第七十三話 目白押し!
「もう九月ですか。早いですねー」
「それ前にも同じようなこと言ってただろ」
「入学してからイベントが目白押しだからな。逆に秋からは二年以外は暇になるんじゃないか?」
「二年生は忙しいんですか?」
まあ、忙しいちゃ忙しい。
九月中に体育祭があり、十一月頭には文化祭、十一月と十二月をまたぐようにして修学旅行と行事がこれでもかと詰め込まれている。
浜辺高校の二年生学期末は毎年悲鳴が上がる。
「しゅうがくりょこう......」
俺の膝の上から魂が抜けた音がした。
顔は見えないが多分光がどっかにお散歩してらっしゃる。
「先輩、どこにも行きませんよね?」
ホラー演出バッチリに腰を器用にひねって俺の方を向く海原。
昼間じゃなかったら俺は失神する自信がある。
「流石に行かなきゃな。一応単位だし」
「そ、そんな」
俺の制服をぎゅっと掴み小刻みに震えている。
「わたしどこでお昼ご飯食べればいいんですか!」
「自分の席で食べればいいんじゃないか? または便所」
便所飯なんてやったことないし実際やる人がいるのか疑問だが、まさか自分の後輩が実際にやるとは。
「普通に不衛生だからやめときなさいよ。それにしても学年が違うと大変ねー」
「海原さん、他に友達とかいないの?」
「いないことはないですけど......一方的な友情とかだったら軽く死ねるなと思ってわたしからは」
「そこ尻込みするのか」
初対面から好き好き攻撃してきた人物の発言とは思えない。
「好きな人に好きと伝えるのと、赤の他人に友達? って確認するのではハードルが違いますよ」
「絶対前者の方がハードル高いだろ」
だがそれは一般論であり、常軌を逸するほどの物好きならばその限りではない。
例えば、爽やかイケメン先輩より普通の先輩を選ぶ人とかな。
「移動は新幹線ですか? それとも飛行機?」
「新幹線じゃなかったか?」
「じゃあ発車時刻までに間に合わなかったら欠席ですよね?」
「雅樹、前日家に泊めてくれ」
もう海原がなにをしようとしているのか分かった。よって事前に阻止する。
「やだなー先輩。わたしまだなにも言ってないじゃないですか~」
さっきまでのブラックホールはどこへ行ったのか。今目の前にあるのは希望の光に満ちた目だ。
まるで俺が修学旅行に行かないことが確定しているような。
「だいたい見当がつく。出発日当日に邪魔する気だろ」
「......違いますよ」
「その間がなによりの証拠だろ」
折角の一大イベント。風邪を引いたわけじゃないのに不参加は勿体なさすぎる。
海原と少し離れることにはなってしまってその間守るという仕事が出来ないがそれは仕方ない。
だからほっぺを膨らませてもダメ。
「まあまあ、海老ちゃんその辺で」
柚子がなだめると海原はほっぺの膨らみをしぼませた。
「体育祭と文化祭で思い出作って寂しさを凌ぐことにします」
「なにその原始的な凌ぎ方。電話でもなんでもすればいいだろ」
高校の修学旅行。当然スマホの所持は許されるし非常識な時間じゃなければ電話していても怒られないだろう。
俺がそういうと膝の上の後輩は目を大きくして口角がみるみる内に上がっていった。
「その手がありました! 毎日ビデオ電話しましょう! 先輩がお望みならバニーガールやナースだって!」
「人の性癖を大声で歪めるな。普通に部屋着でいい」
「先輩の?」
「自分の」
「もー『俺の部屋着を着ろ』だなんて......でもそうすれば毎日先輩を感じられて......」
海原がアメに毒されつつある。帰ったら元凶を潰さなければ。
去年と同じなら体育祭まではいるはずだ。
それと海原の発言力はこのクラスにおいて割と高い。
本人が意識してなくても可愛い後輩の言葉というだけで大抵の情報は通ってしまう。本人が違うと言っているのに。
今も数人のクラスメイトからの好感度が下がった音がした。




