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Destiny.10 出発

「それじゃ、行こっか。学校の外へ」


 私は決意を持って立ち上がった。一拍遅れて沙知と千代も立つ。倫也も静かに頷き、私たち四人は教室の扉へと向かった。


 背中にクラスメイトの視線を感じる。何も言葉はないが、私はそれを見送りの言葉として受け取った。


「いちばん乗りでいい?」


 そう言って、私は足を一歩、教室の外へと踏み出した。覚悟の一歩を、夜の廊下とそれを照らす蛍光灯が冷たく出迎える。


 階段を下り、一階大広間を抜け、靴箱までたどり着く。静かに上履きを脱ぎ、自分の靴を足に嵌め込む。そこまで時間は経っていないはずなのに、靴の感触がやたら懐かしく感じた。


「ここから先が外か……」

「うん」

 

 千代の呟きに私は首を縦に振った。


「やっぱり怖いんだ?」

「う……うん、こうして見るとね……」

「大丈夫、いざという時は私がなんとかするから」


 自分でも驚くほど自然に、そんな言葉が口から出た。


 千代は一瞬だけ目を見開き、それから小さく笑った。


「……頼りにしてる」


 沙知がその横で、ギュッと拳を握る。体温が伝わってくる。


「私も……ちゃんとついていくからね」

「あまり……無理はしないでくださいね」


 背後から倫也の声も聞こえた。落ち着きのある声が妙に心強く感じる。


「うん、ありがと」


 何かあっても対応できるよう、私を先頭に出口を通り抜ける。


 校舎脇の道路を経て、校門を越えようとした時だった。


「がんばれー!!」


 突如として声援が頭上から降り注いだ。見上げると、校舎の窓にクラスメイトの姿があった。


「頑張ってね!」

「期待してるぞ!」


 何人かが口に両手を当てて叫んでいる。手を振っている人もいる。


「ありがとー!!」


 千代が叫び返すのを、私は笑みを浮かべて見つめた。


「期待されてるね、わたしたち」

「しっかり応えないとね」


 私は軽く手を振り返し、校門の外へと足を踏み出す。


 その瞬間、背後の校舎がひどく遠く感じられた。振り返れば、きっと戻りたくなる。


 だから、私は振り返らなかった。



―――――



 住宅街の細い路地を一歩ずつ歩む。いつもならあっという間に通りすぎる家々が、驚くほど大きく感じる。


「魔物、やはりいないんですね」

「うん……どこにもいないね」


 街の中は思ったよりも原型が保たれていた。住宅のコンクリート塀、コンビニの看板、信号機。建造物は全て健在と言っても良いほどだ。


 電気が全く通っていないことと、人や車が一切存在しないことを除けば。


「誰もいない」


 私はゴーストタウンと化した街を舐めるように見回した。


 ――人ひとりいない街ってこんなに寂しいんだ……。


「さくら、地図出せる?」

「地図?うん、出す」


 千代に従うまま、私は腕のデバイスに念じた。


「えっと、こうだっけ?」


 すると、デバイスの画面にとある地図が表示された。学校を中心に円が描かれている、千代が語ってたものだ。


 学校と円の境界の真ん中らへんに赤い点が打たれている。どうやらここが私たちの現在地らしい。


「まだ半分ぐらいなんだ……」

「ですね……」


 沙知と倫也が覗き込んで言う。二人とも、緊張からの疲労が顔に出ている。


「ま、もっと進みましょ。街の外がどうなってるかを見るのが今回の目的だから」


 千代が私たちを鼓舞する。声色からも、無理をしている感じがした。


 私たちは再び歩き出した。街からは次第に住宅が減っていき、代わりに小さい公園と畑が増えてきた。


「畑……」


 ――もしかしたら、食料も……?


 私は畑の方をデバイスで照らした。だが、期待に反して畑には何も植えられていなかった。


 しかも、一つの畑だけでなく、全ての畑がそうだった。


「食べ物は学校だけかあ……」

「……まるで、最初から用意されてなかったみたいですね」


 倫也が小さく呟く。


 私は思わず足を止めた。


 用意されていない。その言葉が、妙に胸に引っかかった。


 ――まるで、私たちを学校の中だけで生かすつもりみたいに。


「……行こ」


 私が落胆する気持ちを振り払うように道路の先を見つめた、その瞬間だった。


 道路の先に、木々が見えた。


「あそこ、なに?あんなものなかった……よね?」


 歩くにつれて道路のアスファルトには土が混じり、周りの景色は不自然な色を帯びるようになった。壁の色も、標識も。全てが見た記憶のある形なのに、見たことのない色をしている。


 それはまるで、世界がバグったようだった。


「なんか不気味……」

「地図、どうなってる?」


 千代が私のデバイスに目をやる。赤い点はほぼ円の境界と重なっている。


「ここが……境界」


 正面を見つめた私の前には、異様な光景が広がっていた。


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