13. 時間切れ
◇ ◇ ◇
鶏小屋の掃除と餌やりは一番楽な仕事で、すぐに終わった。
残された時間でナギはなるべく綺麗そうな石を選んで一つだけ拾うと、鶏達に水をやり終えた後の桶を持って、一度牛小屋に戻った。
なんでも試してみようとする程大胆にはなれなかったが、竜の食べられる物を一つでも多く見つけておきたかった。
麦を試しておこう。
大車輪で追い上げて、ここまでの仕事をいつもより早いくらいの時間で終わらせたが、何かにじっくり取り組める程、時間が稼げた訳でもない。
急がないと………
梯子を登る。
足の鎖が、どこまでも邪魔だった。
「部屋」に戻ったナギは、木の椀の中味をそっと床の上に空けた。
家畜の餌をくすねたことを知られれば、当然ただでは済まないから、どこかにこぼしたりしないよう、慎重にやらなければいけない。
ナギは麦だけを数粒椀に戻した。それを石で潰し出すと、竜が興味津々と言った様子で、ナギの胸許から身を乗り出した。
粉状にまでしてしまっては、逆に嘴で摘まめないだろう。
ナギはすぐに手を止めた。
服の中の竜に左手を寄せる。
すると竜は小さな二つの前脚で、しっかりとナギのその手に掴まってくれた。
その愛らしさに心打たれながら、ナギは木の椀の中にそっと竜を降ろした。
固唾をのんで、ナギは様子を見守った。
竜の足元には、一部粉状になった麦の破片が散らばっている。
砕けた麦粒を、竜は少しだけ見つめた。
ほんの僅かの間の後、黒竜は麦の破片を嘴で摘まんだ。
麦も食べられる!!
心の中でナギが飛び跳ねた、その時。
「えっ。」
意外な発見があった。
竜の口からピンク色の細い舌が伸び、麦の粉状になった部分を、舐め取ったのだ。
「伸びるんだ…………」
結構長かったけれど、どのくらいまで伸びるのだろう。
頭の中で新しい情報を慌てて書き加えたが――――――――――――
竜ととかげと人間の間で、認識が迷子になりそうだ………。
あまりお腹が空いていないのだろうか。
竜は砕かれた麦を全部は食べようとはせず、木の椀の中ですぐに退屈そうにし出した。
先刻水を少量飲んで、きびを数粒食べただけだったから心配になるが、この小さな体がそんなに食べないのは、当たり前なのかもしれない。
それとも、麦があまり好きではないのだろうか。
と、やはり退屈してしまったのか、木の椀から竜が飛び立った。
まだ分からないことだらけだけど――――――――――――――
でも、時間切れだ。
舞い上がった竜が、じゃれつくようにナギの顔の近くで飛び回る。
この子は、自分を親のように思っているのかもしれない。
生まれたばかりの赤ちゃん竜に、残酷なことをしようとしているのかもしれないと思うと、心が押し潰されそうだった。
竜の赤ちゃんにとって、親はどのくらい必要な存在なのだろう。
これが人間の赤ちゃんだったら、何時間も一人で置いておくようなことは、絶対にしない。
ナギは、床の上に散らばるきびや麦の粒を見つめた。




