雪が降る田舎町
(はあ…最悪だ…)
せっかく宮廷魔術師になったというのに昔とほとんど変わらない。
国王様からの命令で、こんな雪以外何もない田舎町に飛ばされるなんて…
こんな自分を変えたいと魔法学校時代は魔法の勉強に打ち込んでた。
だけど、どれだけ頑張っても結局はこの一言で片付く。
(けどあんた魔族でしょ…)
今でも憶えてる、当時仲の良かったと思っていた同級生から言われた言葉。
あの言葉はずっと忘れない。
たまに思い出して泣きそうになる。
確かに、教師達からはその才能を誉められたが同級生達からは嫉妬や差別を受けていた。
そして現実を変えるために魔法学校時代の貴重な三年間、青春を投げ捨てて狂ったように魔法の勉強ばかりしていた。
おかげで、魔法学校を首席で卒業でき、王国魔法協会に入ることはできたものの、彼氏どころか友達一人さえできずに暗黒の時代を過ごしていた。
だけど、王国魔法協会ならそのようなことはないだろうと髪型やメイク、服装も変えてみてキラキラの魔女生活を送ろうとしたものの待っていたのはただの重労働生活。
王国魔法協会に入ったら入ったで、今度は魔族とのハーフというだけで泥仕事ばかり押し付けられる。
(もう嫌だよ……)
(お嬢さん大丈夫かい)
(え…あ…え…)
まずい……私の昔からの悪い癖のネガティブ独り言が出てしまった。
しかも、学生時代まともに人と会話をしてこなかったせいで他人と話すことが全くできない。
(ん……)
(あ…大丈夫です…お構いなく…)
(そうかい、まぁ何かあったら誰かに相談したらいいさ)
それができたら独り言も言ってないし苦労もしてない。
そう言いかけてしまったが言えない自分がなんとも情けない。
しかしここは本当に寒い。
白い息が止まらない。
周りの景色も畑の中に家がポツポツとあるだけで全く景色が変わらない。
ガタンと音が鳴り馬車が止まった。
どうやら目的地に着いたらしい。
(お嬢さん着いたよ…ここがボカ・デ・ルポだよ)
(ありがとうございます。お金は…)
(あぁ、そんなのいいから大丈夫だよ。)
(それよりも自分のことに使いなさい)
(まぁ、そもそもここらへんでお金を使うところなんてそんなにないがね)
(あ…ありがとうございます)
いいひとだったな…馬車の御者のおじさん。
そういえば大学に行くときにいつも乗っていた馬車の御者のおじさんもいい人だったな。
そんなことを思いながらも私は整備されていない雪道を歩き出した。
寒いな…。早く宿屋を見つけないと…ていうかこんな田舎に宿屋なんてあるのだろうか。
しばらく歩いていくと酒場を見つけた。あそこでこの町について聞こう。
酒場の扉を開けるとカランカラン…と小さな音が鳴った。
(いらっしゃ…あら…あなた、ここの町の人間ではないわね・・・)
(あ…そうです。実はこの町に少し用がありまして…)
(こんな何もない田舎町に用事なんてあるのかい?)
(はい…実は仕事の関係でしばらくこの町に滞在することになりまして…宿屋を探していまして…このあたりに宿屋は…)
(この町に宿屋なんてないよ。あってもすぐに潰れるさ)
(え…うそでしょ…)
嫌だ…野宿だけは絶対に嫌だ。こんな寒いところで野宿なんてしたら凍え死んでしまう。
なんとかしないとさすがにまずい…。
(あの…もしよければ泊めてもらうことって…)
(すまないね…うちに空き部屋はないんだ…申し訳ないが他をあたってくれないかい)
(あ…そうですよね…あはは…は)
まずい…本当にまずいことになった。
とりあえず早く泊めてくれる優しい人を探さないと。
・・・しばらく探してみたものの、田舎だからなのかそれ以外の理由があるのかわからないが、この町の人たちはかなりよそ者には厳しい事だけはわかった。
ずっと歩きだからお腹も減ったし寒くてもうだめかもしれない。
あぁ…どこからかイケメンな男が出てきて、私のことを助けてくれないかな。
そんな都合の良いことなんて起こるはずもないけど……。
(こんなところで寝転んで、どうかされましたか)
(え・・・噓でしょ…わぁ…イケメンだ…)
(あ…ありがとうございます……ところでお姉さん、あんまりこのあたりでは見ない顔だけど、どうしたんだい)
(すっごくリアルな夢だ…神様…こんな私のために最後にイケメンと会話する夢をみせてくれてありがとうございます)
(あぁ・・・こりゃだめそうだな…ちょっと失礼するよ…よっと…意外と重いね)
え……え…え・・・私、今イケメンにお姫様抱っこされてる。
てか、抱きかかえられて分かったけどこの人すごい筋肉してる…服で隠れてよく見えないけど。
あと腰のところに長い剣をかけてある・・・もしかして騎士様かな?
これ本当に夢なのかな…夢なら…夢なら…もしかしたらいけるかもしれない。
(あの…贅沢言わないんで私の願い、叶えてくれませんか)
(願いですか…はぁ……まぁいいですけど)
マジで何言ってんだこのお姉さん……寒さで頭おかしくなってるのか。
(キスしてもらっても……)
(あ…すいません、自分世帯もちなんで…)
世帯持ち・・・妙にリアルな夢……あれ…なんか眠たくなって…
(ん…お姉さん・・・あれ、もしかしてこれ本当にやばいやつ…お姉さん…お姉さん…お姉さん・・・え)
(おい嘘だろまじかよ…おねえさん気をしっかり保つんだ…くそまじかよ…早く家に帰らないと)
・・・・しばらく走って
(開けてくれ、フロスティ・・・)
(あなた…お帰りなs……は……お前…また女家に連れ込んd…)
(ちがうから・・・この子道端で倒れてたんだよ)
(はぁあ?・・・お前もっとマシな言い訳あっただろが)
(マジでやばいんだって・・・君の回復魔法で治療してあげてくれ…)
(いやそんないきなり……はぁ……もうわかったわよ…家に入れてあげるから…とりあえずこの子の新しい着替え用意してあげて)
(わかった…君の服でいいよな。)
(うん・・・私の服でいいから早くとってきてよ…はぁ・・・マジでどういうことなのよこれ)
(てか、この娘…よく見たら耳が長いし髪の色も魔族に多い雪のように白い色・・・もしかして・・・)
(服ここに置いておくね・・・どうしたんだい…その子に何かついてたり・・・)
(この白銀色の耳飾りに中が青色に染められたきれいなマント・・・もしかしてこの子…王国魔法協会に所属している魔法使いなんじゃないかしら…)
(おい・・・マジかよ…てことはこの子がうちに来る予定だった魔女の女の子なのか・・・)
(まだ断言はできないけど、こんな田舎町に来るような人達ではないしね…とりあえず、この子を治療するわ…少し離れてて…)
(わかった)
(…はぁ・・・生命をつかさどる精霊たちよ…その身に宿りし偉大なる癒しの力を私にお与えください…レキファシオン…)
(おぉ…やっぱり君の精霊魔法は凄いな…いつ見ても美しいよ…)
(それはどうも…まぁとりあえず、この子はこれで大丈夫だと思うから、二階にある空き部屋のベットまで運んであげて…)
(わかった…マーナガルムの使ってた部屋だよね?)
(そう。そこの部屋のベットで寝かせておきなさい)