6.完了 最終関係者***の証言
これですべての証言が出そろった。書記官は今までの話を羊皮紙に書き終え、アレスは机の上の膨大な調書をパサリと綺麗に揃えると、背後の壁を振り返った。
そこには、マジックミラーで仕切られた、防音のはずの「隠し部屋」がある。アレスはカチリと壁のスイッチを押し、隠し部屋の鍵を遠隔で解除した。
「さて。もういいかな。そこの隠し部屋の中でも、全て筒抜けで聞こえていたでしょう?・・・兄さん」
ゆっくりと壁がスライドし、中から現れたのは、幽霊のように青ざめ、ガタガタと全身を震わせている
眉目秀麗の金髪の青年・・・。
アレスの兄である第一王子ルーザだった。
アレスは、まだ幼さの残る可愛い顔に、酷く冷ややかな笑みを浮かべた。
「あなたが『エリザベス嬢との婚約を破棄する』と申し出て、代わりに正妃にすると選んだ、美しく純真で優しい女性。『1年間、エリザベス嬢と同じ待遇で仮婚約者として様子を見て、学園卒業前にどちらを正妃にすべきか結果を出す』という約束でしたが、どうでした?」
「そ、そんな馬鹿な・・・」
「最終結果の前に、今回は父上の命令による『中間審査』です。だからこそ、私とこちらの、一切の不正も改ざんも許さない特等書記官とで、関係者全員から一通り話を聞いたわけですが・・・随分と、兄さんの見ていた世界とは話が違うようですね?」
アレスはまだ小さな指先で、調書をトントンと叩く。
「兄さんの見ていたのは、あの女が都合よく作り上げたほんの一部。現実のエリザベス嬢は、身分問わず皆から圧倒的に人気があり、能力も極めて高い。逆にベリーナ嬢は、全方位から不人気で、徹底的に無能であることが明らかになりました。しかも、隣国の皇女殿下を激怒させるという特大のおまけ付きだ。まさか兄さん、今日話した全員が『事前にエリザベス嬢が権力で脅していたから嘘をついているんだ』なんて、往生際の悪い言い訳をするつもりはないでしょうね?」
「う、嘘だ・・・あの可憐なベリーナが、そんな周囲を脅して、私に嘘を・・・そんなはずは!」
ルーザは頭を抱えて、その場に膝をついた。それを冷たい目で見るアレス。
「今日の中間審査の結果は、この特等書記官が寸分の狂いもなくまとめています。これをこのまま、病床の父上に提出して、あなたの今後の処遇を判断してもらいます。まったく・・・病床の父上に、こんな下らないことでお手を煩わせたくはないのですけれどね。まぁ、今回の最終審査を待たずとも、もうこの中間審査を以て、父上から次期王位継承者、ひいては兄さんとエリザベス嬢、ベリーナ嬢の行く末が『確定』するわけですが」
アレスは椅子から飛び降り、小さな体を伸ばしてルーザを見下ろした。
「今の話の流れからすると・・・僕が次期王位継承者になり、僕の婚約者がエリザベス嬢ということになるんですかね?」
「ま、待て!何を言っているんだ!アレス!」
「待ても何も。散々しでかしたのは兄さんとベリーナさんでしょう?今までの流れで王位につけるとお思いで?」
冷たく言うアレスにルーザは這いずるようにしてアレスのズボンの裾を掴もうとした。
「あ、そうだ、俺はやっぱりエリザベスを正妃にして結婚することにする!」
「・・・・・・は?」
「それで、お前がベリーナを引き取ればいい!それで丸く収まるだろう!?」
その馬鹿げた提案に、アレスは心底軽蔑したように失笑を漏らした。
「・・・何を寝ぼけたことを言っているんですか。散々大勢に迷惑をかけて隣国の皇女まで激怒させておいて。もう、兄さんが誰を正妃にするか、なんていう次元の話ではないんですよ」
「そんなはずはない!エリザベスは俺の婚約者だ!あいつは本心では、俺のことを愛してくれているはずなんだ!」
「はぁ……。本当に、どういうめでたい勘違いをすればそんな結論に至るのか分かりませんが。エリザベス嬢からは、もうすでに『ルーザ王子とは家が決めた婚約の関係でしかなくもう男女の間の愛はないです』と、私直々に要望を聞いていますよ。まぁ、当然ですね。違う女を選び、頭でっかちの陰気な女など罵声を浴びせてきたんでしょう?今更自分が好かれるはずないでしょうに」
「なっ・・・!そ、そんな、嘘だ!エリザベスがそんなこと言うはずがない!エリザベスは俺に惚れているんだ!俺が言えばまた元に戻る!」
ルーザは狂ったように叫ぶと、アレスを突き飛ばさんばかりの勢いで、部屋を飛び出していった。アレスは慌てて指示を出す。
「ちょっ、そこの騎士の方。早く兄さんを捕まえエリザベス嬢に近づかないよう、速やかに引き離してください」
「はっ!」
控えていた近衛騎士たちが、即座にルーザを追って走り去っていく。
静寂が戻った部屋で、アレスは小さく首を振った。
「はぁぁ、全く・・・。何で同じ王族の血を引いているのに、ああも愚かなのか。理解に苦しむよ」
アレスは自身の小さな手を見つめ、クスリと、無邪気な笑みを浮かべた。
「全く、僕は先月『12歳』になったばかりだよ?そんな子供の僕と、18歳にもなった大人のあなたが、同じ条件で比べられたという時点でもう自分がどれほどどうしようもない無能か、気が付かないのかね」




