表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煉獄を望む巫女  作者: 一乗寺らびり
9/15

九話:鈴の能力

 佐藤優子は考えていた。何故、奈緒の素肌を触っても毒の鈴の能力が発動しないのか。

 発動条件に、素肌で触れる以外のものがあるのか。それとも、巫女にしか効果がないのか。

 ここ数日、優子はそのことが気になり、夜も考え込んで睡眠時間を縮めるような始末であった。

 シロガネに聞けばすぐにわかるのであろうが、なんとなく自分で答えを出してみたい。そんな考えが、優子を神社から遠ざけていた。

 果たして、鈴の能力には知らない制限があるのだろうか。


「……優子さんや、何をやっているんだい?」

「あ!ごめん、つい!」


 そのようなことを考えながら、優子はつい、奈緒の頬を揉んでいた。

 学校の帰り道、駅前でクレープを買った二人は、仲良く並んでベンチに座って食べていた。


「もうっ!私が好きなのはわかるけどさ、こんな人前でお触りしてくるだなんて、大胆すぎやしませんかねぇ!」

「奈緒、その言い方は誤解を生むからやめて……」


 自分が発端なのを棚に上げ、優子は呆れたようにため息をついた。


「でも、優子が元気になったようで良かったよー。金のもう……鈴鹿さんになにかしてもらったの?」

「ええ、まあそんなところよ」


 優子はつい先日まで、柔道の花梨に負けたことを引きずり、考え込むことが多かった。しかし、美波から『音を消す』能力の鈴ともう一つの鈴を買ったことで、自信を取り戻したのだ。


(これであのジャージの人にも、他の戦い慣れた巫女にも、負ける気がしないわ)

「しかし、私以外にも友達ができたみたいで良かったよね、優子。まあ、それが鈴鹿さんなのは少し心配だけど」

「友達……?そうね、親しくさせてもらってるわ」


 あくまで鈴のやり取りのためだけの関係だが、それを奈緒に説明する義務もないため、優子は黙っておくことにした。


「ねえねえ、鈴鹿さんってどんな人なの?やっぱりお金に執着してたりするの?」

「そうね、確かにお金が……あら?」


 美波の話題になりかけたところで、優子の目にある光景が入ってきた。眼の前で、セーラー服姿の女性の鞄から、スマートフォンが落ちたのである。

 優子はベンチから立ち上がると、スマートフォンを拾い上げ、女性を呼び止めた。


「すいません、これ、落としましたよ」

「え?ああ、ありがとうございます」


 女性が優子の手から、スマートフォンを受け取ろうと手を伸ばす。そして、女性の指先が、優子の肌に触れた。


「……うっ……」


 その瞬間、女性の顔色が青白くなり、急にその場に蹲った。


「え、ちょっと、大丈夫ですか?」


 優子の言葉に返答する間もなく、女性はその場に倒れ込んだ。その目は白目を剥いており、口からは白い泡が吹き出している。


「なっ……!大丈夫ですか!?」

「きゅ、救急車!」

「奈緒、この人の介抱お願い!私が救急車呼ぶわ!」

「あいよ任された!」


 突然の事態に、辺りが騒然とし始める。何事かと人が集まり始め、渦中の優子たちはその視線を一斉に浴びる。


(この症状、毒の鈴の……まさか、この人……!)


