第七十九話 心躍る体育祭?
「それじゃ、体育祭の競技決めるぞ~」
担任の小畑先生が気だるそうに黒板に競技を書いていく。
流石体育教師というべきか、紙などを一切見ずに競技を並べて行った。
「おん。こんなもんか」
「せんせー玉入れはないんですか?」
「ああ、忘れてた」
「選抜リレーも騎馬戦もないっすよ」
「ここにないもん順番に言ってってくれ」
そうでもないかもしれない。適当かよ。いや、そうだとは思ったけどさ。
クラス中から不足競技が出て少し競技が増えた。
「んで、今年からお前らのモチベーションアップのために二人三脚は男女でやることになった」
「それって女子と合法的に触れ合えるってことですか!?」
「んまあ、そうだな」
「おっしゃ! 楽しくなりそうだな体育祭! 先生! おれが出ます!」
高校での男女合同競技となると賛否が出るのは想定内だが、生徒側の主に男子には好評のようだ。
それを聞いた女子達の目といったら冷たい。三股したとしてもこんな冷えた目線は注がれないだろう。男子からすれば合法的な接触が出来るが女子からすれば特にこれといったメリットもないからな。
「二年一組は、武内、館林、山田が出る。あと、一年の海原海老名だな」
「なんで決まってんだよ! ずりーぞぉ!」
「立案者だからだ。今回はあくまでエキシビジョンマッチ形式。得点は入らない。どうしてもやりたいというのなら先輩か後輩を当たるといい」
まだ不満があるのか相手がいないのか男子生徒の勢いは落ちた。
そして柚子に注がれる温かくない視線。
出場の名前を連ねただけで誰と誰がペアなのかこのクラスならすぐに分かるだろう。妬ましさを視線に込めて柚子に送る。
だが本人達は気に留めた様子もない。
「まあ、安心しろ。来年は男女で出てもらう。それまでの我慢だ」
「来年は絶対ですよね!?」
男子生徒が確認すると小畑先生は子供には見せられない顔で笑った。
「ああ。勿論だ」
ただこれだけなのに薬物の売人にしか見えない。
男子生徒からすれば朗報であり女子生徒からすれば悲報となる魔法の言葉。
中には密かにわくわくしてる人もいるかもしれないが。
「そんじゃ、決めてくぞーやりたいのに手上げてけ」
競技決めも多少のごたごたはあったが時間内には決め終わった。
放課後、生徒会室に向かった俺と柚子は必要備品のチェックと二人三脚の詳細ルールを決める仕事が残っていた。
「それじゃあ、武内さんにはここで二人三脚のルールを決めて貰っている間に、僕らは大きさを計測に行こうか」
「なんの大きさですか?」
「テントの大きささ、小畑先生から聞いてないかい?」
「なにも一切全く」
生徒会長曰く、テントは昔から使用している本部用に一つだけあるが、同じ大きさだと一学年を覆うには足りないらしい。ので新しく計測して買おうということらしい。
運動部が運動する中、計測することになったのだが。
「あっ......メジャー忘れて来ました」
小さな声でぼそっと前髪で目元が隠れた生徒会役員の生徒が口にした。
測るものを忘れたら何もできない。全員で取りに行くものでもないし、俺が全ての言い出しっぺ。
ここは俺が取りに行くべきか。
「あ、俺取ってきます」
「おお、悪いね」
小走りで校舎まで戻った。
「ん。戻ってきてどったの」
バックを持っていない手ぶらの雅樹が校舎を徘徊していた。
かなり暇なんだろう。顔が暇すぎてとけてやがる。
「役員の子がメジャー忘れたんだと。丁度いいや、柚子と一緒にいろ」
「オレ、なにも出来ないぞ?」
「競技のルール考えるくらい出来るだろ」
女子が男子との競技を断固拒否した時の対処とか。雅樹じゃだいぶ不安だが頭は多いに越したことはない。
それに、柚子はヘイトを買っている。今時正面切って言う方が珍しいが念のためだ。
「そうだな。学校徘徊も飽きたしな」
雅樹と共に二階奥の生徒会室まで戻った。
「あれ、もう終わったの?」
「先輩!」
生徒会室には柚子と海原がいた。それと引き剥がしにくいからくっつかないで。
「いんや。メジャー取りに来ただけ。それとお届け物」
「オレが知恵を出そう! 絞り出せばカスくらいだすぜ!」
それ自分で言ってて悲しくならないのか。
机においてあった競技用のメジャーを回収し、雅樹と引き換えに海原を連れて再び校庭へと戻った。
「あれ、メジャーを取りに行ったはずでは?」
「人を連れてこないとは言ってないので。邪魔はさせませんよ」
「それならいっか」
生徒会長がそういうと靴である程度印をつけた。
「実際の大きさでどのくらいなんですか」
「それが結構曖昧なんだよね。新入生の人数によって広げたり狭めたり、この数字! ってのは決まってないんだ」
「小畑先生がやりそうなことだ」
「ま、当日は学年ごとでクラスはほぼ関係ないようなものだから」
つまりは学年さえ分かればいいと。適当すぎて拍手出来る。
「大まかにとってみようか。海原さんも協力してくれる?」
「はい。出来ることがあれば」
小畑先生の仕事の押し付けから体育祭に一枚噛むことになってしまった。
いつもなら体育祭も目立たないように適当に過ごして雅樹に惚れる女が増えて柚子が光を失う流れなのに今年はそれがない。
なのにいつも以上にワクワクするのはなぜだろうか。