第17話 新たな門出
聖獣保護作戦を成功させた1週間後、私は謁見の間に呼び出され、ラルヴァクナ国王から功労の言葉をいただいていた。
「聖獣保護作戦、本当にご苦労だった。…と、国王らしいセリフはこれくらいにしておきましょう。アメリアさん、本当にありがとうございました。」
「いえ、勿体なきお言葉でございます。」
私は頭を下げながら、ラルヴァクナ国王の言葉に耳を傾ける。
「面を上げなさい。貴女なしでは、この作戦は成り立たなかったでしょう。貴女がキルベキア政府から受けた仕打ちを考えると、あまりこの言葉は適切ではないかもしれませんが…我が国に来てくれたこと、感謝しています。」
私は再び頭を深く下げ、国王に軽く諫められる。
「イヴァンも、今回の件ご苦労だった。アメリアさんに迷惑をかけたりしませんでしたか?」
「ははは、多分大丈夫だったと思います。確証はありませんが。」
「なんと!アメリアさん、愚息は聖獣保護作戦の役に立てましたかな?」
「いえいえいえそれはもう!イヴァン王子の力があったからこそです!…私1人では、この聖獣保護作戦を決行することすらできませんでしたから。」
そう、実際に聖獣保護作戦を形にしてくれたのは、間違いなくイヴァンである。私はあの日、キルベキアの聖獣舎の事故の新聞記事を見て、聖獣の保護を打診するのが精一杯だった。私の声を無視することなく、きちんと拾って実行に移してくれたイヴァン、そしてラルヴァクナ政府のおかげでもあるのだ。
こうして私は、聖獣保護作戦の実績を認められて、ラルヴァクナの聖獣管理課の所属を命じられた。聖獣使いとしてキルベキア王国を追放された私は、隣の大国ラルヴァクナ王国で再び聖獣使いとして任命されたのだった。
◇◇◇
「…と、言うのが、ここ1週間くらいの出来事でした。事後報告になってしまい、申し訳ありません。」
私は両手と頭を地面に付け、正座をしながらブランディ夫妻に頭を下げていた。ラルヴァクナ国王の王命によりこの牧場を離れないといけなくなったことを。
申し訳なさでいっぱいであり、頭を上げられない私とは裏腹に、ブランディ夫妻は私の聖獣使いとしての復職に乗り気だった。
「捨てる神あれば拾う神ありってやつだな!あんた、良かったなあ!」
「本当に、素晴らしいことよ。子供たちは少し悲しむでしょうけど、きっとあなたの新たな門出を祝福してくれるはずよ。」
私は恐る恐る顔を上げ体勢を立て直す。パスカルさんは『何してんだあんたそれ。キルベキア流の挨拶か?』と何も気にしていない様子。ディーナさんも嬉しそうにしている一方で、怒っている様子はない。
「言ったでしょう?私たち夫婦は貴女の選択を尊重するって。」
「大丈夫だとは思うけど、嫌になったりクビになったらいつでも帰って来いよ!また雇ってやるからな、がはは!」
「あらあらあなたったらお祝いの場で不吉なこと言わないの!ふっ!!」
パスカルさんはディーナさんに脇腹を肘で突かれて、椅子から転がり落ちて行った。その様子を見て、私もディーナさんも思わず吹き出して笑ってしまう。
ブランディ夫妻とも話し合った結果、時間ができたときに再び牧場の手伝いをしに来ても良いと言ってもらうことができた。ラルヴァクナの聖獣管轄がどういう勤務形態なのかまだ分かっていないけど、イヴァンがたまにやっているブランディ牧場訪問のようにできるのが理想だなと私は考えた。
ラルヴァクナ政府にもダメ元で掛け合ってみた結果、イヴァンのような二足わらじ生活?を認めてもらえることになった。とはいっても、ラルヴァクナ聖獣舎の休みが貰える日に、私が勝手にブランディ牧場に押しかけに行くだけなんだけど。
聖獣という生き物相手の仕事だから簡単には行けないかもしれないけど、私は再び”聖獣使いのアメリア・オルコット”として必要とされたのだった。
◇◇◇
聖獣使いとして復職し数週間。かつての感覚も取り戻しつつあり、私の仕事は軌道に乗っていた。あれから数頭保護数が増えたり、天馬の一頭の妊娠が発覚したりとバタバタはしているけど、充実した日々を送っている。
