい!」
結界四枚を割ったものの、五枚目の結界に拳を阻まれ、とても悔しそうな表情を浮かべ柚希は浮かべ、イルの方はとても勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「くっ、殴れなかったどころか、結界全部割れなかったっ……!」
「いやいや、三割の力も出したとはいえ、四枚の結界を割る時点で、おぬしは十分バケモンじゃよ。ただ、それよりも儂がバケモンだっただけじゃな!」
「三割!? マジかよ……俺、お前に勝てる気しないんだけど」
まさかの力の割合に、柚希は気が遠くなるような気がした。
結構な威力があったはずなのに、
「ま、年の功じゃな。っと、ほれ、思惑通り、今なら逃げ出せるぞ」
「おっ、ほんとだ。よし、櫻野さん! 今から逃げるぞ!」
「へ? え!? どういうことですか!?」
「人が倒れてるうちに、俺たちはとんずらってこと! あ、職員さん、探索者カード!」
「確認しました。お気をつけてお帰りください!」
「おう! あ、これ迷惑かけたってお詫びってことで、職員さんたちで食ってくれ」
そう言って柚希は今日確保した肉の一部を職員に投げ渡し、姫の手を引いて猛スピードで走り去っていった。




