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第七十一話 悪霊退散!

 神社からの階段を降りていると海原が急に階段を駆け上がり俺に迫ってきた。

 下駄で階段を駆け上がるな転ぶぞ。


「先輩今すぐ帰りましょう! 出来るだけ早く!」

「祭りはいいのか? 折角可愛い浴衣着てるのに」

「祭りは来年また来ればいいんです。ですが今回しか出来ないことがありますから! さぁ!」


 海原に手を引かれ宿に帰ってきた。

 当然ながら誰も部屋に居らずただ広い空間に二人という状況。

 そんな中、海原は浴衣を脱いでいた。


「お前っ! なに脱いでんだよ!」

「お風呂入るなら脱ぐでしょう!」

「脱衣所で脱げ。その恰好で......まさか海原お前」


 海原がなにをしたがっているのか理解してしまった。


「ふふん。折角貸し切り露天風呂があるんですから入らないという選択肢はないでしょう!」

「......分かった。前と同じにしよう。先に湯船に入っててくれ。俺は外で待ってる」


 静かな廊下、静かな部屋。

 人の話し声すら聞こえないこのVIPルームで聞こえるのは海原が着替えているであろう衣擦れの音だけ。

 生々しい音がさらにいやらしさを主張してくる。

 その内ガラガラと戸が開く音がしてバシャッ! という水音も聞こえてきた。

 広い空間を間に挟んでいるというのに外まで音がだいぶ聞こえる。


「せんぱーい」


 甘えたような声が聞こえてきてふすまをそっと開けると窓の向こうの温泉に海原が浸かっていた。


「先輩!」

「なんだよ」

「あ、いるんですか。こちらからは先輩の姿が見えないもので」

「マジックミラーの類だろ。ま、これで俺が着替えるところを見られる心配はないわけだ」


 俺は自分のバックから風呂セットと水着を取り出した。

 海原がアメに混浴でと言っていた時点でこうなることは薄々分かっていたしどこか期待もしていた。

 その期待を自分で台無しにしないように用意したもの。水着だ。


「先輩また水着ですか」


 海原の声音には不満の色がうかがえる。

 木製の床を歩いた先には大人が脚を伸ばせるほどの広さを持つ檜風呂があった。

 アニメなんかで見る超豪華な風呂と違って旅館に合わせ和風で素朴な印象。

 風呂の他にも石の台座みたいな物があるということは呼べばマッサージもしてくれるのかもしれない。


「文句があるなら俺は出る」

「ないですけど......裸の付き合いってあるじゃないですか」

「それは基本、仲がよくない同性同士がやるもんだ」


 裸の付き合いを通じて仲が良くなったりお互いを認め合ったり効果は様々。


「異性同士というのもあっていいと思うんですよ」

「それはもう完全に恋人という別のカテゴリーだ」


 男女で裸を見せあえるならそれなりに親しいわけだし、親しい男女が二人で風呂に入ればそこから先は十八禁。

 俺は今年で十七、海原は十六。十八禁の世界にはまだまだ遠い。


「結構温度高いな」

「そうですね。お家のお風呂より少し高いですね。でも外ですし風が吹けばこれくらいで丁度いいですよ。ところで先輩、どうして背中を向けるんですか」

「簡単だ。お前がなにも巻いてないからだ」


 俺の後ろには生まれたままの姿の海原がいる。

 バスタオルでも巻いているのかと思ったらまさかの全裸。慌てて視線を逸らしたが一瞬目に入った裸が頭から離れない。

 そうなると反応するのは俺の息子。鈴音さんの胸に潰されても全く反応しなかったのに変態か。


「人に背中を向けるということはどういうことか先輩なら分かりますよね?」

「うっ! 重い」

「柔らかいの間違いじゃないですか?」


 確かにスベスベでぷにっとした柔らかいナニカが背中に押し付けられている。

 ついでに海原が動くたびにぷにっとした中に立つ突起も感じられる。


「恥ずかしくないのか男にくっついて」

「人間って愚かですよね」


 急に悟るな。


「最初は彼女になりたっていう小さな目標だったのに、いつしか奥さんになりたい、子供を産みたいってどんどん欲が出るんですから。相手のことも考えず突っ走りそうになるんですよ。ね? 愚かでしょう?」

「自己分析がお得意なようで」


 いいかげんこの体勢もキツイから離れて欲しい。

 体重がもろにかかる腰がそろそろ限界。


「先輩は、わたしが先輩の子種を欲しがってると思ってるんですか? 変態」

「男に胸くっつけながら言われても説得力がない」

「ご褒美です。話したくもない過去を話してくれた」

「そうかよ。もう十分に貰ったから離れてくれ。腰が痛い」


 そう言ってはみたが海原の声は再び不満の色を帯びた。


「先輩の顔見てないんですけど」

「ん?」

「そうじゃなくて身体ごと向いてくださいよ!」

「だったらバスタオルでもなんでも巻け」

「お湯という無色透明な液体を纏っています」


 なんでもいいとは言ったが見えてたら意味がないんだよ馬鹿野郎。

 ただ、人間は愚かというのはその通りだと思う。


「分かったよ」


 欲に負けて後輩の裸を見ようとするんだから。


「やっと向いてくれました」


 身体を向けた俺に対し海原は愛しいものを見るような目で見てきた。

 これは理性が切れるのも時間の問題かもしれない。


「出来るだけ下を見ないようにするからあんまり離れるな」

「先輩からそんなこと言ってくれるなんて......」

「ただしくっつくな。適切な距離を保て」

「いーや」


 忍び寄る猫のように海原は俺の目の前に顔を持ってきた。

 これ以上の刺激は本当にまずい。今理性を失えば確実に海原を襲ってしまう。

 雅樹達が帰ってくる可能性がある今この場では一番避けたい。


「ふふ。先輩、今えっちな顔してますよ」

「どうんな顔か気になるな」

「必死に理性で欲望を押さえつけている顔」


 海原は俺の肩に顎を乗せるとそのまま融かしてきた。


「いいんですよ。少し乱暴にされてもわたしは受け入れます。さぁ、理性なんてものは捨ててわたしの身体を好きにしていいですよ」


 電流が流れたと勘違いするほどの痺れは正常な思考を奪っていく。

 落ち着こうとするたびに目の前の新雪が誘うように揺れ俺の理性という檻をぶち破ろうとしてくる。

 だが天は俺に味方したらしい。


「はーい! お二人さん! 仲良くお風呂ですかぁー!」


 異常なほどハイテンションな鈴音さんがドアを勢いよく開けて突撃してきた。

 おかげで俺の理性には無敵という最強のバフがつけられた。


「悪霊退散!」

「あいだっ!」


 海原が投げた桶が鈴音さんのおでこにクリティカルヒット。

 鈴音さんは木製の床にぶっ倒れた。


「次わたしと先輩の間を邪魔したらグルグル巻きにしてケバブ屋に持っていきますからね!」


 裸でおっそろしいことを言う可愛い後輩。

 理性はなんとか修復中だが、煩悩はしばらく落ち着きそうにない。


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