第15話 聖獣保護会議
少しして、イヴァンから聖獣保護案の最終決定の会議に参加してほしいと連絡が来た。私は二つ返事で了承し、王都にある王の城にある議会に向かった。
ブランディ夫妻には事前に、聖獣保護の件について話してある。私の我儘を夫妻は受け入れてくれて、2人揃って頑張ってこいと応援してくれた。本当にこの2人には頭が上がらない。
それと同時に、迷いもあった。私はこの先ずっとブランディ一家のために尽力すると心に決めていた。しかし、聖獣を保護しこの国で管理することになれば、牧場を離れなくてはいけなくなるだろう。
一度は聖獣使いとして追放されて、仕事として聖獣には携わらないつもりでいた。だけどポチと触れあい、キルベキアの聖獣のニュースを見て、やはり私は聖獣が好きなんだと改めて感じた。どうにか牧場と聖獣使いの両立ができたりしないだろうか、などと都合の良いことを考える。
(いけない、他のことを考えている場合じゃない。)
私はイヴァンの背中を追いかけ、会議場まで小走りで向かった。
◇◇◇
「初めまして、聖獣使いのアメリア・オルコットさん。儂はイヴァンの父であるジェラルド・ラルヴァクナと申します。以後、よろしく頼みます。」
「お招きいただきありがとうございます。改めまして、アメリア・オルコットと申します。」
入室した部屋には、現国王であるジェラルド・ラルヴァクナと複数名の大臣、天竜エングブロムの管理を行っている管轄の代表がいた。イヴァンもその1人らしく、彼は用意されている椅子に座った。私は国王に着席を促され、一礼したのち指定の席に着席する。
「貴女がキルベキア王国を追放された経緯、そして現在まで。それ以外のこともイヴァンから話は聞いています。」
「…はい。」
「話し合いを重ねた結果、イヴァンの言っていた貴女に聖獣保護の件を一任する、という方向で話しはまとまりかけています。ですが…」
国王は少し表情を曇らせ、私の顔を見つめる。何か粗相をしてしまったのかと不安になったけど、どうやら違うらしい。
「貴女の聖獣使いとしての力を、我々は見たことがありません。キルベキア王国にいた時代の噂は聞いています。ですが、オルコットの民は長年に渡り、キルベキア王政によって秘匿されてきた存在です。この会議に参加している一部の者が、その力を見ないと納得できないとも言っているのです。」
「聖獣使いとしての私の力をお見せして、納得いただければいいということでしょうか?」
おそらくまだ決めあぐねている数名の大臣と官僚が、大きく頷いている。
「我が国が管理している天竜の聖獣舎に、1頭聞き分けのない個体がいます。その天竜を貴女の力で制していただきたい。それが、貴女の聖獣使いとしての証明になるでしょう。…いかがですか?」
「分かりました。引き受けましょう。」
ここまできて断る理由はなかった。私たちは国王の一声で立ち上がると、みんなでその天竜のいる聖獣舎に移動することになった。移動途中、イヴァンに小さく『お前なら大丈夫だ。』と声を掛けられた。何故だか私はその言葉が温かく、心地よく感じた。
◇◇◇
十数分歩き、ラルヴァクナ王国管理下の聖獣舎に到着した。入室前から既に何かが唸る声と壁にぶつかる音が聞こえ、一部の大臣と官僚は戦々恐々としている。そんな部下たちを見ながらも、国王は話しを続ける。
「こやつはグレグビーという名前の天竜で、見ての通り獰猛で翼竜の笛すら効かず、我々は何をすることもできないのです。」
聖獣舎の管理代表が鉄格子のドアを開け、該当の聖獣の姿を露わにする。そこには、話しに聞いていた獰猛で狂暴な天竜エングブロムが佇んでいた。
「よろしくお願いします、アメリア・オルコットさん。」
私は小さく頭を下げると、聖獣舎の中に入った。グレグビーは唸り声を上げて、牙を剥き出して私を睨みつける。私は何の躊躇いもなく近づき、グレグビーの前に立つ。
一部の大臣は目を塞ぎ、指と指の間の隙間からこちらの様子を伺っている。私が襲われて食われるとでも思っているのだろう。
「”グレグビー、こんにちは。”」
そう言うと、グレグビーの唸り声は徐々に小さくなり、剥き出しだった牙も口の中に仕舞われていった。国王や大臣たちが『おお…!』と感嘆の声をあげているのが聞こえる。
「”グレグビー、頭を撫でてもいい?”」
グレグビーは数回瞬きをすると、静かに頭を上げて地面に突っ伏した。私はゆっくり手を伸ばし、グレグビーのカサカサとした頭の皮膚を撫でる。そのまま首に手を伸ばし、私は背中に飛び乗る。グレグビーは抵抗する様子もなく、私を背中に乗せてくれた。
「…いかがでしょうか。他の聖獣でも試しましょうか。」
「いや、いや!充分です。皆さんどうです、これで彼女が聖獣使いである証明に成り得ましょう!」
半信半疑で私を見ていた大臣や官僚は、この様子を見て納得したのか拍手をしている。私はグレグビーの翼を撫でながら、周りの様子を確認する。見回した視線の先で、イヴァンと目が合った。イヴァンは口パクで『よくやった。』と口にしていた。
「キルベキア王国とラルヴァクナ王国の国境付近にいる聖獣の保護は、このアメリア・オルコット氏に一任しましょう。皆さん、それで良いですね?」
国王の声に、周りの者は各々賛成の意を発した。
これからのことを考え、私はより一層身を引き締める思いになった。




