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第八十六話 幼女を死地へ

「本当に連れていく気ですか」


 体育祭の準備を少しだけ手伝い、生徒会長と共に正門まで行くと赤いメガネをかけた小学生くらいの子がいた。

 三つ編みを後ろから肩にかけ紺色の髪色が大人しい印象を人に与える。ま、大人しい印象を与えるのは傍から見て落ち込んでいるように見えるからでもあるが。

 海原が駆け寄り話すが中々言葉が出ないようだ。


「どうしてそんなことを聞くんだい?」

「いや、勝手な妄想です」


 不登校でボッチを小学生段階で貫く人が、他の誰かと触れ合いたいと思っているケースはかなり稀。

 俺なら放っておいて欲しいし例え、人の前に出されてもまともに話せない自信がある。


「勝手な妄想ではありますが、経験談です。あと、彼女の将来が心配です」


 アメと接点を持っていい影響なんてさほどない。

 英語を本気で学びたいと言うなら話は別だがアメが幼女を目の前に理性を保っていられるとは到底思えない。


「心配痛み入るよ。でも大丈夫。あゆはああ見えて人懐っこいんだ」

「そのようですね」


 目の前では海原が女児に抱き着かれるというアメという変態には天国のような光景が広がっている。

 勢いよく抱き着かれたからか海原は尻もちをつき優しく背中を撫でていた。


「あゆ。お疲れ様」

「ちっ」

「え、今この子舌打ちしなかった?」


 それとも眉間にしわを寄せて嫌そうに放った投げキッスか。


「お兄。外では話しかけんなって言ってんでしょ」


 この兄妹、思ったより仲が悪い。そして口も悪い。


「ごめんよ。でも連れて行きたい所があってね」

「場所教えて、一人で行く」

「危ないからダメだよ」

「は? お兄がなんの役に立つの? 生徒会長は万能なの?」

「そう言われると参っちゃうな」


 コントのように話が進んでいく。

 海原に抱き着いたまま嫌悪感丸出しの顔をされても可愛らしいというか、好きな子の前で強がってる感が勝る。


「紹介するよ。僕の妹、高城あゆ」


 紹介された流れであゆを見ると目があったがすぐに逸らされてしまった。逸らし方がなにか怖いものを見た時のように。一瞬固まり一瞬で逸らすといったよう。そこまで顔が怖いとは言われないんだけど。


「あ、あの! た、たたた高城あああ、あゆです......」

「山田龍輝だ」


 言葉に詰まりながらも名乗ってくれた。だが俺とは一度も目が合わない。

 誰でも噛みつく野犬ではなく、ちゃんと兄に対してだけ嫌悪を持っているようだ。

 どっかの可愛げのない後輩も見習ってほしい。

 それだと海原に向くか。やめよう。


「大丈夫か。海原」

「ん!」


 にっこり笑顔で手を差し出されたから手をっとって引くと海原は立ち上がった。


「大丈夫ですよ。ちょっとお尻痛いですけど」

「そうか」

「いたいのいたいのとんでけ~って誰かやってくれないかな~」

「帰ってアメにやってもらえ。喜ぶぞ」

「アメリアさんはちょっと、背後をとられたくないので」


 暗殺者かなにかか。

 海原は海原でアメに対してちゃんと警戒心を持っていていい。


「これから俺の家に行くんだが、大丈夫か?」

「えっ!? はは、はい」


 兄の生徒会長とはあんなにスラスラ話せるのに俺とはこんな。

 これはあれか。


「先輩、彼女、典型的なコミュ障ですよね?」

「だろうな。だからといってなにも出来ないけどな」


 数分前に顔合わせした他人にとやかく言われたくはないだろう。

 相談してきたら乗る程度でいいんだ。他人には。

 俺の家までの道を女子二人を前に歩いていく。帰り道に自転車に乗る確率が低くなっている。

 

「妹さんが不登校になった理由って聞いても平気ですか」

「あゆ。山田くんがお話があるって」

「いやあの」


 本人に聞きにくいからその兄であるあんたに聞いたんだよ。


「な、なんでしょう?」

「いや、なんで不登校になった。三年という短い時間に」


 中学の三年と違い、小学校の三年なんて正直記憶に残らない程のあっという間に過ぎて行った印象だ。

 その短い期間になにがあったというのか。


「えっと......好きな人が出来て.......で、でも言葉には出来なくて」

「ん? うん」

「その人見てるだけできゅってなって、苦しくて......」

「んん? ん?」

「でも一緒にいたくて」


 つまりはあれか? 好きな人が好きすぎて辛いから不登校になったと?

