第1話 最低保証の俺、VRMMORPGを始める
最低保証の演出が、やけに軽かった。
画面の中央で弾けた光は白く弱く、期待を煽るような間すらない。見慣れた、見飽きた、そしてもう二度と見たくもない結果だった。
「……はい、最低保証」
自嘲気味に呟きながら、俺はガチャ結果を流していく。
最低保証。
最低保証。
最低保証。
今回の目玉は、誰もが口を揃えて言っていた。バランスブレイカー。人権装備。これを持っているかどうかで、今後が変わるとまで言われていた。
だから俺は、貯めに貯めた石を全部使った。
これで出なければ引退する。そう決めて回した。
そして結果は、想定通りの大爆死だ。
想定通り、というのが嫌になる。
俺は運が悪い。
それも気のせいとか、思い込みとか、そういう生ぬるい話じゃない。ガチャを引けば最低保証がデフォ。最高レアなんて当たったことがない。冗談でも誇張でもなく、本当に一度もない。
「人権どころか、型落ちの最低保証だけかよ……」
今回もそうだ。目玉装備は当然なし。副産物として嬉しいと言われる類のものすらなく、並んだのは評価の落ちた最低保証ばかりだった。
このゲーム自体は面白かった。戦闘も、イベントも、育成も、ちゃんとしていた。だから、天井がないガチャでもここまで続けてきた。
だが、さすがに届かない。
努力でどうにもならない部分で、俺はずっと負け続けてきた。
あまりにも当たらなさすぎて、運営に何度も問い合わせを送ったことがあるくらいだ。返ってくる答えは、毎回同じだった。
確率上、極端に悪い結果が続く方もいらっしゃいます。
何万人かに一人とか、そういうやつだという。
でも、それが何度も何度も何度も続いたら、もう偶然じゃなくて俺の人生の仕様だろ。
ガチャだけじゃない。くじ引きでもそうだ。選べるなら一番悪いものを引く。引きたくなくても、なぜかそうなる。お祓いもした。幸運のお守りも持った。ゲン担ぎだって一通り試した。
それでも、結果は見ての通りだ。
「はぁ……このゲームも終わりか。面白かったのにな」
ゲームからログアウトして、天井を見上げる。
しばらくぼんやりしたあと、何もしないのも暇で、新作一覧をなんとなく流し見する。どうせゲームをやめても、別のゲームを探すだけだ。
ゲームは好きだ。
リアルの友達は、もう信用していない。俺の運の悪さを面白がって利用していた連中のことを思い出すと、今でも気分が悪くなる。失ったというより、こっちから見限ったと言う方が正しい。
だから娯楽はゲームだ。少なくとも、リアルみたいな嫌な顔は見なくて済む。
「次はどのゲームにしようかね……」
流していた指が、ひとつのタイトルで止まった。
今日サービス開始のVRMMORPG。
「前のゲームをやめた日に始まる新作、か」
妙な縁を感じて詳細を開く。
そこでまず目に入ったのは、嫌な単語だった。
ガチャ。
「うわ……」
思わず顔がしかめる。
だが説明を読み進めると、プレイスタイルによってはガチャ要素をほとんど使わずに遊べるらしい。
『Familiar Link Online』
モンスターを使役して遊ぶVRMMORPG。
AIを活用して作られたゲーム自体は今では珍しくないが、これは運営も進行も案内も、ほぼすべてがAIで動いている新しい試みらしい。
粗製乱造のAI作品は多い。だが、ちょうど今ひとつゲームをやめたところだ。少しくらい触ってみてもいいだろう。
「まあ、やるだけやってみるか」
そうしてインストールを済ませ、ゲームを起動した。
最初に流れたのはオープニングだった。
モンスターに追いやられ、人が狭い範囲で生きていた時代。だが人はモンスターを育て、共に生きることで生活圏を広げていった。
そしてあなた達は異邦人としてこの地に降り立ったのです――そんな締めの文句と共に映像が終わる。
ありがちな導入だが、嫌いではない。
次の瞬間、目の前に人影が現れた。案内役らしい。柔らかな笑みを浮かべたナビゲーターが一礼する。
「ゲームを始める前に、最初のプレイスタイルを選んでください」
淡々とした声と共に、説明が始まった。
「まずは一番おすすめの召喚スタイル。降り立つ世界とは別の世界からモンスターを召喚して戦わせる、主に世界をすぐに探索したい人におすすめです。戦闘でのステータス成長はありませんが、初期からレベルが高く、サクサクプレイが可能です。運よくランクの高い召喚モンスターが引ければ快適に――」
「次」
即答だった。
ガチャが主軸。しかも運が良ければ快適。
そんなの、俺にとってはスタート地点に立つ前から詰んでいる。ハードモードどころかインフェルノモードだ。
ナビゲーターは気にした様子もなく続けた。
「次におすすめは契約スタイルです。降り立つ世界の土地に住んでいるモンスターと契約して戦ってもらうプレイスタイルです。土地に縛られているモンスターとなるので、その土地では他のモンスターに比べて強さの上限が違います。その土地に限れば、すべてのプレイスタイルの中で最強でしょう」
そこまでは悪くない。
「ただし、探索して次の土地に行く際は大幅に弱体化するので、パーティを組む必要があります。主に探索ではなく、一部の地域で最強になりたい人や、戦い以外を求める人におすすめです」
「……パーティか」
召喚よりはずっといい。
だが、次の土地に行くたびに誰かと組む必要があるのは面倒だ。リアルで懲りている以上、他人を前提にしたスタイルはできれば避けたい。
「最後は?」
「最後は育成スタイルです。降り立つ世界の土地に住んでいるモンスターと契約して戦ってもらうという点は同じですが、土地から切り離してどこでも戦えるように育成するプレイスタイルです」
ナビゲーターの説明は淡々と続く。
「契約スタイルとは違い、土地によるバックアップを受けることができないので、弱体化したモンスターを育てることになり、序盤はなかなか苦労します。しかし、無限の時間をかけることができれば、最終的には召喚スタイルを抜いて育成スタイルこそ最強になるでしょう」
俺は少しだけ考えて、すぐに結論を出した。
召喚は論外。
契約はパーティ前提。
なら、序盤がきつくても育成しかない。
「育成スタイルで」
「了解しました」
ナビゲーターが軽く手を振る。
「モンスターが一匹もいないと戦えないからね。プレゼントだよ」
目の前に、卵がひとつ現れた。
これが最初のモンスターらしい。
「どんなモンスターが手に入るかは、君の運次第」
その言葉を聞いた瞬間、俺は真顔になった。
「終わったな」
思わず口に出ていた。
運次第。つまり運が良ければいいモンスターが出るということだ。そして俺は、そういう場面でまともな結果を引いたことがない。
ガチャなら最低保証がデフォ。
くじなら一番悪いのがデフォ。
なら最初の一匹が運次第なんて、ろくなことにならないに決まっている。
俺は半ば諦めながら卵をつついた。反応なし。持ち上げても何もない。撫でても叩いても、孵化する気配はなかった。
「どうすればいいんだ、これ」
ナビゲーターはもう次の案内に移るつもりなのか、特に何も言わない。
説明不足なのか、それともこのまま進めば何か起きるのか。
どちらにせよ、ここで止まっていても仕方がない。
俺は卵を抱えたまま、ゲームの世界へと降り立った。
本作はカクヨムで掲載中の作品を、小説家になろうにも転載していくものです。
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