軽い記録媒体として羊皮紙を作ってみようか
さて、祭りも終わったのでこれから洪水が起こり村のみんながキルベト・クムランやハママート・マイン、エン・ゲティなどに行くとしてその度に俺達が案内しないといけないのは手間だ。
しかしアイシャに見せたような土に書いた地図では簡単に消えてしまうし、簡単に消えず持ち運びがしやすい記録用の媒体がほしいな。
この時代にはUSBやSDカードのようなメモリ媒体は当然として、ハードディスクやフロッピーデスク、磁気テープのようなものも、LDやCDのようなものも当然無い。
しかしながら人類が長年使ってきた記録媒体はある。
まずは石板や粘土板、それから木の板、それに羊皮紙だな。
中国には木簡や竹簡もあるがエリコの近くは森林資源に乏しい上に竹の植生は東アジアが中心でヨーロッパ、北アメリカ、インド以西の南西アジア、中近東には自生していない。
竹があると水筒などに使えて便利なんだけどな。
また、エジプトのパピルスのような植物繊維を用いた紙としてはアシやヨシを原料にした紙もあるが新石器時代ではそれらを作るのは極めて難しいので除外する。
で石板は石灰石のような比較的柔らかい石をそれよりも硬い石とこすり合わせて平らにしたあと、動物の骨や角の先端に細めの硬い石を取り付けて削って線や文字などを書くことで記録媒体にする。
粘土板は粘土をこねて平らな板状にしたあと文字などを刻んだあと焼成して作る。
ただ石板や粘土板は重い上に落とすと結構簡単にわれてしまうという欠点がある。
なので今回は羊皮紙を作ってみようと思う。
ちなみに羊皮紙はなぜ羊皮紙と呼ばれるのか?だが、羊皮紙というのは文字などを書けるように徹底的になめし処理された羊や山羊などの皮だ。
羊や山羊の皮である理由は、羊や山羊が古代地中海世界においては身近かつ数の多い家畜であり、なおかつその皮が加工に適して筆記に適していたから。
羊や山羊の皮はキメが細かく滑らかなため、繊細な筆記や装飾にも耐えることができ、写本の作成に最適で宗教的な書物としても古代からよく使われていたらしい。
なお、成牛や豚の皮は厚くて加工が困難なので羊皮紙としては使われなかったらしい。
もっともヤギの皮は柔らかく脂肪分が少ないため加工しやすい一方で、毛穴が目立つという欠点があり羊皮紙としての品質は羊のものより劣ったらしい。
そして子牛の皮は羊皮紙にできたらしいが、子牛の皮をわざわざ紙にするのは無駄が多いため、かなり高級なものとされたようだ。
で、羊皮紙の作り方だがまず原皮の処理からで祭りのときに解体された山羊と羊の毛皮を塩漬けにする。
一日ほどつけたら皮を水でよく洗い、塩と汚れを徹底的に落とし、今度は2日くらい水につけておく。
まずある程度汚れをきちんとおとしておかないと、後工程で肉や脂などの付着物が腐って大変なことになったり、皮にしみをつけることがあるらしいのでしっかり洗う。
汚れが落ちたら水槽に水と消石灰を入れ、よくかき混ぜて白濁液を作る。
ちなみに消石灰は川の貝の貝殻を高温で焼成し、生石灰に変化させたあと、水を加えて消石灰にし、すりつぶして粉末状にすればいい。
消石灰は昔は校庭の白線に使われていたアレだ。
そしてその水に毛がついた方を外側にして原皮を半分にたたんでこの溶液にたっぷり浸し、1日2〜3回棒で皮を動かしかき混ぜながら8日間浸したままにしておく。
次に、皮を取り出して毛を徹底的に取り除き、水槽の溶液を捨て、先と同様のプロセスを同量の新しい消石灰溶液でもう一度繰り返し行う。
その後皮を取り出し、水が透明になるまで皮をよく洗い、きれいな水のみが入った水槽に皮を浸し、2日間置く。
それから皮を取り出し、紐をつけて円形枠に縛り付け乾かす。
そして乾いたら鋭利なナイフで表面を削り、その後さらに2日間日陰で乾かす。
水で湿らせ、肉側を軽石の粉で磨き、さらに2日後、少量の水を肉側に振り掛けて再び湿らせて軽石の粉で磨き、さらに水で濡らす。
木の枠に紐をきつく締めて張力が均等にかかるよう調整し、シート状に固定する。
これで乾いたら羊皮紙が出来上がる。
羊皮紙を一枚作るのにも相当な手間がかかるのが、これでもパピルスを紙にするよりは楽だったらしい。
筆記用具としてはインクとしては樹脂を用いたワニスや煤を水に溶かしたものを鵞鳥の羽をつかった羽ペンでかけると思う。
とりあえずできた羊皮紙に煤を使ったインクと鵞鳥の羽の羽ペンでこの前地面に書いたような地図を書いてアイシャに見せてみた。
「アイシャ羊の皮で地図を書いてみたんだが、この前地面に書いたやつと同じだってわかるかな?」
俺がそうきくとアイシャはコクっと頷きにぱっと笑っていった。
「わかるー」
「そうかそれなら良かったよ」
今後エリコの住人がキルベト・クムランやハママート・マイン、エン・ゲティなどに行くときはこれを持っていってもらおう。