10-1
投稿かなり遅れました。
大体花粉症の頭痛と微熱と急性中耳炎と口内炎と季節外れのインフルエンザのせいです。(掛かりつけのお医者さんにインフルエンザなんてどこからもらってきたんだい? と笑われました)
毎年この時期はダメなんですよね。まだ体調が万全でないので投稿が遅くなるかと思います。
皆様もどうかご自愛ください。
特に何事もなく学園へと着き、もう癖になってしまった裏門登校で昼休み前の静けさに包まれた校舎内へ入る。
水瀬と事前に打ち合わせた通り、先ずはこの時間授業の受け持ちが無い谷口先生を訪ねに職員室へと向かい、遅れました、の挨拶をする。
打ち合わせの際に水瀬から「ふたりで挨拶しに行くのはさすがに怪しまれると思うのだけれど」と、指摘が入ったがこれには俺なりの考えがあったので、任せてほしいと伝え、了承を取ってある。
「失礼します」
「お! 城戸と水瀬は今来たのか?」
今はまだ授業中のため、教員のあまりいない閑散とした職員室に入室するなり谷口先生に声を掛けられた。
「はい」と返事をした俺に遅れること数秒、後ろにいた水瀬も同じように返事をしていたが、その声はどこか震えているようにも聞こえた。
「ふたりとも体調はもう大丈夫なのか?」
「まぁ、なんとかって感じです」
「遅れまして大変失礼しました。私も問題ありません」
「うむ、そうか。……ところでふたりで学校まで来たのか?」
谷口先生の口から想定していた通りの言葉が出たので、俺の考えていた返答を使うべく適当に話しを合わせる。
「はい、そうですよ。偶然通学途中に会ったので一緒に来ました」
「う~ん……まさか示し合わせて学校サボって遊んでたとかないだろうな?」
「私の想定していた通りね」と主張したいのだろうか、水瀬が谷口先生から死角になっている俺の背中を小さく小突いた。
あまい! あまいぞ水瀬! これは俺の想定の範囲内なんだよ。むしろ谷口先生が疑ってくれた方が上手くいくからな。
「そんな訳ないじゃないですか~仮にも水瀬さんと自分ですよ? 自分だけならまだしも、真面目な水瀬さんがそんなことすると思います?」
「う~ん思えんな」
「それにもし、仮にふたりで学校をサボって遊んでたとして、わざわざ谷口先生のところにバレるリスクを背負っていきますか? 自分なら怪しまれないように時間をずらして別々に行くようにしますけどね」
「う~ん確かにその通りだな」
「後ろめたいことがないから堂々と谷口先生のところにふたりできたんですよ。わかってもらえましたか?」
「あぁ、そうだなすまなかった」
先ず谷口先生から絶対的な信頼を得ているであろう水瀬の真面目さを利用して、ありえないと否定させる。
次に今回の行動について整合性の取れない部分を自ら指摘し、誘導。
最後に我々は清廉潔白であると主張し、相手に認めさせて謝罪を勝ち取る。
たった3ステップで出来る簡単なレトリックで、これは様々な場面で応用が利くのでかなり使えるのだが……真顔で嘘を貫き通すことができないと御破算になるんだなこれが。
それと! 水瀬はいつまで俺の背中小突き続けるんだよ!? 後ろ手で掴むぞこのやろう!
「それでは自分と水瀬さんはこのまま教室に戻ればいいですか?」
「そうだな……後10分ほどで授業が終わるだろうから、それまでは待った方がいいだろう。どこか他の先生に見つからない場所で時間を潰してくれないか?」
小声でなに言ってんだこの教師!? サボれと!? しかも他の教師に見つからない様に?
……まぁ、谷口先生の言いたいことは大体分かってるんだけどな。要するに「今教室に合流されると授業が止まる恐れがあるから、昼休みになってからでよろしく」ってことだろ?
俺がそんな谷口先生の心中を推察していると水瀬が、
「谷口先生、それは今私達が教室に立ち入ってしまうと授業が中断してしまう恐れがあるから、と言うことでしょうか?」
と、俺の思考を読んだかのような質問をぶつけていた。
「さすがは水瀬だ。察しが良くて助かる。つまりはそういうことだ」
うんうんと頷きながら水瀬を褒める谷口先生。
あぁ、いや俺だって理解してたし! あれだな! 思いは言葉にしなきゃ伝わらないってホントだな! ……うん、多分違うだろうけど。
んで、褒められて嬉しいのか水瀬の小突きがやたらとリズミカルになったのが腹立つんだが。くそぉ、この恨み晴らさでおくべきか!
「はい、わかりました。そのようぅぅぅっ! ……ん。そのようにさせていただきます」
返答するタイミングを見計らって後ろ手で水瀬の手をいきなり掴んでみたら、思い切り驚いたようだった。
ざまぁぁぁぁぁぁぁぁ! そういや前に俺も水瀬にやられてこんなことがあったな。まぁ、丁度いい仕返しになったか。……それよか、笑い堪えんのが辛い。
「あ……あぁ。では頼むな」
谷口先生は訝しむような目付きで妙な間を開けてそう言うと、何事も無かったかのように自席に戻ってしまった。
あの場面で「どうかしたか水瀬?」とツッコんでくれたらもっと面白いことになりそうだったのに……って痛い痛い! つねるな水瀬! 引っ張るなぁぁぁぁ!!
