第21話 盗掘団との遭遇(前)
私はサリオン様の腕の中で、魔石の洞窟の奥――大きな物音がした方を不安げに見つめていた。
「何人か、"人間"の気配がするな」
「人間……政府から、魔石の採掘に来た方でしょうか」
「いや、それならもっと大勢で来るだろう。この鉱山の採掘申請が出たという話は聞かないし」
声を潜めて会話を交わしながら、私は緊張で身を固くする。
サリオン様は違うと仰っているけれど、ロイド様の――フレアリス家と関わりのある方が鉱山にやってきた可能性も否定はできない。
「面白そうだ、見に行ってみよう」
「えっ。……ええっ!?」
私の心配を他所に、サリオン様は明るい声でそう言うと、私の手を引いたまま駆け出した。
抵抗できる筈もなく、私はそれに付いていくことしかできない。
先程音がした方へ洞窟を進んでいくと、明らかに人の声が聞こえ始めた。
近づいて岩陰から様子を確認してみると、十人足らずの集団が、道具を広げて魔石を採掘している。
「あ、あれは……」
「ふむ。魔石の盗掘だな」
私に身を寄せながら、サリオン様が興味深そうに語る。
「服に王都の紋章が無いだろう、正式な師団ではない証拠だ。魔石は高価だから、こういう輩はよく現れるのだよ。だが、ここで見たのは初めてだな」
「盗掘人……にしては、皆さん、良い身なりをしているようにも見えますが」
「魔術師が何人か混ざっているな。ここにも転移魔法できたんだろう。魔石は扱いに注意が必要だから、下っ端の盗賊連中よりも、貴族に雇われた窃盗団が実行していることが多い」
「そんなことが!?」
サリオン様の説明に、私は衝撃を受ける。
魔石採掘が重要な事業であることは知っていたけれど、裏取引なども行われていたなんて。
――それに彼の話が本当なら、目の前にいる盗掘団たちは、かなりの手練れということになる。
「サリオン様、どうしましょ――」
「よし、カナリヤに僕の格好良い所を見せてあげる!」
「えっ?」
「カナリヤはここに隠れていて。……良い子だ」
サリオン様はそう言って私の頬を一撫ですると、颯爽と立ち上がる。
私が声をかける間もなく、彼は盗掘団の目の前へ堂々と歩いて行ったのだった。
「やあ、君たち、採掘の許可は得ているのかな?」
突然、現れたサリオン様に、盗掘団は呆気にとられているようだった。
優雅ささえ漂わせながら問いかけるサリオン様を、私ははらはらしながら岩陰で見守る。
「なんだ貴様、どこかの貴族のお坊ちゃんか?」
「ここは遊びで来る場所じゃないぜ」
盗掘団の中でも剣を携えた男と、杖を持った男がサリオン様に対峙する。
格好から推測するに、彼らは盗掘団の護衛的な立場なのだろう。
「僕は丁度、散歩をしていたところだよ。そうしたら偶然、君たち悪い子を見つけたからさ!」
「なんだと!?」
「まさか、王都の役人か?」
「いや、ありえない、こんな所まで」
盗掘団の男二人はぶつぶつと会話を交わしていたが、やがて痺れを切らしたように、剣を持った男がサリオン様に飛び掛かった。
「まあ良い、貴様が何者であっても、無事に帰すわけにはいかないからな――!」
鋭い太刀筋が、サリオン様の身体めがけて振るわれる。
不意打ちのような攻撃に、私はひっと息を飲み、心臓が止まりそうになった。
(サリオン様!)
しかし、その刃はサリオン様を貫くことはおろか、触れることすら叶わなかった。
指先に纏わせた黒い魔力の塊だけで、サリオン様は刃をいともたやすく受け止めていた。
「おいおい。僕に近づいてくるとは、君は"命知らず"な奴だな!」
サリオン様が紫色の瞳を細めながら、愉快そうに笑う。
「僕が止めていなければ、君は死んでいた。感謝したまえよ」
その言葉と同時に、剣を持っていた男は勢いよく吹き飛ばされて、洞窟の岩肌に激しく叩きつけられた。高価そうな剣は呆気なく折れて、地面に突き刺さる。
「ひっ、お、お前、何者だ」
残された杖を持った男が、サリオン様の異常さを理解し、ガタガタと震えだす。
「僕? 僕はサリオン。サリオン・ノースフェル」
「ノースフェル辺境伯!? 北の化け物じゃねえか!」
後ずさる杖の男に対して、サリオン様が一歩前へ進み出て距離を詰める。
「くそっ、お前たち、道具を仕舞え、撤退だ! こんな奴、相手にしてられるか!」
「そんなこと言わずに、もっと遊ぼうよ。生きては帰さない、んだろう?」
取り乱し、必死の形相で逃走をはかる盗掘団を見つめるサリオン様から、黒い魔力のオーラが立ち上る。それは彼の人となりを知っている私から見ても、とても禍々しく感じられた。
「ポータルを開け! 王都まで飛ぶ!」
「だ、駄目です。開けませんっ!」
「なにっ、どうして!!」
半泣きになりながら叫ぶ彼らが"ポータル"と呼んでいるのは、地面に描かれた魔方陣だ。
おそらく転移魔法の起点なのだろうが、そこから出現したのは黒い無数の茨の蔓のようなものだった。
「ごめんね、閉じちゃった」
軽い調子で首を傾げるサリオン様の言葉に、盗掘団全員の表情が、絶望に歪んだ。




