表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/116

乳牛や鶏がほしいが当面は難しいだろうなぁ

 さて、とりあえず大洪水に備えて祭りという形式でキルベト・クムランへの避難訓練をするという計画は建ててみたが、実際に洪水が起きたときに助けられる人数はそう多くないかもしれない。


 例えば1999年の8月14日におきた玄倉川水難事故くろくらがわすいなんじこなどは、明らかに避難勧告にしたしたがわなかった連中がアホなだけだとは思うが、2008年7月28日の都賀川水難事故(とががわすいなんじこ)のような例もある。


 津波もそうだが洪水も水に飲み込まれてようやくヤバさに気がつく人間は少なくないんだよな。


 世界中に残る大洪水伝説では、神のような存在に大洪水があらかじめ告げられていても、ほとんどは信じずに水に飲み込まれている。


 日本だって100年から200年に一度は東北太平洋側や東海地震、南海地震などが起きているし記録も残っているが、それを教訓とできる人間は案外少ない気がするしな。


 更にエリコにおいてはヨルダン川が増水して、周囲が水浸しになるのは毎年起こることだ。


 だから100年後くらいには、その水がエリコの壁を超えて街の中にまで入り込んでくる事もあり得ると言っても、ほとんどは信じないだろう。


 とは言っても今の俺にやれることはやっておきたい。


 100年後には俺もアイシャも生きてはいないとは思うが、俺達の子孫はいるだろうしな。


 もちろん俺達の家族が助かりたいだけなら、家族揃ってキルベト・クムランなりエン・ゲティなり、マハマート・マインに移住してしまうという方法はあるんだが、なんだかんだでエリコの住人とはだいぶ仲良くなったし、できれば助かれれそうな人間は助けたいよな。


 まあそれはともかくとして、冬も終わって春になってきた。


 そして春は草木が芽吹き花をつける季節だ。


 小麦などが実をつけるのはまだしばらく先だが、順調にすくすく育ってるようだな。


 ヨルダン川をプカプカ浮いていた真鴨や雁はもうすぐ北へ旅立つだろう。


 まあ、俺達が穀物での餌付けに成功して太ってしまい長時間飛べなくなってしまった家鴨や鵞鳥は相変わらず俺の家の家畜小屋で寝泊まりしていて、日が昇ったらヨルダン川に向かい、そこで日光浴と水浴びをしては川の小魚や貝やはえてきた植物の新芽などを食べている。


 そして今年も無事に家鴨や鵞鳥の雛もたくさん生まれ、お母さんの後をよちよち歩いてついていっている。


 ちなみに家鴨や鵞鳥など水鳥の自然な繁殖期は4月頃で、卵を生むのも春だけだ。


 鳩のばあいは真夏以外はほぼフルシーズンで発情しており、年間に5~8回産卵することもあり、これは鶏も同様で年中繁殖を行い、卵を生むことができる。


 家鴨や鵞鳥、何なら雉でも室内飼いをして、温度管理や餌やりを厳密にやれば年中繁殖を行う様になる傾向が有るらしいけど、これは鳥の体に負担が大きいのであまり良くはないらしい。


 鶏は卵を産ませる事に特化した品種改良できた珍しい家禽なのだ。


 同様に山羊や羊の場合乳が出るのは春から初夏くらいまでだけだが、乳牛の場合は一年中牛乳を絞ることができる。


 まあ、鶏にしても乳牛にしても家畜化は8000年前ほどで、なおかつ一年中卵を生んだり、牛乳を出せるようになったのは、おそらく5000年前ほどからだろう。


 稲や麦、とうもろこしが野生種から栽培種へ変わっていくにも同等に時間がかかってるからな。


 さらに、現在のように乳用牛の泌乳能力が高まって飼料の生産もさかんになったのは、イギリスの育種家ベイクウェルらが組織的な品種改良を行ったり、飼料カブを基本作物の一つに組み入れたノフォーク式輪作農法が確立した18世紀に入ってかららしい。


 とはいえそういった酪農をしていた5000年ほど前のシュメール人は、牛乳を搾乳して神に捧げたり貴族が飲んだりしていたのは間違いないようだ。


 ちなみにシュメールでは牛の後ろに座って後肢の間から搾乳し、子牛を寄り添わせ、牝牛に乳を出しやすいようにしていたらしい。


 それはともかく鳥類の子育ては両親が協力的な場合もあるが水鳥の場合、気質的にお父さんは育児を全く手伝わないので、お母さんは大変だ。


 とはいえ例外もあったりはするが。


「とーしゃたいへーん」


 俺と一緒に家畜や家禽の餌を食べる様子を見ていたアイシャが川の方を指さしてそういった。


「かもしゃんたいへんなのー」


 アイシャが指さした先には、川の水に流された勢いで蓮のような水草の葉に乗り上げちゃってうずくまってる鴨の子がいた。


 雛とはいえ立派な水掻きの大足なのもあいまってとても可愛らしいがあの足だと歩きづらいよな。


「うーん、あの子どもはまだ歩くのが得意じゃないみたいだな。

 さてどうするか?」


「とーしゃたすけてあげてー」


「あ、ああ、そうだな」


 アイシャが悲しそうな表情で俺に言うのでうずくまっているひなをどうやって助けるか考えを巡らそうとしたところで、ちゃんとお母さん鴨が葉の上に乗っかって、葉を沈めて水に浮いた雛は無事に家族の元へ合流していた。


「かーしゃがたすけてくれた!」


「ああ、母は強しだな」


 大麦はともかく小麦の収穫はまだ少し先かなとは思うが、野草のルッコラやハアザミのアカンサス、リーフレタスなどはもう収穫できるので適当に引っこ抜いていく。


 この前考えていた収穫祭をやるなら、小麦が収穫できてエリコの周りが浸水する前が良いだろうな。


 祭りはエリコが水浸しになる前にやるならば、キルベト・クムランまで陸路で麦などを運ぶこともできるだろうし。


 まあ、最初はそこまでやらなくても、最低限ある程度の量の穀物をエリコの塔の最上部へ運んで蓄えておくだけでもいいかなとは思うけど、せっかくなら参加する子どもたちが楽しめそうな祭りにして100年後も途切れないようにしたいものだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