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余計なお世話係  作者: 七賀ごふん


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5/5

#5



ただ親戚はともかく、俺達を一番比較していたのは……他でもない俺の父親だ。

「さ、もうすぐ時間だ。和巳君は前の方で話を聴いてくれ」

「はい。あ、鈴……」

皆に引っ張られながら、和巳さんは思い出したように俺の方を見た。


「大丈夫ですよ、俺は後ろで見てますから」

「そっか……分かった、ごめんな。また後で」

「はい、また後で」


軽く手を振り返し、できるだけ目立たない端の席についた。既に俺の父も祖父も、和巳さんのお父さんも席についてる。俺も帰る前に挨拶しないと。

そして始まった会議は、予想通りちんぷんかんぷんだった。だんだん眠くなってきて、ウトウトする。

うーん。寝ちゃいけない。けど……。

まぁバレないか。部外者みたいなもんだし、ちょっとぐらい寝たって。

結局、会議が終わる一時間後まで爆睡した。


「……皆さん、今日はお疲れ様でした。どうぞゆっくり寛いでください」


さっきまでとは違う賑やかな人の声に、鈴鳴は自然と目を覚ました。

「ふあぁ……」

本当によく寝た。周りを見渡すと、慰労会のようなノリで皆好き好きに散らばり、運ばれてきた料理やお酒を楽しんでいる。

重苦しいムードじゃなく大盛り上がりだ。気楽だけど、やはり人の多さに戸惑う。和巳さんや伯父さん達を見つけたいけど、どこにいるのかサッパリ分からない。


しばらく和巳さんは引っ張りだこだろう。

この中で彼らを見つけるのは骨が折れる。逆に父に見つかって、また小言を言われるのも嫌だし……庭の方でも行こうか。暇だから、池の鯉に餌あげたい。

そう思って立ち上がったが、誰かが目の前にやってきて俺の肩を叩いた。


「鈴鳴じゃないか! 久しぶりだな、元気かい?」

「あれ……冨生叔父さん?」


人の良さそうな笑顔を浮かべるひとりの男性。彼のことはよく知っている。最後に会ったのはいつだったか、正確には思い出せないが俺の母の弟だ。久しぶりに会ったからか、失礼だけど老けたように見える。

