表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

ながれ星の行方 2

思い返してみれば、不自然なことがあった。地図を見ただけでそこが病院だとわかったり、家の近くの公園なのに、行った記憶が「一回もなかった」し、なにより……


……高校2年生である美季の小説が、一年のときから始まっていること。


もとはと言えば、ただの青春系として小説を書く予定だったはずだ。それの主人公として俺が手伝うはずなのに、主人公は女子で、また俺がしてきてきたことも一切かかれていない。それなのに美季は執拗に俺のことを行動させようとするし…………

「………大丈夫?」

俺の思考を言葉が遮った。

「ああ、すいません大丈夫です」

「そう?とつぜん止まったからびっくりしちゃった」

「はい。ところで、さっきの…」

文化祭がはじめてと言うことについて聞こうとしたところで、遠くから発せられた声に榎本さんが連れ去られてしまった。一人残された俺はしょうがなく黙々と作業を続けていく。その間も、疑問は頭から離れなかった。

「あー……もう!」

いてもたってもいられなくて、俺は教室を出た。神野に聞けば、もしかしたら何か知ってるんじゃないかと思ったから。

「あ、あのーすいません。神野いますか?」

あいつの教室はふたつ隣にあった。そのため行くだけなら簡単だが、人探しといえばそうはいかない。誰かから聞くのが手っ取り早かった。(うまく出来るとは言っていない)

「あー神野?あいつなら帰ったよ」

「帰った!?なんでだ……」

壁にかけられた時計はまだ昼すらも指していない。それなのに帰ったなんて、どれほど真面目じゃないのか。………俺を見習ってほしい。

「………あ」

日付を見てようやく、明日神野が引っ越す日だと気づく。きっと準備とかいろいろあるんだろうが、それにしても一言言ってほしいくらいだ。

「しょうがない、ひとまず諦めるか」

あんなに楽しみにしていた病院も、なんでか今日は行く気が起きない。結局作業もほどほどに時間が過ぎるのを待った。




窓の奥では、今日も変わらずに白と青が輝いている。もはや見慣れてしまったそれは、はじめはとても新鮮味があったものだった気がする。

「……やぁ、退屈そうだね」

頬杖を付きながらため息をつくと、後ろから穏やかな声が聞こえた。

「神野くん、久し振り!」

「久し振り、相変わらず元気そうで」

「まだまだ元気だよ~?神野くんは?どうしてこんな時間にここに?」

まだお昼ご飯を食べてないから、学校なんて終わってるわけないんだろうけどなぁ……

「学校はさぼってきた。だってめんどくさいんだもん」

「うわ、不良くんだ。こわー」

「全然怖がってないでしょ…」

理由なんて知っているのに、あえてここはからかってみる。案の定神野くんは鋭いツッコミをいれてきた。相変わらず腕は鈍っていないようだ。うん。

「で、そろそろ本題に入っていいかな?」

「うん!もう笑い疲れたからいいよ~」

「………誰のせいだよ…」

わかりやすく肩を落としたと思えば、軽く咳払いをした。相変わらず忙しそうだ(私のせいだけど)

「じゃあ早速だけど、小説はどこまで進んだの?」

「秋の始めあたりかな。だいたい今の季節と同じくらい」

「へぇ~ちゃんと進んでるね。じゃあもうすぐか……」

「うん、だけどまだ由良くんに見せる気はないよ?」

書いてきた小説をめくりながら私は言った。なるべく軽く話したつもりだったが、聞き手はどうやら気持ちを察してくれたらしい。これが由良くんだったら、きっとまたいじられてしまうのだろう。………そこが由良くんらしいんだけどね?

「それはいいけど大丈夫なの?やっぱり辛いんじゃ…」

「大丈夫大丈夫!もう昔のことだからね!」

少し傷む胸を押さえながら、私はできる限り微笑んだ。正直大丈夫じゃなかったけど、今さら神野くんに心配はかけられない。偽物でも、「正常」を保たないと。

会話もそこそこに、神野くんは家に戻った。どうやら本当に準備が忙しいようだった。そりゃそうか、明日引っ越しちゃうんだもんな。

引っ越しにはいい思い出がなかった。体が弱くてこんなところにきて、もう会えないとまで思った。だからこそ、会えた今こんなにムキになっているんだ。

「………もう少しだけ、書いておこうかな」

手遅れにならないうちに、私の思いを……あの人の人生を、刻んでおかない

と。




今日は久し振りに夢を見た。

大事な人が、遠くへいってしまう夢を。

でも一回離れてはじめて、近くにいる幸せを知ることができた。

だから嬉かった。私に気づいて、迎えに来てくれたことが。

たとえそれがダメだと言われていても、たとえ先に辛い結末が待っていても、

その人のためならなんでもできる気がした

その人のためならどうなってもいい気がした。

だから私は今もなおこんなことをしている。

過去にとらわれていても、それしか方法がないんだから。

ああ、ほら今日もまた


耳の奥であの音が響いた





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