 え、想像以上に乙女で反応に困る。


「わたしは分かりますよ。その人が好きすぎて他男子が記号に見えてくるんですよね」


 今すぐ目と脳を医者に見て貰え。


「分かってくれる?」

「はい」


 どうしてそこで通じ合えるのか。だがどこか違和感を感じるのはどこだろう。

 ......一緒にいたい? 好きな人と? だから不登校になった?

 つまり好きな人とは不登校になれば一緒にいられるわけだ。

 俺は生徒会長の方へと視線だけ向けた。

 それに気付いた生徒会長。にっこりとした笑顔で無言で「なんだい?」と問いかけられているかのよう。

 流石に違ってたら恥ずかしいし今は視線だけ送っておこう。

 そのまま、俺の家まで行き玄関を開けた瞬間、俺の前をするりとなにかが駆けていった。


「あああ~! 幼女! 幼女の匂い! 感触! 気配!」

「生徒会長。俺が、本当に連れていくのかと聞いたのはこれも含まれるんですよ」


 恐怖のあまり動けないあゆからアメを引き剥がしながら言った。

 こいつ、思ったより力強い。


「それも込みで大丈夫だと思ったよ。アメリアさんは傷つけないと思ったからね!」

「そうデス! アメは幼女の味方! 傷つけるものをこちら側に誘う者!」


 さっすが幼女狂の教祖様。またの名をロリコン製造教団。

 あゆに手を伸ばそうとするアメにまず先にやることを教えた。


「自己紹介が先だろ普通」

「ホームではハグが挨拶デスヨ?」

「ここはお前のホームじゃねぇ。目ギンギンにして涎垂らしながらお前は挨拶するのか」

「幼女なら!」


 威張れることではない。ある意味ぶれなくてかっこいいけど。

 自己紹介を済ませた後、ゆっくりとアメとあゆの境界線を取り払った。

 アメの身長が海原と少し高いくらい。そんなアメがあゆを抱えるとあゆの頭にアメの顎がくるようになる。

 ぴったりサイズでしっくり来てしまう。


「さて、今日も練習しようか」

「アメ、遊ぶのはあとだ」

「龍! 今度休日に遊びに行きましょう!」

「急になんだ」


 あゆを抱えたままアメが急速に距離を詰めた。


「もっとリアル幼女を!」

「海原じゃ不安か」

「龍はアメか鈴音のどちらか選べと言われたら選べマスカ?」

「なるほど。どっちもどっちってことだな。あゆも連れてとなると生徒会長の許可もいるな」


 流石に未成年を保護者もなしに連れ歩くのは色んな意味で怖い。

 それに、メンバーに加えなければ来ないかもしれない。


「あゆの意思は確認したか?」

「行きましょう?」


 アメが聞いても回答は中々出てこない。


「生徒会長。今度の日曜空いてますか」

「ん? まあ、空けようと思えばかな」

「なら空けてください。前髪役員先輩も誘って息抜きしましょうよ。根を詰めすぎてもいいことないですから」


 しっかりと退路を塞ぎつつ、俺の目線はあゆと会長を行ったり来たり。

 それが伝わったのか、会長は答えた。


「うん。いいよ。伊吹くんには僕から連絡をいれておくよ」

「助かります」


 アメを見ると満足そうな笑みを浮かべている。自分で聞けばいいものを丸投げしやがって。

 改めてアメがあゆに聞くと小さく「行く」と答えた。

 そして、誰か後ろの白い死神を止めてください。殺意が凄いです。


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