「お久しぶりです。……でも叔父さん、どうしてここにいるんですか?」

彼は母方の集まりの時しか会わない。俺の父方の集まりなんて来る義理も必要もないから不思議に思ってると、彼はこっそり事情を話してくれた。


「いやそれがさ、前の会社退職して、ここの営業に入れてもらったんだよ。だから挨拶がてらここまで来たの」


母が父に頼み、紹介で入社したということらしい。


転職が難しいのは分かるけど、わざわざこんな茨の道を選ぶ必要はないだろう、と思ってしまう。母さんは何で止めなかったのか。

ウチの親族の絆は切りたいと思った時にすぐ切れるようなもんじゃない。学生の自分ですらそれを嫌というほど知っている。

「ま、そういうこと。鈴鳴ももう二十歳だろ? ほら、一杯いきな」

叔父さんは俺に空のグラスを渡すと、零れそうなほどビールを注いだ。

「あっすいません、叔父さん……俺車で来てるんで、今日は飲めないんです」

「えぇ? しょうがないなぁ、じゃあ代行呼んであげるから。今日ぐらいはいいだろ? お前の二十歳のお祝いもしてやってないし、良い機会だから飲み明かそう!」

と言ってくれるけど、多分叔父さんの転職祝いも兼ねてる。そう思うほどにテンションが高い。

「な? ほら、早く」

「で、でも……」

会が終わったら直ぐ、自分の車で帰りたい。曖昧に言葉を濁してると、彼の表情がわずかに変わった。


「せっかくすすめてるのに、何で素直に受け入れないかなぁ。そんな態度じゃ社会に出てからやってけないぞ。社会人ってのは、まずは人間関係を円滑にすることから……」

「……すいません、いただきます」


長々と説教が始まる予感がして、先に頭を下げた。しょうがない。確かに代行を呼ぶか、タクシーで駅まで行くんでもいいし。

飲んじゃおう。この息苦しい場所に居続けるなら、いっそ少し酔った方が楽だ。そう思い、ビールを一気飲みした。

「……っはぁ。ごちそうさまでした。美味しかったです」

「良い飲みっぷりだなぁ。よし、もう一杯いけ!」

「えっ! もう大丈夫です」

舌が痺れる。苦過ぎだし既に吐きそうなんで手を振って断ると、彼はまた不機嫌そうな顔でグラスを押し返してきた。

「歳上の言うことは聴いとけよ、鈴鳴。俺なんかは違うけど、日永さんの家はそーいうのに厳しいんだろ」

「……っ」

少しだが、胸が痛んだ。

いやだな、向こうの事つっこまれんのは……。


てかこの人ガラ悪いぞ。いつもはもっと優しかったはずなのに。顔色からじゃとても窺えないけど、彼も相当酔ってると思う。

和巳さんはどこにいるんだろう。


「じ、じゃあ後ちょっとだけ。頂きますね……」


絶対ダメだけど、怖くて断れない。

でも許容量を越えたらどうなるか……。自分自身も分からない。


不安が波のように押し寄せる。けど促されるままジョッキのビールを飲んだ。何杯か注ぎ足されたものの、底が見えることを祈って仰ぎ続けた。意志に反して意識はどんどん曖昧になっていく。

二十歳になったばかり、正直まだ酒を美味いとも思えてない、普段なら一杯でダウンの俺が挑んだ壁。


────それはもう、未知の領域だった。



「暑い……」



気付けば、ひとりで壁にもたれかかっていた。頭がボーッとしてすごく暑い。顔も身体も。

水が欲しい。

フラフラと立ち上がって、一番近くの瓶を手に取った。

少しして、誰かの叫び声が響く。

「ち、ちょっと君、何やってるんだ!?」

会場がざわめき出す。なにかあったんだろうか。

とりあえず水飲もう……。

「ちょっとちょっと! あそこの彼、花瓶の水を飲んでますよ! 止めて止めて!」

花瓶の水……?

頭の中で声だけが反響してる。花瓶の水を飲んでる奴がいんのか。それはやばいなー、とか思いながら水を飲み続ける。

その直後、頭上で雷のような怒声が聞こえた。


「鈴鳴っ!! お前、何してるんだ!?」


親父の声だ。どうしたんだろう、そんな怒って。

ボーッとしながら、空になった瓶を膝の上に置いた。そして視線を下に移す。何故か周りには、鮮やかな花がいくつも落ちていた。

「……あれ?」

まさか。

背筋が凍り、段々意識がクリアになっていく。しかし状況を理解するより前に襟元を掴まれ、全身に衝撃を受けた。


「きゃあぁっ!」


今度は耳を劈くような悲鳴が上がる。

「痛……っ」

背中を壁に打ち付けたみたいだ。ぼやけていた視界が鮮明になる。俺、何してたんだ……?

未だ混乱して、打った場所を撫でる。しかし前を見ると、顔を真っ赤にした父が立っていた。


「一体何のつもりだ!? 何で花瓶の水なんか飲んでる!」

「……!!」


彼の言葉に、鈴鳴はようやく状況を察した。

部屋に置いてあった気がする花瓶が膝の上にあり、周りは水浸し、花が無惨に周りに落ちている。


俺、花瓶の水を一気飲みしてた……!?


だからちょっと変な味だったのか。納得納得……じゃない! マジかよ!!

吐きたいぐらいだったけど、とてもそんなことができる状況じゃない。

「愚息がお騒がせして大変申し訳ない。ほら、お前も謝れ!」

「うはっ!」

急に頭を押さえつけられ、土下座するような形で床に手をついた。

訳が分からない。一体何が起きてるんだ。




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