第四話 女勇者
「俺は、えーっと」
「?」
「エーレ、ちょっと」
「ハッ」
エーレを呼び寄せ耳打ちする。
(エーレ、この場合俺はなんと名乗ったらいいかな)
(うーんと。国を追い出されてもアナタは魔族。んで国を治める主だから、魔王でいいんじゃない?)
(ふむ、魔王か)
「俺は魔王ペランだ」
「面を上げ楽な姿勢をとるがいい」
「はい」
スッと立ち上がるシノセ。王座に座っている俺を少し見上げ気味に見てくる。
「人間の勇者よ、なにか用事か?」
「はい」
「相談がありまして」
「言ってみろ」
うーん、なんだかめんどくさそうだな。それに正直人間の勇者を見ていたくない。逃げるとき何度か漏らしているしな。トラウマってやつかな。
あっ、ちょっと漏れそう。
「私は勇者でありながら剣を握れなくなりまして」
「ほう?」
「半年ほど前、魔族の領地で火災があったのですが、そこへ進行したとき、多数の魔族の死体を見たのです」
「ふむ」
「魔族を殺したことがなかった私はそれを見て、私もいずれ魔族達をこのようにしてしまうのではないかと考え込んでしまい、次第に剣が握れなくなりました」
「それまでも魔族とは戦ってきたのだろ?」
「はい。それまでは幸運でした。私が圧倒的に勝っていたので制圧が簡単だったのです」
(もしかしてこの子、ものすごく強いんじゃ?)
(そのようね)
(しっかし、俺がどうこうできる問題じゃないぞ)
(適当なこと言って帰ってもらいましょ)
(そうだな)
いや、まてよ。
くっくっく、いいこと思いついた。
「コホン、シノセとやら」
「なんでしょう」
「俺ならその症状、治してやることが出来るぞ」
「ほ、本当ですか!?」
「俺の息子を握れば治る」
「アナタのお子さんを握れば? 特殊なヒーラーですか」
「いや、こっちだ」
王座から立ち上がり股間を指差す。
「!?」
「息子のコーンボーイです」
「な、な、ななな!!」
「どうだ? 握れるか?」
「ぬぬぬぐ!」
「失礼する!!」
彼女は頬を赤く染め一目散に城の外へ。
「うわー、最低……」
冷ややかな目でこちらをみるエーレ。
「うわははは、ざまあみろ勇者め!」
「お漏らしのお返しだ!」
「まあ、気持ちはわかるけどさぁ。そんなことやってるとバチが当たるよ?」
「俺は魔王だ! バチがなんぼのもんじゃい!」
はー、すっとした。これでもう彼女は来ないだろう。スッキリしたし面倒事も吹き飛ばしたしで。ナイス手腕だぜ!
人間領、とある街のギルドにて。
「アーサー様!」
「どうした? 怒鳴り込んでくるなんて」
「なんですか! あの破廉恥極まりない魔王は!」
「どこかへ行ってきたのかい、シノセ」
「魔王ペランのところへ行かせた」
「なんてところに行かせるんですか! アーサー様!」
「それで、奴はなんと?」
「無視ですか!」
「それがその、お人払いを」
「悪い、ちょっと外してもらえるか」
「……了解しました」
「ふむ」
「で?」
「そ、それが……、自分の息子を握れと」
「アイツに子供がいたのか」
「そ、そうではなく。その、男性の」
「ん? あー、あっはっはっは!」
「笑い事ではありません!」
「これは失礼。なるほど、そうきたか。いや、ヤツらしい」
「あんな魔王と知っていて私を行かせたのですか!?」
「ああ、そうだ」
「むむむ!」
「少し落ち着け。これはヤツがお前に試練を課したのだろう」
「試練を?」
「知らない男の息子など汚いに決まっている。そう感じるのは至極当然だろう」
「それはまあ」
「ならお前が握ろうとしている剣は?」
「私の剣?」
「ハッ!?」
「そうだ。コイツは命を容易く奪うことが出来るモノさ。当然キレイなものじゃない」
「つまりヤツなりに段階を踏んで、お前の望みを叶えさせてやろうとしているのさ」
「し、しかし、こんな汚いやり方で……」
「正攻法は散々試したろ。それもやつはお見通しってわけだ」
「う、ううん」
「それにしても久しぶりだな」
「えっ」
「お前がそんなに元気に暴れまわるのは。ここ半年、常に死にそうな顔だったぞ」
「……」
「失礼します」
「ああ、またな」
(段階を経て? 確かに人殺しの剣よりは……)
あれから2週間。
「スリャ!」
「トリャ!」
「やっぱ剣の腕もダメね」
「はっきり言ってくれるな。まあわかってるからいいけど」
王座付近で剣を振り回してみた。結果、散々な言われよう。
「ペラン様、いらっしゃいますか?」
「誰か来たみたいね」
「ゲ! この前の女勇者! まさか仕返しに!?」
「いつぞやはどうも」
「は、ははは」
剣を持ったまま動揺する俺。怖い!
「な、何か用かな?」
「はい、実は……」
お前の命を貰いに来た! とか言いそう!!
「アナタの息子を」
「ん?」
「コーンボーイを握ろうかと」
「へあっ!?」
何言ってるのこの子!!
「カシャーン」
動揺のあまり剣を落としてしまった。その剣が彼女の近くへ。
(なんで剣を私のところへ? もしや……)
「スッ」
自然と剣を握るシノセ。
「なっ」
「握れる、剣を、握れる!!」
うつむき泣き出した彼女。
「ペラン様、ありがとうございました!」
泣きながら走って城の外へ。
「一体なんだったの」
「チロ」
「あっ」
「あっ」
俺は魔王ペラン。天罰を喰らいました。
ストックが結構溜まったので、しばらくは毎日投稿します。
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