第37話 八家
八家はその名の通り、八つの家に名前が付けられている。
マクレミス家
ヴェルデラータ家
ベリオン家
ライラオルグ家
ミルベリシュ家
エメリア家
カラリス家
ハルレア家
以上が、八家に該当する姓である。
そして、イザークもマクレミスの姓を持っていることから、八家一門に属する一人だ。
部屋の中が、しん、と静まり返る。
暫しの間、誰も口を開かずにいたが、「あの……」と一人が声を出した者がいた。イザークがそちらを見ると、教師の一人であるデリック・ヴェルデラータが遠慮がちに手を挙げている。
イザークは不機嫌そうに「何だ?」と尋ねた。
「差し出がましいようですが、シルヴィスの件に関して申してもよろしいでしょうか?」
イザークはすぐに返事をせず、冷ややかな目でデリックを見ていた。
(シルヴィスと同じヴェルデラータ家の人間か。一門に責任を問われないようにするために、弁明でもするか?)
己と同じ一門の名を持つ者が、学校の保管庫に入れていた重要なものを無断で持って行ってしまったのである。盗みを犯した者が一門から出たとなっては、ヴェルデラータ家に泥を塗ったといっても相違ないだろう。
さらに言えば、八家の信用を揺るがしかねない。
スーベル島の魔法学校を支える者たちとして、市民に見本を示さねばならない立場の者が罪を犯したとなれば、外聞が悪くなる。
そうなればヴェルデラータ家の者たちの肩身が狭くなるのは目に見えていた。
(実際に処断を下すのは当主たちとも話をしてからだろうが、一応、話だけは聞いてやるか)
「いいだろう。話すがいい」
意見を述べることを許されたからか、デリックは少しほっとした表情を浮かべたのち、「恐れながら」といって言葉を続けた。
「シルヴィスは確かに、ヴェルデラータ家の姓を受け継いでおりますが、一門とはほとんど関わりを持っておりません」
「どういうことだ?」
イザークは眉を寄せた。デリックの言っていることの意味が、よく分からなかったからだ。
一般的に、八家の一門に生まれれば、必ずそれぞれの家の元で、次代の魔法学校をになっていくための教育をみっちりと仕込まれる。そのため、関わりがないなどありえないはずだった。
イザークの問いに、デリックは静かに答える。
「ヴェルデラータ家の血を継ぐ父親が破門されたため、シルヴィスには一門の者として教育を受ける資格がなかったのです」
「しかし、シルヴィスは姓を名乗っているではないか。それは、ヴェルデラータ家に認められているということに等しい。それにスーベル島で姓を持つ者は、八家の中の一門に属する者にしか許されない。もしそうでなく名乗っているとしたら、シルヴィスは盗みを犯したのとは別に、『身分を偽る』という罪を犯していたことになる」
イザークが捲し立てたが、デリックは一向に冷静だった。
「おっしゃる通りです。そのため私も、以前から同じようなことを不思議に思っていました。というのも、彼はヴェルデラータの姓を名乗りながら、一門の関連者が集う行事などには一切参加していなかったからです。それでヴェルデラータの系譜を管理している者に、何故シルヴィスにヴェルデラータ家の姓を名乗る資格があるのか、と尋ねてみました」
「管理者は何と言っていた?」
「シルヴィスの魔法使いの能力が高かったため、彼に父親が失った姓を与えたようなのです」
イザークは納得した。
「なるほどな。ヴェルデラータ家としては、シルヴィスを手放すのが惜しかったということか」
「はい。そのように考えてよろしいかと」
「だが、一門の教育は受けていない」
デリックはうなずいた。
「そうです。さらに申し上げれば、恐らく当主が来ないようにしていたのだろうと思います。そしてそれは当主の周囲の者たちは知っていたはずです。そうでなければ、シルヴィスが堂々とヴェルデラータの姓を名乗って、学校に通うことはできないでしょうから」
「確かにな」
しかし、当主が「来るな」と言ったのであれば、相当な理由がある。
一門の姓を名乗るのであれば、その面倒を見るのも一門の責任だからだ。
「シルヴィスの父親が破門された理由は何だ?」
もしかすると、そこに理由があるのではないかと思い、イザークはデリックに尋ねる。
だが、デリックは困った表情を浮かべ謝った。
「申し訳ございません。それは私も存じ上げないのです」
それに対しイザークはふっと笑う。
「まあ、それもそうか」
分かるようなことであれば、自分の耳にも入っているはずである。
しかし、聞こえてこないということは、裏を返せば「ヴェルデラータ家として言いたくない理由がある」ということだ。
(動機か。シルヴィスが何故このような行動を起こしたのか、興味がある)
イザークはにやりと笑うと、デリックからベアトリスに視線を移して言った。
「八家当主を極秘に召集させよ。集まる時間は、今から三時間後だ」
すると、その場にいた全員が狼狽した。
八家当主が校長命令によって召集されるというのは、余程の有事の場合のみである。
そのため、シルヴィスと関係するヴェルデラータ家の当主名代を呼んで話をすることはしても、八家当主全員を集めるなどあり得ないと思っていたのである。
「八家、全てでございますか……?」
不安そうな声で聞き返すベアトリスに、イザークは何をとぼけているのだと言わんばかりに、次のように命令した。
「同じことを言わせるな。犯人捜しの協力や今後の対策を含めて話し合わねばならないし、盗んだ者を捕まえたあとの処分もしなければならない。その上、八家からこのような重大問題を起こすような者が出て来てしまったことは、魔法学校の最高責任者として前途を憂慮してしかるべきだろう。今後のことを踏まえ、八家当主に集まってもらい話し合いをしたいのだ」
ベアトリスは威圧感に押され、すぐさま頭を下げる。
「……承知いたしました。すぐに〈召集〉の通達をいたします」




