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竜人少女と奴隷の少年  作者: 大久 永里子
第一章 少年と竜
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12. 竜の時、ひとの時

 干し草が仕舞われている巨大な木造の小屋の前で、ナギは自分の左手を見て佇《たたず》んでいた。


 その手の上で、先程から竜は楽しそうに体を揺らしている。


「……………。」


 一緒に遊んでやりたいが、そういう訳にも行かない。

 ナギに残されている時間は、あと僅《わず》かだった。

 自分がまだ気付いてもいない問題もあるのだろうけれど、気付いていることすら解決出来ていない。



 その中でも大きな疑問―――――――――――――――――


 ――――――――――まだずっと竜のままだけど、獣人はすぐには人にならないのだろうか?


 これも考えてみたこともないことだった。

 だがこれは大問題だと思う。



  竜の時と、人間《ひと》の時―――――――――――――



 必要な世話は違うのだろうか―――――――――――違うとすれば、どれくらい?

 

 ナギはまじまじと竜を見つめた。



 竜がもし人間の赤ちゃんの姿になったとしたら。

 その時、人間と同じ世話を必要としたら。

 ナギにはもう、対応しきれない。



 ―――――――――――人間《ひと》になった場合のことは、今は考えるのを止めよう。


 そう結論を出す。

 どんなに考えたところで、どうすることも出来ない。



 ナギに育てられる可能性があるとすれば、「竜の姿の小さな赤ちゃん」だけだった。




 そして改めて考える。



  ―――――――――――――――竜のおトイレ……………。




 鳥のように飛び回りながらあちこちにされても、鼠と間違われるような痕《あと》を残されても、割と困る気がする。

 出来れば心の備えと、物理的な備えを、なるべく早目に整えたいと思うのだが。



 じっと竜を見つめる。



 半分人間だと思うと、何か躊躇《ためら》いを感じてしまう。


「……ごめんね。」


 そう言って、ナギは黒竜の羽の付け根辺りを右手の親指と中指で摘まむと、そっと竜を仰向けにした。


 この姿勢はあまり好きではないのか、竜がもがくようにぱたぱたと手足を動かす。


「――――――――――――――――――――――」


 小さ過ぎる上に、体が黒いせいなのか、何も見えない。


 それらしい器官が、一切見えない。

 雄か雌かも分からない。


 必要な時以外は皮膚の下に仕舞われている、「格納型」なのだろうか。


 抗議するように手足を動かしている竜に申し訳なく思いながら、ナギは竜の尾の付け根辺りを微かに押してみた。


 ―――――――――――――――やはり何も見えない。


  手掛かりなしか――――――――――――――――。


「ごめんね。」


 もう一度謝ってから、ナギは左手の上で竜の体を起こした。


「痛たたたたたた…………ごめんて。」


 掌をつつかれた。

 怒っているのだろうか。


 その時竜が、ナギを見返しながら、羽を目一杯に拡げて見せた。



  ――――――――――――――――――威嚇???



 威嚇、なのかもしれないけれど。



  ………………申し訳ないけど、可愛い。



「ごめんね。」


 感想は胸に留めて、取り敢えずもう一度そう言ってみると、竜は掌の上で胸を反らしながら、ぷいっと横を向いた。

 羽は閉じたが、やっぱり何か怒っているようだ。


 申し訳なく思ったが、だが分かることを少しでも増やしておきたかった。許してほしい。



 もうすぐ時間切れだ。



 それと承知の上で乗った命懸けの船だが、運命の船は最大の難所に差し掛かろうとしている。


読んで下さった方、本当に本当にありがとうございます!


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