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年という概念は農業から生まれた可能性が高いんだよな

 さて、大麦の収穫も終わり、小麦の収穫も終わった。


 そうなると恒例の収穫祭だな。


 ちなみに”年”という概念は農業というか、もっと限定して小麦や米、粟などの穀物生産農業が始まってから完全に生まれた可能性が高い。


 年という漢字は会意兼形声文字で、禾+人もしくは千なのだが左側の(ノギ)は”実った穂の先が茎の先端に垂れかかる”象形から、成熟した穀物を意味するものなのだな。


 また”とし”とは稲の美称であり祈年祭は春の耕作始めにあたり、五穀豊穣を祈るお祭りで、”としごいのまつり”ともいわれていたりするな。


 ちなみに穀は穀物の実のある部分と実をつけた穀物が頭を垂れた姿と手に木の棒を持って叩く人を合わせたものなので、その漢字そのものが、本来は脱穀を表した文字なんだ。


 ちなみに刻というのも本来は水時計の目盛りの刻まれた単位だな。


 丑の刻まいりなんていうが日本でも江戸時代までは普通に使われていたよ。


 また味わい深いとか、味に深みがあることをコクが有るというが漢字で書くと”酷”なんだ。


 酷というのは本来は”ひどい”という意味ではなく、神へ捧げる酒を入れるを示し、酒が熟成され旨味ができたのでそれを神に捧げる様子を示したんだな。


 しかし、告げるという漢字を牛の口という成り立ちで喋ることができないという意味に後世で捉えてしまったことで意味がネジ曲がってしまったらしい。


 話が飛んだが年神というのは穀物の神であり、ギリシア神話のデ・メーテール、ローマ神話でのケレースとその娘ペルセポネー、ローマ神話でのプロセルピナの神話は大地母神であるとともに穀物神や飢饉の女神としての側面を持ち合わせてもいる。


 そうなった経緯なんだが、デ・メーテールの娘コレー(後のペルセポネー)が、突如行方が分からなくなった。


 その原因はゼウスが、ペルセポネーを后に迎えたいと言ったハーデースを唆し拉致させたということで、デ・メーテールはこれに激怒し、天界を捨て老女に変身し地上を放浪するがその間、大地は大いに荒廃し人々は飢えた。


 そもそもの原因であるゼウスはなんとかしようと虹の女神イーリスを遣わしデ・メーテールを説得したが、女神は怒りを解かず、コレー(ペルセポネー)の身元の確保を求め、それを条件として大地の豊穣神としての管掌を果たすと答えた。


 で、困ったゼウスはハーデースに女神の意向を伝え、ペルセポネーを地上に帰還させたことで、デ・メーテールに喜びをもたらし、それによって大地は再び豊穣と実りを取り戻した。


 おそらくこれはヤンガードリアスでの寒の戻りによる大飢饉とその後の温暖化による穀物農業の成功を示すのではないかと思う。


 とはいえペルセポネーは地上に帰還したが、冥府においてザクロの実を幾つか口にしてしまった。


 日本のイザナミもそうだが、冥府の食物を食べたものは、冥府の住民となる定めがある。


 のだが、デ・メーテールはこれにも抗議し、ペルセポネーがどのような経緯で冥府の食物を食べたのか、そして何粒食べたかについては複数の説がある。


 秩序は守らねばならないが、デ・メーテールの抗議も考慮せねばまた地上が荒れ果ててしまうので、ゼウスあるいはオリンポスの神々は、1年12ヶ月のうち食べてしまったザクロの実の数である4粒または6粒の月の数は冥府で、残りをデ・メーテールの元で暮らすことで決着を付けた。


 それによりデ・メーテールはペルセポネーがハーデースの元で暮らしている間は実りをもたらすのをやめるようになった。


 これは夏と冬のような季節あるいは雨季・乾季の起源譚であると言われている。


 まあそんな感じで穀物と年というのは深い関係にあるわけだ。


 そしてその本来的な意味を21世紀の日本人は忘れてしまっているんだけどな。


 狩猟民族の場合は熊や象、漁労民族ならばクジラのような、狩るのに皆で力を合わせないと狩れないような対象をみんなでかることが多いようだ。


 狩猟で得られた熊の魂に「肉と毛皮の恵み」を感謝し、クマの魂を天界に送り返したうえで再訪を願う”熊送り”がそれだな。


 というわけで俺は今エリコの子どもたちの収穫祭の時にやることをマリアと相談しているところだ。


「収穫祭の時に葦船に収穫した穀物を乗せて何人かで担いで持っていくようにしたいんだが、マリア的にはどうだろうか?

 それとその船は最低限エリコの周りが水で沈むまではそのままにしておきたい」


 俺がそう言うとマリアは首を傾げた。


「それにはどのような意味があるのでしょうか?」


「まあ、まずは単純にみんなで一緒のことをやってエリコの住人の連帯感を高めたいんだよ。

 せっかくの祭りだしな。

 あとは、もし何かあったときのために船に食料を乗せておいておきたいなって思ってるんだ」


「何かとは?」


「簡単に行ってしまえばエリコの壁を超えて水が入ってきてしまうようなことが起きたり、エリコの周りの水がずっとひかなかったりした場合だな」


「そんなことが起こるのですか?」


「多分、すぐにじゃないけどないずれは起こると思う。

 エリコの周りが水浸しになるのはいつものことだが、それがずっとエリコの街に入ってこないとは限らないだろ?」


「うーん、そう言われてみるとそうなのでしょうか?」


「まあ、そうならないのが一番いいんだけどさ。

 いずれにしても祭りをみんなで楽しめる様相にはなると思うんだ」


「なるほど、それなら良いのではないでしょうか」


 というわけで、今年の祭りから少し祭りで祭祀の内容に、俺も口を挟むことになっていくよ。

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あ。 あたしは『民族』という言葉が嫌いです。 何故なら『種族』と『文化』を混同した、非常に定義が曖昧な言葉だからです。 『民族』という言葉が『文化』を意味するのなら、『大和民族』は明治維新をもって…
うん、そうなんですよ。 『神族に連なる巨人伝説』って、ヨーロッパにだけ、多いんですよね。 (中国にも『盤古』なんて巨人伝説がありますけど、あれはそもそもの方向性が全く異なりますし) (ネアンデルタ…
おっと、『ヤンガードリアスイベント』をギリシア神話に結びつけるなら、『そもそも、ギリシア神話の神々や巨人』の元はなにか?についての説も述べておきましょうね。 あたはズバリ、彼らは『ネアンデルタール人…
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