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余計なお世話係  作者: 七賀ごふん


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#4




翌日の夕方、鈴鳴の運転で祖父の実家へ向かった。


「和巳さん、寒かったら暖房強くしてくださいね」

「ありがと。鈴、ポッキー食べる?」

「うっ!」


まだ何も言ってないのに、和巳さんは俺の口めがけてポッキーを突き刺した。信号待ちしてたから良かったけど、地味な痛みにハンドルから手を離し、唇を覆った。


「鈴の運転は静かで安心するよ。俺は人や物にぶつかんなきゃいいって考えだからさ」

「そ、それはまた……確かアメリカって大抵十六歳で免許とれるんですよね」

「うん、場所によっちゃ十四でとれる。車なきゃ生活できないからね。鈴のこの車は自分で買ったの?」


和巳さんはコンビニで買ったカフェオレを開けて飲んだ。

「いやいやまさか、そんなお金ありません。これは父さんにもらったんです。一人暮らしをする代わりに」

「代わり? って、何の?」

「実家が遠いから、すぐに帰って来られるように、って。でも全然帰れてないし、維持費も勿体ないし。新幹線の方がずっと安上がりだから返しちゃおうかと思ってるんですけど」

「そう……」

和巳さんは小さく呟き、また俺の唇にポッキーを突き刺した。痛い。嫌がらせか。


「……ふふ、お前も俺がいない間に色々あったみたいだな」

「え」


前を見つつ、彼の声に耳を傾ける。どんな時でも不思議と、彼の話は集中して聴いてしまう。


「お前が一人暮らしなんて決意したのもびっくりだし。……何よりあの叔父さんが、よく許してくれたな?」

「……」


どんどん空は紫色に変わっている。ヘッドライトを点けて遠くの山々を見据えた。

「和巳さんも知っての通り、俺は容量が悪いです。怒られ続けて、褒められた記憶なんて一度もない。あの家は……居づらくて」

「大丈夫。そのうち見えてくるよ」

見える?

どういう意味なのか分からなかったけど、もう目的地は近かった。


都心から高速を使っても二時間以上かかる山あいのこの場所は、車がないととても不便だ。

ようやく到着し、だだっ広い駐車場に車を止めて、二人で降りる。和巳さんは大きく背伸びした。


「あ~、長かったなぁ。鈴も運転おつかれ! 疲れただろ。俺が運転してやりたいけど、まだ免許証切り替えてないからごめんな」

「大丈夫ですよ。たまには運転しないと忘れちゃいますからね」


軽く笑い合い、少し距離のある正面玄関へ回った。


立派な庭園は手入れが行き届いていて、景観は以前来た時と何も変わってない。いくらしたのか分からない石灯籠も、暗がりの中際立って辺りをぼんやりと照らしている。

玄関前に立ってインターホンを押すと、年配の女性が出迎えてくれた。


「まぁ! 久しぶりね、鈴鳴君。と、もしかしてそちらの方は……和巳君?」

「はい、お久しぶりです」

「やだー! すっかり男前になっちゃって! 皆も驚くわ。さっ、早く上がって。疲れたでしょう」


えっと、この人は確か……夏子さん。


会釈して中へ上がる。しかし並ぶ靴の多さにウッとした。

遠い親戚も来るから顔も名前もあやふやな人がいて、こういう時に困ってしまう。和巳さんは夏子さんのこと覚えてるんだろうか。ずっとニコニコしてるけど。

「和巳君は来ること分かってたけど、鈴鳴君も来てくれるとは思わなかったわ。鈴鳴君ももう二十歳になったのよね?」

「はい」

「せっかくだから一緒に参加してね。まだ学生だから退屈でしょうけど」

笑って誤魔化す。けど、本当にその通りだ。俺が聴いても多分全然分からない。そもそも呼ばれてすらいない集まりだ。だから場違い感が否めない。


でも、それで少しでも和巳さんの気が紛れるならいいか。

会議が終わったらおいとますればいい話だ。そう気楽に考えて三人で廊下を歩いていると、ふと名前を呼ばれた。


「鈴鳴?」

「父さん……」


一瞬、心臓が跳ねた気がした。いや、今もドクドクと脈を打ってる。

そうだ……馬鹿した。親戚の集まりって言ったら和巳さんの両親だけじゃなくて、俺の父親も来るに決まってるのに。すっかり失念していた。


「あ、正剛さん。ちょうど良かった、じゃあ私は先に行ってますね」


夏子さんは台所の手伝いがあると言い残し、先に奥へ行ってしまった。


「正剛叔父さん、お久しぶりです。和巳です。昨日帰国したんですが、事前の連絡が遅れてすいません」

「和巳君か……! いやいや、父のこともあって急だったんだから仕方ない。それより、本当に久しぶりだね。すっかり大人になって」

「あはは、会う人皆に言われます! ねー、鈴」


二人は楽しそうに、久しぶりの再会に笑っていた。けど、父さんの視線はすぐに俺へと移る。


「ところで、どうしてお前がここにいるんだ? 鈴鳴」

「あ、えっと……」


目には見えない威圧を感じる。

この感じ、久しぶりだ。返す言葉に迷っていると、和巳さんが前へ出て答えてくれた。


「叔父さん。実は昨日、鈴の家に泊めてもらってたんです。それで今日の事を話したら、わざわざ車で送ってくれたんですよ。俺は運転できないんで、本当に助かりました」

「そうか。それならいいが……鈴鳴、お前ちゃんと大学は行ってるんだろうな」


父さんは俺にのみ低い声で問いかけた。

「い、行ってます」

「遊びにかまけて、怠けた生活はしてないか?」

「してません……」

どうしても目を合わせられない。それでも答えると、彼は踵を返した。

「会議中は大人しくしてろ。もう子どもじゃないんだから、みっともない真似だけはするなよ」

木板の床が軋む音。それが遠のいていくことが分かり、ようやく顔を上げることができた。

「鈴、何で敬語なの?」

「えっ? あ、いや……すいません」

「だから何で謝るんだよ」

和巳さんは不満そうに腕を組んで歩き出す。


「まだ叔父さんが怖い?」


彼の質問は、答えるのに逡巡してしまった。


「……父さん、俺が一人暮らしするの反対してたんです。卒業後は絶対ウチに就職するって条件付きで、やっと家を出ること許してくれて」


真実を打ち明けると、彼は腑に落ちた様子で笑った。

「なるほどね。お前も大変だなぁ。俺なんか、むしろ追い出されたのに。それもアメリカだよ? 海外追放だよ」

「あはは。本当に、和巳さんはすごいです」

父さんとバッタリ顔を合わせてしまったのは尋常じゃなく気まずいけど、彼が隣にいると自然と笑いが零れる。

だから、やっぱり頑張れる気がした。


「おぉ、和巳君かい? 久しぶりだねー!」


向かった先は、家で一番大きな客間だ。そこだけで俺の家の何倍もある。マイクが欲しい広さだ。

子どもの時も大きく感じたけど、大人になって見ると改めてどれだけバカでかい敷地だったのか分かる。

部屋に入ると皆和巳さんを見て歓声を上げていた。もう俺の存在はないに等しい。多分、隣にいても見えてない。


でもそれでいい。変に目立ちたくない。

大勢の人に囲まれ、関心を引き付ける彼を遠くから見守った。


……大事な人だ。誇らしい気持ちが何よりも勝つけど、ちょっと寂しい気持ちもある。昔も今も同じで、ここにいるけど、俺は和巳さんのおまけで、いてもいなくてもいい。


子どもの時から、常に二番目。彼とは比較され続けてきた。




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