20.皇女発見
「一先ず、国境の警備にはベルバッハの皇帝が来ることを周知しました。ベルバッハは例の大鷲に乗ってこの王宮に来るようです」
ブランセント王国にとっての飛竜が、ベルバッハでは大鷲となる。ベルバッハの大鷲はかなり大きく、人を一人乗せるて空を飛ぶのは容易いくらいの飛行力があるのだ。懐くまでには時間がかかるが、非常に賢いため手なづければとても役に立つ。そのため、ベルバッハでは大鷲が非常に重宝されていた。
エドゥアールからの報告を聞いた国王はそれに頷くと、顎に手を当てながら言った。
「そうか。では着陸に備え庭には人を近づけさせないようにせねばな」
大鷲の爪は非常に鋭く、着陸に巻き込まれれば命を落とす可能性もある。戦争の火種を作らないためににも、庭は関係者以外立ち入らないようにした方が安全だ。
その言葉を聞いたステファーヌは直ぐに答える。
「それでしたら既に準備を整えてあります」
「ほう、流石はステファーヌ。よく気が利く」
「光栄です」
その時、執務室の扉が叩かれた。どうやらステファーヌ宛に緊急の手紙が届いたようだ。国王からの許可をもらい、手紙を開封したステファーヌは、手紙に書かれた文字を読み顔を青ざめさせた。
珍しくうろたえる宰相の姿に、国王とエドゥアールは視線を合わせ目配せする。
「どうした、ステファーヌ」
国王の問いかけにステファーヌは動揺を落ち着けるように一息置くと、静かに口を開いた。
「…皇女が見つかったそうです」
「なに!?」
ガタンっと音を立てて国王が椅子から立ち上がる。エドゥアールも驚きを隠せない様子でステファーヌを見た。
「一体、どこにいる?」
「それが…ブルーナイト辺境伯、貴方の城に娘と共に」
「私の城に…?」
ステファーヌの言葉にエドゥアールは目を丸くした。まさか自分が探していた皇女が自分の城に簡単に入り込んでいるとは思いもしなかったのだ。
「しかもその皇女の正体というのが…3年前から娘と親しくしているアディという少女で」
「…アディ、聞いたことがあるな。確か、其方が娘の頼みで匿っていた少女もそんな名前だったのでは?」
「…はい。まさにその娘です」
王の問いかけにステファーヌは心底不甲斐ないという様子で答えた。なぜ、いかにも訳ありのあの少女が皇女であるという考えに思い至らなかったのか。まさかこの国の宰相ともあろう自分が、隣国の皇女を匿っていたという事実にステファーヌは己を恥じた。
「がははは!ということは行方不明当初から、其方、知らず知らずのうちに皇女を保護していたのか!」
これは傑作だというように国王は笑う。一方のエドゥアールは自分も知らず知らずのうちに皇女を城に入れていた罪悪感があってか、何とも言えない表情を浮かべている。
「アディ、確か数日目にエリワイド嬢を尋ねに来た少女として報告を受けていたな。…まさかこれほど近くにいたとは…」
基本的に人にあまり関心を持たないエドゥアールは、ウォルターからの報告を深く聞いていなかった。害がなければ問題ないと受け流していたのである。まさか、それがあだになろうとは…。エドゥアールの米神にグッと深い皺が刻まれた。
「ふははは!こりゃ、してやられたな。この国で1位2位を争う優秀な官僚がこうも欺かれるとは…流石はベルバッハの皇女。…そして、気づかないうちにそれを保護している其方の娘も中々だな」
「ははは」
国王の言葉にステファーヌはもはや笑うしかない。行動を起こすたびに何か大きなものを釣り上げてくる自分の娘に、流石自分の血を引いているだけあるなと思わざる負えなかった。
「一先ず、私はブルーナイト城の警備を強化しに一旦辺境に戻ります。城に皇女が居ると情報が洩れれば、襲いにくる輩もいるかもしれませんからな。王宮の準備が整い次第、連絡をください。皇女を連れてまいります」
「ああ、わかった」
「私も急ぎ、皇女様を迎える準備をメイドたちにさせてきます」
「頼んだぞ」
速足で出ていく二人の後ろ姿を見ながら、国王は騒動の中心にいるステファーヌの娘のことを思い浮かべた。…流石はステファーヌの娘と言うべきか。やはり面白い。ぜひとも息子たちのどれかの嫁になってもらいたかったものだ。残念ながら、何度か打診をしたものの王子妃などという役職は自分には務まらないと断られてしまった。ステファーヌにも娘が嫌がることはさせたくないと拒まれたため、仕方がなく諦めたのだが、やはり惜しいことをしたものだと思う国王なのであった。




