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異世界ファンタジーなのに攻撃魔法が使えない  作者: 三好 幸人
1章 『冒険』
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22話「おとぎ話」

 敬語を止めて、より親密になれた気がする。僕はそんな喜びを噛み締めつつ、残りの『フレンチトースト』をグレースに食べさせている。


「マーくんはもう食べないの?」


「もうお腹一杯だから、グレースが食べていいよ」


「やったねー!じゃあ、あ~ん」


 もう『あ~ん』くらいでは動じない。ドンと来い。雛鳥に餌を与えるかのように『あ~ん』してやる。


 僕がフォークをグレースの口に持っていくと、グレースはパクッとフォークを咥える。


 目を細めてフォークを咥えているグレースは、とても幸せそうだ。


 逆に僕がフォークを抜こうとすると、ちょっと残念そうにする。


 フォークを出し入れする時に触れるグレースの唇はとても柔らかそうで、思わず目を奪われる。


 だが、今は餌の時間だ。


 僕は『大きくなーれ』と念じながら『あ~ん』を5連発。


 そして『フレンチトースト』を食べきった雛鳥は、満足したように(前衛)へ帰って行った。


 さっきまでベッタリだったグレースがいなくなると、ちょっぴり寂しく感じるから不思議だ。


 僕は現実に戻ったような感覚に浸っていると、周りから冷たい視線を浴びていることに気が付いた。


「……えっち」


「腐ったバナナ!」


「くたばれゴミクソ野郎!」


 視線だけに留まらず、酷い罵詈雑言まで飛んでくる。それにしても最後の一人は口悪すぎだろ……。


 このままでは針のむしろだ。味方は居ないのか。


 僕は救いを求めるように視線を四方に配ると、ルイーズと目が合った。


 信じているぞ、ルイーズ!


 優しい笑みを浮かべているルイーズ。


 だがそれは、まやかしの笑みだった。周りと同調したルイーズは、好機とばかりに僕を罵ってきた。


「ふんっ! お姉様に手を出すなんてとんだ変態ねっ! お姉様のような小さな体が好きだなんて、もしかしてあなたロ――」


「ルイーズは今晩風呂抜きだな」


 僕を叩く好機だとでも思ったのだろうが、そうは問屋が卸さない。僕がそう言うや否や、悲壮感を漂わせながら反抗してきた。


「な、なんでよっ!」


いわれのない罵倒を浴びた僕のささやかな仕返しだ。風呂抜きの効果が一番ありそうだし」


「ひ、ひどい……。もしかしたら私が言おうとしたの『ロリコン』じゃないかもしれないじゃないっ!」


 言ってるし……。


「クロエ、ローラ、リリーには飯抜きの刑に処す。今日は浮いた3人分でご馳走にしよう。有名なお店の甘い『ケーキ』を買ってあるから、それを皆と食べよう」


「……マサキは紳士」


「未熟なバナナ!」


「蘇れ美しの貴君!」


 見事な手のひら返しであるが、なんでも反対っぽくすれば良いってもんじゃない。


 なんだ『蘇れ美しの貴君!』って。もはや言葉をていを成していないじゃないか。


「しょうがない。穏便にデザート抜きだけで勘弁してやろう」


 僕がこれで手打ちにしてやろうと思っていたところ、未だ絶望的な顔をしている者が一人いた。あ、やべ。甘党派忘れていた。


「そんなのって……。そんなのってないわ! バナナが可哀そうじゃない! バナナに悪気はないわ! お願いだからバナナを許してあげて! あと『ケーキ』食べさせて!」


 僕はこれからローラのことを『バナナ』と呼べば良いのだろうか。『バナナ』と『ローラ』が見事にシンクロして聞こえる。本音は最後のだけだろ。


「しょ、しょうがない。全てを水に流そう。ただし、僕がグレースと仲良くしているからって今後はひがんで罵倒しないこと」


 4人は不満顔をしていたが、風呂と飯抜きが効いたのか、それ以上文句を言うことなかった。大体、グレースと仲良くして何が悪いんだ。良いことじゃないか。仲間と絆を深めるのは。


「はっはっはっは。マサキも手慣れたものだな。どうだ? お母さん気分は」


「……母親の苦労はよく分かりましたけど、僕はこの4人の保護者じゃないです」


 レベッカさんの指摘に否ときっぱり答え、僕は後片付けを始めた。食器を洗ったり、マジックバックの中を整理したりしなければならない。


 食器を洗っていて気づいたが、グレースさんが使っていたフォークはぴかぴかで、異様に綺麗だと思った。



――数刻後――



「みんな準備はいいかー? 前衛がもう出発を始めている。そろそろ後衛部隊も続くぞ」


 レベッカさんの合図で後衛部隊の面々が進路へ向けて進みだした。


 僕の現在地は後衛部隊の中央に位置し、4人のメンバーと一緒に歩いている。メンバーは、レベッカさん、僕、ルイーズ、ローラだ。残りのメンバーは右翼に3人、左翼に3人を配して散開している。


