21.別れのカウントダウン
「…凄く似合っているわ、アディ。こう見るとやっぱり皇女様なんだなぁって実感する」
着替え終わったアディの姿を見て、私は感嘆の息を漏らした。赤い生地にあしらわれた白いレースがアディの動きに合わせてひらりと舞う。赤と白のコントラストがアディの紅い髪によく似合っていた。上品ででもどこか気高い女性の雰囲気がでていて、如何にも皇女様って感じだ。
「ありがとう、エリィ。こんな素敵なドレス、借りてしまって本当にいいの?」
嬉しそうにはにかみながらも、少し戸惑い気味でそう尋ねるアディに私は問題ないと頷く。
「買ったのはいいけど、着こなすのが難しくて結局着れていなかったやつなのそれ。こうやって似合う人に着てもらえて嬉しいわ」
「そう?…ならお言葉に甘えさせてもらうわ」
ふと、部屋の扉が叩かれた。どうぞと声をかければウォルターが顔を出した。
「エリワイド様、旦那様がお戻りになりました。至急、ご友人と共に部屋にくるようにと」
※※※
エドゥアール様の自室に入ると、そこには正装に身を包んだエドゥアール様の姿があった。…あれは#うち__グシュマーク商会__#の限定商品。ナイスミドルの大人な色気を最大限に引き出すをテーマに作製した紳士服だ。流石はエドゥアール様。完璧に着こなしている。大人の色気が半端ない。
…って、今はそんなことを考えている場合じゃない!アディのことを何とかしないと!
意識を取り戻した私はぎゅっと拳に力を入れると、エドゥアール様に声をかけようと口を開く。
「あ、あの…」
「話は聞いている。そちらの方がベルバッハの皇女殿下か」
やはり父様から話は聞いているようだ。エドゥアール様の視線が私の隣にいるアディへと向く。アディは滑らかな動きでカーテシーをした。
「お初にお目にかかります。私はベルバッハ第一皇女、アデライト・ベルバッハです。この度はこちらの身内騒動で多大なるご迷惑をおかけし、申し訳ありません」
すると、エドゥアール様も王族に対する礼をとった。
「エドゥアール・ブルーナイトです。この辺境を治めております。国王より皇女殿下の身柄を厳重に保護するよう仰せつかりました。皇女王宮には王宮の準備が整うまでこちらの城でお過ごしいただきます。準備が整い次第、王宮へお連れいたします。ベルバッハ皇帝陛下とは王宮でお会いいただく予定です」
「分かりました。しばらくの間お世話になります」
※※※
「はぁ、緊張した…」
バタンっと扉が閉まり、アディはそう呟きながらドサッと部屋のベッドに腰を下した。一方の私は流石に彼女のベッドに座るわけにはいかないので、近くにあったソファへと腰を下ろす。
ここはアディのためにエドゥアール様が用意した客室。王宮に移るまでの間、アディはここで過ごすことになるらしい。
「皇女なんてしばらくやっていなかったから、正直調子がでなかったわ。…どう?私、皇女になれてた?」
「ふふふ、大丈夫よ。とても気品に溢れていたわ。流石、アディね」
「良かった。安心したわ」
ほっと安堵した表情を浮かべるアディ。私もつられて頬を緩めた。
「…というか、何あのナイスミドル?!ブルーナイト辺境伯があんなにイケオジだったなんて、私聞いてないわ!」
「え?」
ガバッと勢いよく立ち上がりそう叫ぶアディに、私はぽかんと口を開ける。そんな私を気に留めることもなく、アディはブツブツと呟きながらこちらへと向かってきた。
「いや、流石エリィのハートを打ち抜いた男。ただ者ではないだろうと思ってはいたけど、あそこまでは予想外だわ。各国を渡り歩いてイケオジ図鑑を書き綴ってきた私だけど、あそこまでのイケオジは正直、初めて見た気がする」
そっか。アディはエドゥアール様と会ったの今日が初めてだったものね。つい知っているものだと思い込んでいたけど、知らなかったんだ。…なんだろう。エドゥアール様の魅力が伝わるのは嬉しいんだけど、ちょっともやもやする…。
「あ、安心して。別に好きになったとかそういうわけじゃないから。というか、私は昔から心に決めていた相手がいるし」
そんな私の心情に気付いたのかアディはそう付け足した。その言葉を聞いてホッとすると同時に、疑問が浮かんだ。アディの好きな人?
「…それってもしかして」
「ええ。私がお兄さまと喧嘩してベルバッハを出るきっかけになった人。実はね、その人もお兄さまが連れてくるらしいの」
「えっ?!」
アディの言葉に私は驚愕の声をあげる。アディはその人との昔話を私に聞かせてくれた。どうやらその人はアディとお兄さん(現ベルバッハ皇帝)を昔から守ってくれていた騎士らしい。シスコンを拗らせた皇帝からさりげなく守ってくれていたらしく、アディにとって唯一の救いだったそうだ。
「でもね、私がその人と婚約をしたいと言ったら、お兄様が激怒してしまって、私を探したいというその人の願いも聞き入れず、しばらく遠征に行かせまくったらしいの。本当に申し訳ないことをしたわ…」
うわぁ。アディのお兄さん本当にぶれないなぁ。アディの事、本当に好きでしょうがないんだろうね。その騎士さん、理不尽に当たられて可哀そう…。
「まぁそのおかげで、お兄様がその人を解雇しようとしてもできないくらいに、功績ができて、今も近衛騎士をしているらしいんだけどね。今回は、その人自らお兄さまの付き添いに名乗り出てくれたらしいわ」
「そうなのね。久々の再会か。会えるのが楽しみね」
私がそう言うとアディは眉を下げた。瞳には不安の色が浮かんでいる。
「…二人とも物凄く心配をかけてしまったし、きっと怒っているかも…」
私はアディの手をとると、その手をぎゅっと握った。
「…怒っているかもしれないけど、こうしてアディを迎えに来てくれるんだからちゃんと向き合ってくれるわ。しっかり自分の気持ちを伝えれば大丈夫よ、きっと」
どうでもよく思っているのならばわざわざ迎えになど来ない。心配して怒ったりしない。それは愛されている証だ。アディにはきちんとお兄さんと向き合って、幸せになってもらいたい。
「そうよね。しっかり気持ちを伝えて心配をかけたことを謝らないと。…ありがとう、エリィ。少し勇気が出たわ」
アディの言葉に私は笑顔で頷いた。きっとアディが皇女として向こうに帰ってしまったら、こうして気軽に話せる機会は殆どないだろう。こっちは貴族、向こうは王族だ。いくらアディが気にしなくても、周囲がそれを許さない。
―なんだか寂しくなるなぁ。
迫ってくる別れの時を惜しむかのように私とアディは、イケオジについて夜まで語り合ったのだった。




