第52話 コラボ
デスクマットが売れ続けていた。
月に三百枚。四百枚。オリジナルデザインを追加するたびに初回ロットが完売する。YouTube投資チャンネルの登録者が八万人を超え、告知するたびに購入が跳ねる。
だが天井が見えていた。
自社オリジナルデザインだけでは、買う層が限られる。「ギルドブランドのファン」しか買わない。ファンの数はYouTube登録者の数に紐づいている。登録者が増えなければ、売上も増えない。
もっと広い層に売るには——
「コラボしませんか」
SNS運用のクライアントの一社から言われた。
「うちの新作タイトルのグッズを、ギルドさんで作ってもらえませんか。公式グッズとして」
——公式コラボ。
自社デザインではなく、ゲーム会社のIP(知的財産)を使ったグッズ。公式ライセンス商品。
AIイラストの時に著作権で撤退した。あの時は無許可で似たものを作ろうとした。
今回は違う。公式だ。ゲーム会社が「作ってほしい」と言っている。ライセンス問題がない。
「やります」
——カナに損益シミュレーションを出した。
「公式コラボのデスクマットとアパレルです。ライセンス料はどうなりますか」
交渉した。ライセンス料は売上の15%。
シミュレーション。
デスクマット:販売価格四千五百円。製造原価千三百円。ライセンス料六百七十五円。粗利二千五百二十五円。
パーカー:販売価格八千円。製造原価二千五百円。ライセンス料千二百円。粗利四千三百円。
「自社オリジナルより粗利率は下がりますが、販売数が桁違いになる見込みです。ゲーム会社の公式SNSでも告知されるため」
ゲーム会社の公式SNS。フォロワー三十万人。俺の八万人の四倍だ。
カナが言った。
「承認します。初回は受注生産で在庫リスクをゼロにしてください」
受注生産。在庫ゼロ。全ての失敗から学んだルールだ。
——告知した。
ゲーム会社の公式Twitterと俺のYouTubeで同時告知。
「人気タイトル×ギルドブランド 公式コラボグッズ」
——三日で初回受注が千二百枚来た。
千二百枚。
自社オリジナルの初回二百枚の六倍だ。
売上:千二百枚×平均五千円=六百万。粗利:約三百六十万。
一回のコラボで三百六十万の粗利。
——これだ。
自社オリジナルは「ファンに売る」。コラボは「ゲームのファンに売る」。
俺のYouTube登録者八万人は上限がある。だがゲームのファンは何百万人もいる。コラボすれば、その何百万人にアクセスできる。
「メディアの視聴者をD2Cの顧客に変換する」モデルの進化版だ。「ゲーム会社のファンを、俺のD2Cの顧客に変換する」。
——二社目のコラボが決まった。三社目も。
SNS運用のクライアントは、俺がゲーム業界を知っていることを信頼している。その信頼が「グッズも任せたい」に繋がる。
SNS運用→信頼構築→コラボグッズ受託。BtoBとBtoCが繋がった。
カナのシミュレーション通りだった。いや、カナの想定を超えた。
D2C事業の月商が二百万を超えた。三百万を超えた。
——同時期に、ギルドボードSaaSも伸びていた。
三十社だった導入企業が、口コミで六十社になった。高橋がAPI連携機能を追加して、SlackやGoogleカレンダーと繋がるようにした。導入のハードルが下がった。
月額三万×六十社=月百八十万。
さらに、岡田の提案でギルドボードに新機能を追加した。
「ナイスDPSボタン」。同僚の良い仕事にワンクリックで賞賛を送れる。押すと「ナイスDPS!」という通知がSlackに飛ぶ。
ゲーマーでない会社の人が「DPSって何ですか」と聞いてくるのが面白かった。「ダメージ・パー・セカンド。一秒あたりの攻撃力のことです。転じて、良い仕事をした人への賞賛です」。
——岡田のもう一つの提案。
「クエストボード」。大型プロジェクトをレイドボスとして画面に表示する。チーム全員のタスク完了がボスのHPを削る。全タスクが完了するとボス撃破。全員にボーナスポイント。
チーム協力型のゲーミフィケーション。個人のスコア競争ではなく、チームで一つの敵を倒す構造。
導入企業から「社員のチームワークが良くなった」と言われた。
——越境ECも始めた。
AI翻訳で英語と中国語の商品ページを自動生成。ネイティブチェックを外注して品質を担保。Shopifyで海外向けサイトを構築。
日本のゲーミンググッズが海外ゲーマーに刺さった。特にコラボ商品。「日本の公式グッズが海外から買える」という価値は大きい。
海外売上が月五十万を超えた。
——人が足りない。
D2Cの受注が増えて、鈴木一人では回らない。コラボ商品のデザイン監修、製造管理、品質チェック、受注処理、発送管理。
D2C事業のリーダーを採用した。
前職は小さなアパレルブランドのEC担当。三十二歳。名前は河野。浩平の「受注生産+在庫ゼロ」モデルに共感して入社した。