 ただ黙って歩くのもあれなので、僕は何か面白い話は無いかとレベッカさんに尋ねてみた。


「面白い話?」


「はい。絶対にすべらない話でお願いします」


 無茶振りは先手必勝。


「ぜ、絶対にか? 吟遊詩人じゃあるまいし、そんな面白い話は無いぞ……」


「じゃあ、何かおとぎ話的なのでいいです。冒険者向きのやつで。英雄譚っぽいのとか無いです?」


「そうだな。聞いたことがあるかもしれないが、私が小さい頃に読んだ本の物語でも話してやろう」


 お。いいねいいね。小さい頃に読んだおとぎ話とか童話って、結構大人になって思い返すと深い内容だったりするんだよね。


「昔も昔、まだ魔王が居た頃の話だ――」


 そして、レベッカさんが語り始めた――。



――――



 魔族と人類の間で戦が絶えない時代があった。


 多くの人が死に、苦しみ、人類は疲弊していった。


 対して生命力の高い魔族は、繁殖を繰り返して隆盛期を迎えていた。


 魔族はどんな種族が相手でも魔族の子を成すことができ、人もその例外ではなかった。


 魔族は敵である人類にあらん限りの打撃を与えようと、多くの若く美しい女性をさらい、孕ませ、子を産ませた。そして、さらわれた女性は一人として帰って来ることは無かった。


 魔族の兵を生む道具として使い捨てられたのだ。


 さらわれた女性はもてあそばれるだけもてあそばれ、苦しみながら子を産んだ。母親となった女性は、産まれた子を見て泣き叫ぶ。苦しみ抜いて産んだわが子が、人類に仇なす魔族なのだ。さらわれた女性たちは、死んでも死にきれない苦しみにさいなまれたことだろう。


 激高した人類が反攻に転じるも、隆盛期の魔族に勝てる戦力はもはや人類に残されていなかった。 


 人類はもう滅びの一途を辿るのみかと思われた。


 しかし、そんな暗く沈んだ世界を救ったのが、わがヴァルツリッヒ皇国の第48第皇帝ウール・デ・ヴァルツリッヒ王子だった。


 王子は森の民エルフたちと共同で研究し、膨大な魔力を要する大規模魔法を完成させた。


 それは、別の世界から『勇者』を召喚させるという異次元の大魔法であった。


 大規模魔法で召喚された『勇者』は圧倒的な能力と知恵を持っており、文字通り世界の救世主となった。


 ある時は雷の魔法で大地を穿ち、またある時は炎の魔法で森を焼き払う。


 その能力でもって魔族を押し返し、人類に希望を見出した。


 そして、『勇者』の知恵が魔族を衰勢へと向かわせる。


 『勇者』が生み出した武器は、非力な人類に大きく味方した。


 黒き筒は、轟音をうち鳴らしていかなるものをも破壊する。


 また、筒が付いた鉄の馬車は、鉄壁の防御力と強烈な突破力で敵軍を圧倒する。


 『勇者』が生み出した不可思議な異物は、他を圧倒する力を有したことから、『宝具』と名づけられ、人類最大の武器となった。


 『宝具』の力を借りた人類は息を吹き返したように戦で勝ち続けた。


 魔族が住んでいた集落に火を放ち、魔族の住まう全ての地を無に還す。


 そしてついに、苦汁をなめ続けてきた人類が、魔族を殲滅せしめたのだ。


 英雄として称えられた『勇者』は、当時のヴァルツリッヒ皇家に迎え入れられ、絶世の美を誇った姫と結ばれた。


 平和を得た世界で『勇者』は、次々と武器ではない『宝具』を生み出していった。


 『レイゾウコ』『エアコン』『ジドウシャ』『コタツ』……。


 『勇者』は、数えたらきりがないほどの『宝具』を生み出していく。


 世界が豊かになっていくのと比例するように。


 しかし、欲深な人類は敵がいなくなったのと同時にその本性をあらわにさせた。


 醜い利権争いだ。


 勇者が生み出し、戦に用いられた『宝具』を手にとった強欲者たちは、各国、各派閥単位で内紛を勃発させた。魔族が滅んだにも関わらず、多くの人が死に続けていく。


 人類の醜さを憂いた『勇者』は、己の力で全ての『宝具』を強制的に押収し、押収した『宝具』と共に忽然と姿をくらました。


 人々は思った。


 『勇者』は神の使者だったのではないかと。


 神がもたらした平和を人類が無碍むげにしてしまったため、愛想をつかされてしまったのではないかと。


 故に我は神の代弁としてここに訓示する。


 人の子よ己を知れ。


 欲とは人を醜悪にする源泉であると知れ。


 禁欲せよ。


 慎ましやかな食事と神への祈りを欠かすな。


 過去のあやまちを悔い改めよ。



――――



「――こうして先祖のあやまちを償うため、私たちは質素と倹約をとしました。そして、神への贖罪として信仰を捧げ続けているのです」


 レベッカさんが話し終えた。 


「ど、どうだ? すべっていたか?」


 いや、そもそもすべるすべらないの話じゃない。


 それどころか僕は高鳴る鼓動を抑えることができない。


 だって、『勇者』は間違いなく僕と同じ日本人・・・じゃん……。

 

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