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手の中の静寂なおと2

 なんだか、すごく美しい夢の中にいるみたい――。


 ついてきてほしい場所がある、と言われて大河と来たこの場所。

 鮮やかな緑がどこまでも続くかのような竹林の道を、私と大河は二人並んで歩いていた。


「あれがお前の本気、そうなのか?」

「……分かりません。だけど、大河を守る盾が無くてはと思って」

「盾――?」

「さっき、大勢の敵を目にしたときに気が付いたことがあって。……多分、魔を呼ぶこの着付けの儀式は、本来は大切な人を守るために始まったものなんじゃないかって――」

「攻めるための物ではなく、守るための、か」

「闘いに赴くときに、どうかこの人をお守りください――という願い、ですかね」

「……そうかもな」

「たぶん、私が大河を守りたくなったんだと思うんです」

「俺を――守る?」

 大河がハッとして顔をあげる。

「それでいつも以上に力が引き出せたのかなぁ、と」

「……なるほど」

「あの、私大河にいけすかないと言われてしまったけど!」

 私はぐっとこぶしを握り締めて言った。

「それでも、貴方の帯を締めることを許してくれますか?」

「な、なぁそれ」

 大河が頬を紅潮させて言った。

「まだ取り消せる……か?」

「え?」

「……忘れてほしい――」

「ん、忘れてほしいのなら」

 私は柔らかく微笑んだ。

「代わりに覚えておいてほしい事を、話してください」

 なんだよそれ、と大河は言った。

 大河は少し考えたのちに、

「……俺は剣士にずっと憧れがあったんだ」

 と、自分の過去について話し始めた。

「はい」

「近所の道場に通ってひたすら腕を磨いた。それから一人で空の……」

「空?」

 私は空を仰ぐ。

「夜の星空から、朝になるにつれて星が消えていくだろ」

 大河は空を指さした。

「ふふ、そうですね」

「その星が一つ消えていく間に、千回刀を振るんだ。この道でよくやった……」

「凄い!」

 大河は微笑んだ。

「でも、自分が本当に心の底から筋を見極め、刀を振れたと実感できたことは一回もなかった」

「そうなんですか……」

「それでも、剣の道を極めようと日々鍛錬し続けた」

 大河は迷うような素振りを見せながら続けた。

「それが……あの日、葵衣に着付けされた俺が、魔に助けられて香林を倒した時、もはや俺には剣士の存在意義が分からなくなっちまった」


 初めて大河に名前を呼んでもらえた嬉しさ、彼が吐露した心情に対して、何と言うべきか分からない複雑な気持ち。

 そんな中で私は、素朴な疑問を口にした。

「あの、くらげが嫌だったわけじゃないんですか……?」

「ちょっとこれは……と思ったけどな。結局は俺自身の問題だった。……剣士としての腕なんて関係なく、これからは魔さえあれば誰だって勝てるんじゃねえか、と」

「……そうだったんですね……」


 そんな感情を抱かせていたとは知らなかった。

 私が彼の求める剣の道を邪魔していたのかと思うと、申し訳ない気持ちが押し寄せてくる。


「でも、さっき、葵衣の着付けが、いつもよりずっと俺を剣士にさせていた気がしたんだ」

「良かったぁ……!」

 私は安堵の声を漏らす。


「それでもう、葵衣に対して意地張れなくなった――」

 大河はそう言うと、濡れた瞳で私を見た。



 ――あぁ、そういうことか。


 私はこの人が好きだと思った。


 好きだ、という気持ちはどうしても上手く説明できない。


 証明もできない。


 だけど、私と今並んで歩んでくれる彼は、竹林の中で絵のように美しく、他に何も考えられなくなるくらいだった。


 彼が平和以外の理由で剣を手放す未来があったとしたら、それは絶対に間違った未来だ……なんて、私の心は暴走気味に思ってしまう。


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