 救急車を呼びつつも、優子は倒れる女性の方に集中する。奈緒に介抱される女性のポケットから、何か光を反射する、小さな物体が転げ落ちた。

 それは、複数個結び付けられた、鈴の集まりであった。


※※※


「……なるほど、それで僕のところに来たと」

「ええ、このことに関してと、他に隠してることがないか」


 茜色に染まる神社の軒下に、優子とシロガネは座っている。

 見知らぬ、戦いを挑んでいない巫女を病院送りにしてしまった件を反省し、優子は自分で考えるのを諦めたのであった。


「隠してるだなんて、人聞きが悪いなぁ。僕は聞かれたことしか答えなかっただけだよ」

「それ、味方のフリした悪役がよく使うセリフだけどね」


 ニコニコと笑っているシロガネを、優子は軽く睨みつける。


「その後大変だったんだからね。こんな短期間に、二度も警察のお世話になるなんて思いもしなかったわ」

「それは申し訳ない。優子の言う通り、鈴の能力は巫女にしか効果がないんだ」


 シロガネは、軒下から立ち上がると、夕日の照る下へと歩き出した。銀色の髪に日の光が反射され、キラキラと輝いて見える。


「例えば、炎を操る能力があったとするだろう?その炎は、ただの人間や物を燃やすことはできないんだ。巫女になった者しか燃やすことができない」

「じゃあ、剣や銃みたいに武器を出す能力は?」

「その武器でただの人間を斬ったり撃ったりしても、傷一つもつかないよ」

「なるほどね……」


 よほど都合が良く、かつ万能ではない能力なのだと、優子は少し残念に思った。


「私、『透明になる』鈴を持っているのだけれど、もしかして巫女からは見えていないだけで、これも普通の人には見えているってこと?」

「そういうことだよ。どの能力にも例外はない、って考えたほうがいいね」

「そっか……これで疑問は一つ解消されたわ。奈緒が無事だった理由が良くわかった」

「他に聞きたいことはないかい?聞いてくれたら、全て答えてあげるよ」


 優子は頭を捻る。そして、一つの疑問が浮かんできた。


「そういえば、鈴は身につけていると効果を発揮するって言ったけど、どれくらいなら離れても能力を使えるの?」


 普段、優子は使う鈴を制服のポケットに仕舞っている。それ以外の使わない鈴は、鞄にまとめて仕舞ってある。鞄に入れている鈴の能力も使えるのか気になったのだ。


「よほど離れてなければ使えるよ。そうだなぁ、今で言う五十センチだったかな?それくらいまでなら大丈夫だよ。ただ、身体から離せば、その分鈴を奪われる危険性は増すからね」

「それはそうね。実際、鞄を盗まれたことがあったもの」


 あの時、メインである毒の鈴を鞄に入れていなくてよかったと、優子は改めてほっと安心した。


「質問は……以上ね。ありがとう、シロガネさん」

「また聞きたいことがあったらおいでよ。と言っても、次に来た時には、もう鈴が集まり切っているかもしれないけどね」

「ふふ、そうだと嬉しいわね」


 優子はすでに、半分である五十を超える鈴を奉納していた。運良く鈴を多数所持している巫女と遭遇できたこともあるが、他にも要因があった。


(まさか、探知能力がここまで役に立つとはね)


 優子は、『周囲の鈴を探知する』能力も持っている。この能力を使い、鈴を多数持っている巫女を狙って戦いを挑んでいたのである。


(このペースで行けば、今月中には集まってしまいそうね。戦神楽が終わってしまうのは残念だけど、願いのためだもの、割り切らなきゃ)


 早くも鈴を集め終えた気になりながら、優子は軒下から立ち上がる。


「今日はこの辺りでお暇するわ。ありがとうね、シロガネさん」

「気をつけて帰るんだよ。優子は強いとはいえ、油断して鈴を奪われたら一発で終わりだからね」


 手を振るシロガネを背に、優子は鳥居をくぐった。


※※※


「あら、あなたは……」

「……佐藤、さん……」


 神社への階段を降りたところで、優子は黒野恵果に遭遇した。

 恵果は驚いた表情をした後、すぐさま落ち込んだように俯いてしまった。


「黒野さん、でしたっけ?奇遇ですね。また神社の付近で出会うだなんて、私達は戦ってはいけないのかしら」

「……」


 語りかける優子だが、恵果は何も喋らない。相変わらず俯いたまま、地面を睨みつけている。


「……ありがとう、佐藤さん」

「え?」


 ようやく口を開いた恵果から出た言葉は、優子が予測していたものと大きく異なるものであった。


「ありがとうって、何が?私、あなたに何かしたかしら?」

「少し、お話させていただけませんか?あなたには、言わなければならないことがある」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