18.行方不明の皇女
「…ここにいたのか、ウォルター」
エドゥアール様の衝撃の過去を知り、ウォルターとナタリーと共に部屋に戻ろうとした所で、エドゥアール様と出くわした。表面上は平然を装うけれど、先程聞いたことが頭の中でこだまして、何とも言えない気持ちになる。
「旦那様、どうなさいましたか?」
「少し確認したいことがあってな。…何があったのか?」
おそらく、私たち3人が揃っていることが珍しいのだろう。エドゥアール様が訝しげに尋ねた。ウォルターはいつもと変わらぬ表情で平然とそれに答える。
「今し方、新しい部屋に案内をしてきた所です」
「…ああ、そういえばそんなことを頼んだな」
するとエドゥアール様の紅い瞳がこちらを向く。自然と視線が絡み、私の中に少し緊張が走った。
「バルコニーと言っても、安心はできない。星を眺める時は必ず側仕えに一言かけるように。主の身に何かが起きた時、一番責任を感じるのは他でもない側仕えだ」
エドゥアール様の言う通りだ。私に何かあった時、多分一番責任を感じるのはナタリーだ。先ほど、自分が寝ている間に主の身に何か起きた時の私の気持ちが分かりますかとナタリーに言われ、流石に反省した。これからは星を見る時は一緒に見ると今しがた約束をしたところだ。
私はエドゥアール様の言葉に素直に頷く。
「はい。肝に命じます」
ふと背後からドタドタと慌ただしい足音が聞こえる。振り向くと騎士の人が何やら慌ただしい様子でこちらに駆けてきた。
「エドゥアール様!」
「…何事だ」
「国王陛下からの勅命です。急ぎ王宮へ来るようにと」
「…タイミングが悪いな。…分かった。直ぐに向かう。竜の準備を頼む」
「はっ!」
王宮から勅命なんて一体何があったんだろうか。慌ただしく立ち去っていくエドゥアール様達を見送りながら、私とナタリーは顔を見合せるのだった。
※※※
「えっ!?じゃあ、行方不明の隣国の皇女がこの国にいるってこと?」
「そうらしいぞ。辺境の騎士たちが話しているのを聞いた」
園芸商会の近況を聞くために、レオがいる温室に私とナタリーは赴いた。園芸商会の報告を聞いたところで、今朝、エドゥアール様が王宮に緊急召喚された話をレオにする。その話を聞いたレオは、皇女の捜索の件で何か進展があったのではないかと言った。どうやら国内各地で皇女の捜索を行っているらしい。私たちは、行方不明の皇女が生きていて、尚且つこの国にいるという衝撃の事実に目を丸くした。
「皇女に何かあれば責任を問われて戦争になりかねないから、国を挙げて捜索をしているらしいぞ」
「…確かに。こうして皇女が生きてこの国にいるという話が広まってしまった今、皇女を狙おうとする不届き者もふえるでしょうね」
「そうだな。…まぁ、これだけ探しても見つからないレベルで平民に紛れているなら、意外と平気そうな気もするけど」
今になっても見つからないってかなり凄いことだよね?よく平民に紛れ込めているなぁ。王族なんて顔も知られているし、周囲を欺くの大変だと思うんだけど…。
「いくら成長しているとはいえ、当時の姿の面影は残っているわうよね?なんでそんなに見つからないのかしら?」
「それが、参考になる姿絵が全くないんだってさ」
「え…?」
姿絵が全くない?王族ともなれば姿絵の一枚や二枚、勝手に描かれそうな気がするけど…。
「何でも、現皇帝が皇女を溺愛するがあまり、日ごろから外に出る時には顔が見えないように隠しをつけさせたんだとさ。だから皇女の顔をほとんどの人間が見たことがないらしい」
「噂は聞いたことあったけど、大分、重症なのね、隣国の皇帝」
妹の顔を誰にも見せないとか、妹を溺愛しすぎてもはや引くレベルだよね。その妹さん、よく嫌がらなかったな。…いや、嫌だったから逃げ出したのか。隣国の皇女が行方不明になった原因は、皇帝の度を越えたシスコンにあったのかもしれない。
「…何か隣国の皇女様がかわいそうに思えてきたわ」
私の言葉にナタリーとレオも遠い目をしながら頷く。
「そうですね。少し同情します」
「だよな。俺だったら気が狂いそう…」
レオは自由人だもんなぁ。束縛とか絶対に我慢できないタイプだよね。
「幸せになれるといいね。その皇女様」
「そうだな」
「そうですね」
どこか遠い視線を向けながら、顔も知らぬ皇女の身の安全と幸せを祈る私たちなのであった。




