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騎士とJK  作者: ヨウ
第三章 天険カスケード
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第90話 盗賊のアジト

 カスケード山の森の奥深く、頂に向かう斜面に縦横10メートルほどの大きな穴が口を開けていた。盗賊のアジトは、この天然の洞窟の中にある。聞いてはいたが、思っていたよりもかなり広い。奥行きも相当にありそうだ。


 【索敵】スキルで中の様子をうかがうと多数の人の気配は感じられるのだが、内部が入り組んでいるため距離感や構造が掴みにくい。かなり人の手が入っているみたいで入り口から見える通路は平らに整えられ、階段まで整備されている。これだけの整備が出来ると言うだけで、盗賊団の組織力の高さが窺える。


 洞窟の入り口の前は50メートル四方ぐらいの広場になっていて、様々な物資が積み重ねられていた。俺は広場の外側から、木の陰に隠れて様子を窺っている。


「しっかし隊商を狙うなんてな。なんで、そんな危ない橋を渡るかね」


「傭兵団を敵に回してもロクなことがねえのにな。領兵を引き連れて来られたら、厄介だぞ」


 入口のすぐ脇にある小屋の前で3人の男が地面に座り込んで話をしていた。おそらく彼らは入り口を守る見張り番だろう。アジトに潜入するためには、あの見張りを何とかしないとならない。だけど、3人か……。