ラルヴァクナ政府の聖獣管轄職員の方たちも、私のことを好意的に受け入れてくれて、とても助かっている。何人かから聖獣使いの力が見たいと打診されたため、信じてもらうためにも快く引き受けたりもしていた。
そして今日。いつものように、私は空いた時間で聖獣舎に隣接されている小屋に来ていた。ここにはラルヴァクナ政府によって飼育、管理されている天竜エングブロムのデータが集まっているため、私にとっては図書館のような場所になっている。
しばらくファイリングされた資料を見ていたら、小屋の扉が開く音がした。急いで顔を上げると、そこには見慣れた青年が立っていた。
「アメリア!」
「えっ…ルイス!?何故ここに!?」
そこには、かつての同僚であるルイス・ウェイドがいた。私はびっくりして、椅子から飛び上がる。ルイスは緩やかな足取りで私に近づき私に握手を求めてきた。
「今日からラルヴァクナ政府聖獣舎に配属になりました、ルイス・ウェイドと申します!アメリア先輩、よろしくお願いします!」
同僚だったルイスに先輩と呼ばれて、私は少しくすぐったかった。いや、そんなことより、何故ルイスがここに?疑問が絶えない私の表情に答えたのは、ルイスとは違うまた別の青年だった。
「俺が見つけてスカウトした。彼だろう?以前言っていた、お前を信じてくれた唯一の同僚は。」
建物の影から現れたのは、イヴァンだった。私は戸惑いながら、ルイスとイヴァンの両方の顔を見合わせる。ルイスはニコニコとした笑顔を絶やさず微笑んでいるのに対し、イヴァンが口を開いた。
「お前がキルベキア王国を追放されてすぐ、ルイスはキルベキア政府に愛想を尽かしたらしくてな。退職をしてこのラルヴァクナ王国の魔獣専門の牧場に就職していたんだ。」
「そんな…。キルベキア周辺には、他にも国がいくつかあったのに、どうしてラルヴァクナに?」
私の疑問に対し、ルイスは穏やかに答える。
「何となく、貴女がいる気がしたからです…って言うと、気持ち悪いですよね!本当は、住み込みで働ける他国の求人を探したら、その牧場を見つけただけなんです。ラルヴァクナ王国に来たのはたまたまで。」
ルイスは照れくさそうにしながら、これまでの経緯を話す。
「聖獣たちを置いて去るのは、良心が痛みましたけど、一職員でしかない僕にできることは何もないです。」
確かに、私ですらどうにもできなかったことを、より立場の低いルイスができるとは考えにくい。彼も彼なりに考えて苦しんだのだろう。
「なので、せめてもの罪滅ぼしじゃないですけど、一応他の職員にはギリギリまでノアの実の解毒薬のレシピを聞いてもらおうとしていたんです。僕はアメリアに聞いて、レシピを知っていましたから。まあ、一蹴されてしまいましたけど…。」
ルイスは困ったように眉間に皺をよせ、か細く笑う。ルイスにも立場があり、もし逆らいでもしたら反逆罪で最悪処刑にでもなりかねない。ここでルイスを批判できる者なんていないだろう。
「聖獣を保護したってニュースを新聞で呼んで知ってから、イヴァン王子が僕の元に来てくれたのです。『ラルヴァクナ政府管轄の聖獣舎に来ないか』って。」
「一応、聖獣の扱いに長けている元関係者だからな。特に薬草学に長けているんだってな?スカウトする人材としては持ってこいだったんだ。」
復職を決めてからは、怒涛の手続きの連続だったらしい。一応政府勤務の職員になるわけだから、採用試験を受けて、住み込んでいた魔獣専門の牧場の雇用主に頭を下げ、今日に至るという。
「最初はこいつも迷っていたんだよ、聖獣に携わる仕事を再びするべきかって。だけど、アメリアのことを話題に出したら、速攻でOKしてくれた。」
「ちょっとイヴァン王子!それは言わないでください!」
肩を揺らして笑っているイヴァンに対し、焦りながら手を動かしているルイスがおかしくて私も釣られて笑ってしまった。
またルイスと一緒に働ける喜び、イヴァンが聖獣のことを真剣に考えてルイスをスカウトしてくれたこと。私の心はとても満たされ、温かくなっていった。