河野が入ってD2Cの月商が五百万を超えた。一人の採用で事業が変わる。タイミングが合えば、こういうことが起きる。
だが河野が来る前に、二人の採用に失敗していた。
一人はEC経験者だったが、ゲーム業界に興味がなく三ヶ月で辞めた。「ゲームの話ばかりでついていけません」。
もう一人はゲーム好きだったが、EC運営の経験がなく、受注処理のミスが続いて試用期間で退職勧奨。
「ゲームが分かる+ECが分かる」の組み合わせは希少だ。河野はその希少な一人だった。
——採用は楽にならない。永遠に。
社員が十五人になった。
カナ、岡田、藤川、松本、鈴木、高橋、河野。正社員七人。アルバイト・業務委託が八人。
雑居ビルの二フロアではもう限界だった。
四階と三階を行き来するだけで一日に何十回も階段を上り下りする。全員で集まれる場所がない。新人が座る机がない。
——オフィスを移転する。
不動産屋に行った。五年前にも行った。あの時は「十万から十二万で」と言って八坪の部屋を借りた。
「六十坪くらいで、月四十万から五十万で」
担当者の対応が五年前とは違った。法人の実績を見せたら、候補物件が十件以上出てきた。
三件見て、二件目に決めた。
駅前のオフィスビル。七階。ワンフロア。窓がある。エレベーターがある。
窓から街が見える。Uberで走った道が見える。ブックオフに通った交差点が見える。ゲーム喫茶があった場所も——今は別の店になっている。
六十二坪。月四十五万。
デスクを二十台置ける。会議室が作れる。来客スペースが作れる。
——カナが契約書を読んだ。
「この条項、不利です。修正交渉しましょう」
五年前、八坪の部屋を借りた時はカナがまだいなかった。不動産屋に言われるまま契約書にハンコを押した。不利な条項があったかどうかも分からなかった。
今はカナがいる。契約書を一行ずつ読んで、不利な条項を見つけて、修正を交渉してくれる。
あの八坪の部屋で「やりません。でも数字は読めます」と言った人が、今は六十二坪の契約書を読んでいる。
あれから五年。
八坪が六十二坪になった。デスク四つが二十台になった。社員一人が十五人になった。
「カナさん」
「はい」
「ありがとう」
カナが一瞬だけ止まった。
「何がですか」
「五年間。数字で会社を守ってくれて」
カナが眼鏡を直した。
「仕事ですから」
仕事だ。そうだ。仕事だ。
——引っ越しの日。
雑居ビルの四階と三階の鍵を返した。
階段を下りた。エレベーターのないビルの階段を。
五年間、毎日上り下りした階段だ。
百キロの体では上れなかっただろう。今は七十二キロだ。ジムに行く時間が減って少し戻ったが、まだ上れる。
新しいオフィスにはエレベーターがある。階段を上る必要がない。
だが階段を上れる体でいたい。
——新しいオフィスに全員が集まった。
十五人。
窓から光が入る。エアコンが静かに動いている。会議室のドアがある。ホワイトボードがある。
カナが経理デスクの椅子に座った。いつもの姿勢。背筋が真っ直ぐ。
岡田がモニターを設置している。「代表、ここでいいですか」。
高橋がネットワークの配線をチェックしている。
河野がD2Cの商品サンプルを棚に並べている。
松本がYouTubeの編集用PCをセットアップしている。
——ギルドハウスだ。
五年前、八坪の部屋を借りた時に思った。「ギルドハウスを建ててからメンバーを募集する」。
建てた。メンバーが来た。手狭になった。もっと大きなギルドハウスに移った。
株式会社ギルド。
名前の通りのものになりつつある。
【個人資産】約1,380万(証券口座1,150万+銀行15万+NISA195万 ※評価額約232万)
※デイトレ口座1,150万。フェーズ4後半。2,500万が射程に
※NISA:65ヶ月目。元本195万
【法人】株式会社ギルド
<社員>
正社員7人+アルバイト・業務委託8人=15人
<月次>
売上:+820万
SNS運用七社130万
D2C(自社+コラボ+越境)500万
ギルドボードSaaS 180万(60社)
YouTube二ch 45万
攻略サイト 5万
WEBマーケ 2万(リフォーム会社。まだ続いている)
経費:−620万
人件費(正社員7人+バイト他8人)420万
家賃(新オフィス)45万
D2C製造原価・ライセンス料 120万
固定費・ツール・外注 35万
月次損益:+200万
<法人口座残高>:約2,800万
<年商ペース>:9,840万(月商820万×12。初の1億目前)
★年商1億が目前。月商820万★
★D2Cコラボが爆発。月商500万。全体の61%がD2C★
★ギルドボードSaaS 60社。月180万の安定収入★
★越境EC開始。海外売上月50万★
★新オフィス。62坪。窓がある。エレベーターがある★
★リフォーム会社のWEB月額2万。最初のクライアントがまだ続いている★