 中に潜入するためには見張りを音も無く倒さなければならない。一人だけなら忍び寄って無力化することも出来ただろう。二人ぐらいまでなら、なんとかなったかもしれない。


 だが3人となると声も出させずに倒すのは難しい。大声を出されたり、一人でも逃がしてしまうと、あっという間に見つかってしまう。


 人数が減るのを待つか、他に洞穴への入り口が無いか周囲を探索してみるか……。どうしたものかな……。


「今回の狙いはアリンガム商会の娘だけだったらしいぜ」


「あの黒髪の嬢ちゃんか?」


「ああ。あの小娘と商会の積み荷さえ奪えれば良かったそうだ。隊商の連中はもののついでだな。あのアントンとかいう奴隷商が売りさばくらしい」


「ははっ。そりゃ隊商の連中も災難だな。ついでで奴隷落ちかよ」


「あの嬢ちゃんはどうなるんだろうな」


「さあ。娼館にでも売るんじゃねえか?」


「へえ。大商人の令嬢が娼婦か。そりゃおもしれえ。売っぱらっちまう前にちょいと味見させてもらえねえかな」


「傭兵団の残りが王都に向かったら連れて行くそうだから、何日かはここにいるだろ。その間に楽しませてもらおうぜ」


 不穏な会話が聞こえてくる。アスカを娼館に……か。やっぱり急いでここに向かって正解だった。領主の支援なんて求めに行っていたら、手遅れになるところだった。


 それにしても狙いはやはりクレアだったのか。アスカの話では『お金持ちの商人の娘が攫われる』ってことだったけど、まさか現実になるとは……。


「それにしても隊商の積み荷はもったいなかったな。少しぐらい取ってくりゃ良かったのに」


「しょうがねえさ。30人も連れ帰るだけで手いっぱいだっただろ?」


「それにカシラから積み荷には手を付けるなって言われてたしな」


「ああ。でも何でだ? あれだけの積み荷がありゃかなり高値で捌けるだろ?」


「あのアントンとか言う奴隷商がカシラに言ったらしいぜ? 積み荷さえ置いて行けば傭兵団は追ってこないだろうって」


「もったいねえが、積み荷に手を付けて傭兵団に狙われるよりはマシだろ。捕まえた商人と傭兵も高く買い取ってくれるらしいぞ」


「へえ。確かに傭兵団からは追手の一人も来ねえな」


「ああ、この様子じゃ、こんなに警戒しなくてもいいんじゃねえか?」


「へへっ、そう思っていいもん持って来たぜ」


「おおっ! ガリシアの蒸留酒じゃねえか!」


「まじかよ! こんな上物どうやって手に入れたんだ!?」


「隊商の商人が持ってたのをまきあげたのさ。カシラの命令通り隊商の積み荷には手を付けてねえぜ? 積み荷にはな」


「うまいことやりやがったな! 飲もう飲もう!!」


「たしか干し肉と芋があったよな! いやー久しぶりに旨い酒が飲めるぜ!!」


 見張りの男たちが酒盛りを始めるのを、俺は気配を消して木陰から観察する。刻々と時間だけが過ぎていき焦りが募っていくが、ここで無茶をして見張りに騒がれてもマズい。


 ここは機が訪れるまで待つしかない。酒盛りを始めるぐらいだから、そのうち油断をつくことは出来るだろう。アスカが無事である事を祈るばかりだ……。


 それにしても……奴隷商のアントンか。傭兵団を追い払うために、あえて盗賊に積み荷を残させたとすると、それなりに頭が回るヤツみたいだ。


 見張り番の話からすると、クレアを攫うのを狙っていたヤツみたいだし、そいつが今回の黒幕なんだろうか。


 逆に盗賊たちは思ったよりも手強くないのかもしれない。100人規模の盗賊団というからかなり警戒していたが、見張りが酒盛りを始めてしまうあたり、規律の無い烏合の衆としか言いようがない。


 総勢20人程度の傭兵団と事を構えるのを恐れていたことから考えても、練度もさして高くなさそうだ。それでも数は多いわけだから油断は出来ないが……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 見張りたちの酒盛りは続き、夜が深まっていく。辺りを探索してみたが、他にアジトの入り口は見つからず無駄足に終わった。野営地を出てからここに着くまでおよそ2時間ほど、酒盛りが始まってからは1時間ほどが経過している。


「ふいぃー。酒が無くなっちまったな。めんどくせえが酒を持ってくるか」


「おぉー、行ってこーい。ついでにツマミも頼むぜー」


「ひっく! おれはー、ションベンして来らぁ」


 待ちに待ったチャンスがようやく訪れた。男たちの一人が洞窟の中に入っていき、一人が用を足しに森の中に入っていく。見張りは干し肉をかじりながら酒を飲む男一人になった。


 さて……襲撃開始だ。


 俺は【潜入】を発動しながら森に入った男の背後に回る。男は森に入ってすぐの木陰で用を足し始めた。


 ジョボジョボと流れる音に紛れて男に近づき、背後から口を塞いで漆黒の短刀で喉元を掻き切る。多量の血液を噴き出し弛緩する男の身体を、音が出ないようにゆっくりと倒し、そのまま低木の茂みの中に隠した。


 さて……次は未だ飲み続けている男だ。


 同様に気配を殺しつつ酒を飲む男の背後に近づく。やはりコイツらの練度は低い。酒に酔っているとはいえ、ここまで簡単に接近を許すなんてな……。


「うぐぅっ! う、うぅ……」


 俺は背後から首に右腕を回して締め付け、左腕でさらにきつく固める。男は俺の腕を掴みなんとか引きはがそうとするが、すぐに昏倒して腕をだらりと下ろした。


 コイツを殺すつもりは無い。酔いつぶれた見張りとして、ここにいてもらわないとならないからな。


 俺はポーチから陶器の小瓶を取り出し、少量の水薬を男の喉に流し込む。男の様子に変わりは無いが、これで半日は眠りこけるだろう。さらに酒を取りに行った男が使っていたカップにも水薬を注ぐ。


 これはアスカ特製の『うたた寝の水薬(ナップポーション)』だ。カスケード山を登る道すがらアスカが採取した睡眠豆(ナップビーンズ)魔茸(マジックマッシュ)から作った、即効性の眠り薬だ。


 そのまま飲めば数時間は深い眠りに落ちるし、揮発させた蒸気を吸い込んだだけでも意識が朦朧としてしまう。俺とアスカが実験体になって試したから効果は間違いない。直接飲ませなければならないのが難点だが、今日は活躍してくれるだろう。


 昏倒した男を焚火の横に転がす。空き瓶が数本転がっているから、誰が見ても酔いつぶれて眠ってしまったようにしか見えないだろう。酒を取りに行った男が戻って来て、カップに仕込んだ水薬を飲んでくれるとさらに都合が良いんだけどな……。


 寝転がる見張り番に一瞥をくれて、俺は洞窟の入り口に足を運ぶ。さて……潜入開始だ。




いつもご覧いただきありがとうございます。

じわじわPVとブクマが増えて嬉しい限りです。

マイペースに書いていきますので、引き続きよろしくお願いします。

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