表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/69

第16話 ヴァレンティーヌ家の暗雲(後)(★メアリー視点)

「ちょっと! 部屋が汚れたわ、掃除しておきなさい」


 私は使用人に命令すると、自室を出て街に出かけることにしたわ。

 ドレスの新調は断られてしまったけれど、お小遣いはまだ残っているもの。


 このイライラは、買い物で発散することにしましょう。



 馬車に揺られて王都の中心街までやってきた私は、馴染みの宝石店に向かおうとした。

 そんな私の背中に、声がかかる。


「すみません、お嬢さん。こちら、落とされませんでしたか?」


 振り返ると、レースのハンカチを手にした青いコートの人物が微笑んでいた。

 ロイドほどではないが、綺麗な顔立ちをした好青年だ。


「私じゃないわ」


「おや、驚いた。なんという美しい御方なんでしょう。天使が舞い降りたかと思いましたよ!」


 青年は大げさな身振りでそう告げたが、私は悪い気はしなかった。

 そうよ、私は美しいのよ!

 もっとみんな、褒め称えるべきなの。


「あらまあ、貴方、私を知らないの?」


「お名前を伺っても宜しいですか?」


「ヴァレンティーヌ家のメアリーよ」


「なんと、あの麗しいと有名な! お噂はかねがね、お会いできて光栄です」


 青年の誉め言葉に、落ち込んでいた私の気分はすっかり回復していた。

 笑みを深くする私に、彼がそっと顔を近づけてくる。


「できれば、もっと親交を深めたいのですが――貴女様と、二人きりで」


「えっ?」


 囁かれた言葉にドキリとする。

 青年がそっと視線を送った先には、護衛という名目で買い物に付いて来ていた古参の使用人の姿があった。


「……ふふふ、いいわよ?」


 私は彼の頼みを快諾して、使用人を帰らせた。

 使用人は渋っていたけれど、私が怒鳴り始めると大人しく言うことを聞いた。


「それでは参りましょう」


「ええ」


 彼が差し出した手をとり、エスコートを受ける。

 一瞬だけロイドのことが脳裏に浮かんだけれど――最近冷たいのがいけないのよ、と私は自分を正当化した。



 青年はマルコスという名で、商人の息子らしい。

 彼は気さくな性格で、常に私の味方をして褒め続けてくれた。


 身分的に結婚してあげる訳にはいかないけれど、遊び相手としては十分だわ。

 それに、もしどうしてもって言うなら、私の使用人としてヴァレンティーヌ家に取り立ててあげてもいいわね。


 すっかり気を許した私は、マルコスと一緒に入ったカフェテリアで、実家の愚痴をこぼす。


「どうして上手くいかないのかしら。みんな、もっと私を尊重すべきなのに……」


「全くです。こんなに美しく聡明なメアリー様を蔑ろにするなんて、どうかしています」


「そうなの! これじゃ、折角カナリヤを追放したのに意味がないわ」


「おや、カナリヤ様……といえば、」


「あら知ってるの? 私の元お義姉様のことよ。あんなみすぼらしい女を、姉だと言うのも恥ずかしいけどね」


「追放とは、ヴァレンティーヌ家から、ということですか?」


「そうよ、そうなの! だからね、今は私がヴァレンティーヌ家の一人娘よ。あなたのことだって、家に取り立ててあげることも出来るわ?」


 私の提案に、きっとマルコスは喜ぶだろうと思ったのに、何故か反応が悪い。


「なるほど、なるほど……」


 そう言ったマルコスは、一瞬だけ視線を伏せた。

 その瞳の奥に、暗い光がよぎった気がした。

 

「ねえ、マルコス?」


「おっと、もうこんな時間ですか。天使様と一緒だと、時間が経つのが早いですねぇ!」


「もう、って、まだティータイムを少し過ぎたくらいじゃない」


「いえいえ。メアリー様に何かあっては大変です。馬車までお送りしましょう」


「そ、そう?」


「そうですとも。大切に思っているからこそですよ」


「そう……分かったわ」


 私は半ば言いくるめられるように、カフェテリアを後にした。

 馬車までの道中も、何となくマルコスの態度はよそよそしく感じられた。


「ねえ、マルコス」


「ではお達者で、メアリー様――」


 馬車の扉が閉まる直前、ぞくりと背筋が冷えた。

 ……どうしてかしら。さっきまで、あんなに楽しかったのに。


 そしてあっと言う間に、私は屋敷へと送り返されてきてしまったのだった。

 後で調べても、商人の息子のマルコスなんて人物は存在しなかった。


 ――彼は一体、何者だったのかしら?


◇ ◇ ◇


 とある酒場の奥、客のいない時間帯。

 三人の男たちが低い声で囁き合っていた。


「噂はどうやら本当だったらしいな」


「ああ、間違いない。義理の娘が単純で助かったぜ」


「しかし、ヴァレンティーヌ家の直系のカナリヤ様を追放してしまうとはな」


「元々、あの家はカナリヤ様のお母様の系譜――賢者の血筋だからこそ重用されていたのに」


「既に王家からは詰められているって話だぞ」


「そもそも、後妻を迎えた時点で評判は悪かったものな」


「今後はヴァレンティーヌ家からは離れた方が得策のようだ」


「――沈む船からは、早く降りるに限るな」

お読みくださりありがとうございます。

ここで第1章完結となります。

フォロー、★評価、コメントなどで応援いただけると励みになります。


次話から始まる第2章では、カナリヤとサリオンの内面と過去が掘り下げられます。

ここまでお楽しみくださった方には、間違いなく面白いと思って頂ける内容になりますので、是非引き続きお付き合い頂ければ幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