「それでは失礼しました」
「い……失礼しました」
俺が掴んでいたはずがいつの間にか逆に水瀬に手をつままれ、そのまま引っ張られて職員室を退室するハメになった。
あれ? もしかして怒ってる? 激おこ水瀬丸さんの登場かな?
「城戸くん……あなたはどうしてほしいのかしら?」
職員室のドアを音も無く静かに閉めると、ポツリと水瀬が呟いた。
そうだな、取り敢えず手を離してもらうか。
「それなら先ずは手を離してくれないか? さすがに授業中だから他人に見られることは無いと思うけど、職員室前ってのは勘弁してほしい」
「そう……ならば職員室前じゃなければいいのね?」
水瀬は落ち着いた動作で手を離すと予想の斜め上の返答を口にしながら小首を傾げていた。
え? いやそうじゃないだろ! 恥ずかしがってもの凄い勢いで手を離す、って反応が王道だろ……あ! そうかコイツアホの子だったな。普通の反応は求めても無駄ってことか。
「いや、そういう意味で言ってねぇから!? もう好きにしていいから先生に見つからずにサボれる場所とやらに心当たりがあったら、連れて行ってくれ」
「……ん。城戸くん、先に言っておくけれど保健室は養護教諭の先生がいるから無理よ。変な期待はしないで頂戴」
「してねぇから!」
保健室か……確かにいいけど保健の先生が都合良くいない、なんてのはありえない。
それを踏まえた上で最適なのはやっぱり……体育倉庫だな! 授業開始と終了時に用具の出し入れをするだけなので、授業中は比較的安全地帯と言えるだろう……って何考えてるんだ俺は! 水瀬に流されるな! 水だけにな!
「ごめんなさい。体育倉庫だったかしら?」
「はぇぇぇぇぇ!? なんで! なんで分かったし!?」
ヒィィィィ! はぇ、って言うの完全に癖になっちゃったよおぉぉぉぉ! さっむいギャグ言って調子に乗った結果がコレだよぉぉぉぉ!
「あら、私は鎌を掛けただけよ?」
「あ……最悪だぁぁぁぁぁ!」
「……ん。色欲魔の城戸くん、叫んでないで早く行きましょう? ……私と城戸くんだけのとっておきの場所に」
俺が頭を抱えていると、水瀬は我関せずといった様子で歩いて行ってしまった。
途中俺がついて来てないことに気が付いたのか、長い黒髪を靡かせて振り向き、妖艶な笑みを浮かべながら意味深な言葉を口にした。
「色欲魔は水瀬だろ!」
そんな水瀬を見て思わずそう呟きながら俺は急いで後を追った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「広いな!」
水瀬に案内された場所に来ての一言。シンプルイズベスト。
「ここは中等部との兼用施設だから中々の規模なのよ」
「だから中等部寄りにあるのか」
「……ん。今私たちが入ってきた方が高等部の出入口。あっちが中等部の出入口よ」
「そうなってるのか。ここも後10分くらいしたら大混雑になるのか」
「そうね。逆に閑古鳥が鳴いていたらそれは食堂として由々しき問題だと思うのだけれど」
水瀬のそんな言葉に、そりゃそうかと納得しつつ改めて食堂を見渡す。
言わずもがな今は人っ子一人いない空間となっているため、嵐の前の静けさとはまさにこのことなのかと得心がいった。違う気もするが……。
「そういや水瀬っていつも飯はどこで食べてるんだ?」
俺は教室でコンビニ弁当派なのだが、水瀬は昼休みが始まると決まってどこかに行ってしまうのだ。
まさか今流行りのべん……いや、それはないよな?
「そこよ」
すると水瀬は一番奥のとあるテーブルを指差してそう口にした。
「食堂ってことか?」
「えぇ。そこが私の場所」
は? 私の場所ってなんだよ? まぁ、変な場所で食べてなくて安心したわ。……ってなんで俺が安心しなきゃならないんだ?
「そうか。今度食堂で食べてみるかな」
「……ん? 城戸くん、あなた今度も何も今日のお昼ご飯は用意してあるのかしら?」
水瀬に指摘されてから思い返して気付く。
あ! そういやあの時テンパってて、マスク買うことで精一杯になってたから昼飯買ってないな……やっちまった。遅めの朝食とポップコーンのおかげで少しはマシだが、昼飯が無いって分かると腹減ってくるんだよな。さて、どうすっかな~。
「忘れてたな、マスク買うことに夢中になってたわ」
「……ん。城戸くんがどう思っているかは分からないけれど、元はと言えば私が目覚まし時計のアラームを止めてしまったことが事の発端でしょう?」
「そう言われたらそうなるのか?」
「えぇ。そもそも時間に余裕があったらサボらないで登校していたと思うのだけれど」
「確かにそうだな」
「……ん。だからこの城戸くんの案内係たる私が今日は特別に食堂の使い方をレクチャーしてあげましょう」
腰に手を当ててやたらと偉ぶるようなポーズで微笑む水瀬。
そういや俺の案内係って水瀬だったなと思い出し、これで飯にありつけるぞと特に深く考えずに二つ返事で答える。
「おぉ、頼むわ」
「……ん。決まりね。そうしたらあそこの自販機で飲み物でも買って、お昼休みまで適当に時間を潰しましょうか」
「はいよー」
この時の俺は昼飯に気を取られて、重要なことを完全に失念していた。
それは、この学園での水瀬の立ち位置についてだ……。
ペース配分ミスで分割になってます。
次話の10-2で第2章終了となります。




